お前のせいだ
会う約束をしていた友人が待ち合わせ場所に来なかったので、電話をかけた。
「......出ないな」
「牧のやつ、なんだって?」
そう聞いてきたのは、俺が所属しているオカルトサークルの先輩、田端さんだ。
「それが何回かけても出てくれないんですよね。寝てんのかな」
もう一回かけて出なかったら諦めるかと思った矢先、スマホがピコンとメッセージの通知を知らせる。
「あ、やっと牧から返信来ましたよ。......なんだこれ」
「どうした?」
「牧からの返信が、"お前のせいだ"の一言だけなんすけど」
「なんだそれ? なんかお前牧に恨まれるようなことしたのか?」
「いや全く心当たりないっすね」
その後、「何のことだ?」と返信したのだが既読にもならず。
「しゃーない。今日は牧なしで肝試し行こうぜ」
疑問は残ったが、次に会う時に聞けばいいと思って一旦牧のことは忘れることにした。
「ということで始まりました、"悪魔の祟り"ツアー第二弾!!」
サークルの面々が注目する中、田端さんが場を取り仕切る為に声を張り上げた。
「近頃話題になっている心霊現象、その名も"悪魔の祟り"。この街のどこかに潜む悪魔の怒りを買ってしまうと悪魔に呪い殺される、というやつだ」
悪魔の祟り。
なんとも子供騙し感がすごい名前だ。
「悪魔の怒りを買う条件は"悪魔の札"を剥がすこと。そしてなんと、我々オカルトサークルは悪魔の札がある場所を突き止めたのです!!」
おお、と数名がわざとらしく声を上げる。みんな分かっているのだ、これがやらせだと。
うちのオカルトサークルは名ばかりのサークルだ。実際にオカルトを熱心に研究している奴はほとんど、いや全くいないだろう。
いわゆる、オカルトを言い訳に肝試しやら心霊スポット巡やらで大学生同士の交流を深めちゃおう、というサークルである。
「前回は廃病院でしたが、今回はお墓です。目的は悪魔の札探しですが、もしかしたらこの墓に眠る死人たちも呼び起こされてくるかもしれません!!」
きゃーっと、女性陣の声が上がる。わざとらしい。
その後も田端さんからルートや注意事項などの説明が続き、ようやく肝試しが始まった。
「札の準備は出来てるか?」
「はい、ばっちりです」
もう一度言おう。これはやらせなのだ。
俺は今回参加する側ではなく主催側。そして俺の仕事は"悪魔の札"をこの墓のどこかに隠すことだった。
「本当は前回と同じく牧の仕事だったんだけどな。まあお前がいてくれて助かったよ」
「いえ、楽な仕事で良かったっすよ」
終始楽しげな雰囲気が続き、誰かが俺が隠した札を見つけたことで"悪魔の祟り"ツアー第二弾は無事に終わった。
「結局、あれから牧の返信は無しか。何だったんだあれ」
自宅に帰ってきた俺は、スマホの通知を確認しながらそう呟いた。
「"お前のせいだ"、ね」
その時、俺の脳内に奇妙な声が響いた。
『ドキドキ!! "人間の泣き叫び"ツアー第二弾!!』
気づいた頃には、俺はなぜか悪魔とのかくれんぼをやらされていた。
『前回はピピピと音を鳴らして場所を教えてくれたから簡単だったけど、今回はどうかな? あ、ちょっとやらせとか言わないでよ』