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ビー玉皇帝ラビ  作者: 亜留間次郎
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第六話 全米ビー玉トーナメント

ゴールデンウイーク初日、俺たちは空港に集まった。

俺は外国なんて行くの初めてだ…

隼人(はやと)は現実感の無さそうな顔をしていた。

「大会でアメリカに海外遠征、なんて贅沢な部活なんだろう…」

悠真(ゆうま)も変な顔をしていた。

「オヤジもお袋も詐欺じゃねえかって疑ってたぞ」

芽依(めい)は不安そうだった。

「お父さんからエレン先生の機嫌を損ねるなってキツく言われました」


アンネリーゼとエレン先生は海外旅行とか普通に慣れてるみたいだった。

俺は英会話なんて全く出来ないんだけど、アメリカで迷子になったら死ぬんじゃ…

飛行機の中で悠真(ゆうま)がこっそり耳打ちしてきた。

「全員分の飛行機代とかホテル代ってアンネリーゼが出してるんだよな」


「そうらしいな」


「言っちゃ悪いけど、アンネリーゼってフランスにもドイツにも友達いないんじゃねえか」


「かもしれない…」俺もなんとなく気付いてた。


芽依(めい)もコッソリささやいてきた。

「アンネリーゼって人付き合いの距離感おかしくない?」


「俺もおかしいと思う…」

あいつ、自分の国でボッチだったんじゃ、だから誰も知らない外国へ来て金をばらまくことで友達を…

これ以上考えたらダメな気がしてきた。


アメリカに着いてから飛行機を乗り換えて俺たちはニュージャージー州の海辺にある町ワイルドウッドについた。

全米ビー玉大会は有名な観光地にある砂浜で開催されるって聞いてたんだけど、空港から出るとちょっとイメージと違っていた。

悠真(ゆうま)は周囲を見回していた。

「なあ、ネットで調べたらビーチで泳いでる画像ばっかりだったんだけど」


「微妙に寒いよね」隼人(はやと)は寒くて震えていた。


「今は五月よ、ココはハワイみたいな南じゃ無いわ新潟と同じぐらい北よ」芽依(めい)も寒そうだ。


今の季節って完全にシーズンオフなんじゃ…

俺たちはハワイみたいなイメージで薄着で来てしまったことを後悔していた。

エレン先生とアンネリーゼは普通に長袖の服を着ていた。

俺たちにも寒いって教えて欲しかった。

とりあえず、大会が始まるまで時間があるので俺たちはホテルに荷物を置いて遊園地に来た。

情けないけど寒いと泣きついてアンネリーゼにおそろいのパーカーを買ってもらった。

パーカーの背中には擬人化した手足の生えたビー玉の絵と英語で『Mibsters』と書いてあった。

芽依(めい)はスマホで辞書を引いていた。

「Mibstersって何かしら?」


「キャラクターの名前ですか?」


アンネリーゼが教えてくれた。

「アメリカじゃビー玉選手、Marble shootersのことをMibstersと呼ぶのよ」

「コレは全米大会のマスコットよ」


「それで同じのを沢山売ってたんだ」


エレン先生は遊園地の中にある建物をを指さした。

「アレがビー玉ミュージアムデス」


「ビー玉の博物館なんてあるんだ」


俺が驚いているとアンネリーゼにツッコミを入れられた。

「世界中にあるのに、日本に無いのが不思議よ」


Art Marbleと書かれた展示コーナーに綺麗なビー玉が並んでいる。

「綺麗だな…」隼人(はやと)芽依(めい)が目を輝かせてる。


アンネリーゼが解説している。

「それはドイツで19世紀後半に作られたルッツ・ビー玉ね」


「そっちの変な模様はエンド・オブ・デイ・ビー玉よ」


「終わりの日ですか?」芽依(めい)が良く分からなそうな顔をしている。


「ビー玉工場でその日の最後に余った材料を全部入れて作ったビー玉のことよ、希少な規格外品ね」


Sulphide Marblesと書かれたコーナーには透明なビー玉の中に小さな人形が封入されたのが並んでいた。

「アンネリーゼからもらったマリー・アントワネットのビー玉と同じだな」


「そうよ、ソレもスルフィド・ビー玉の一種よ」


「中に若くて綺麗なマリー・アントワネットの像が入ってるでしょ」

「女帝マリア・テレジアが永遠の美しさを保てるように宮廷魔術師に作らせた一品物よ」


「それで3万ユーロもするのかよ」


「本当の価値がわかる人間ならもっと高く買うわよ」


俺たちが博物館から出て海岸に行くと大会の準備が始まっていた。

「去年まで夏の大会しかなかったけど、今年からスポンサーが入って春夏秋の三大会になったの」

「このあたりって毎年6月になるとハリケーンがやってきて竜巻で吹き飛んだりして大荒れになるから春の大会は5月頭にやるのよ」


とりあえず、今日はホテルで一泊して明日の朝から大会が始まる。

部屋は二人で一部屋

エレン先生と芽依(めい)

隼人(はやと)悠真(ゆうま)

俺とアンネリーゼ…


「なんで金があるのに部屋をケチった」


「ビー玉全米大会で予約が埋まってたのよ」


「男女相部屋はまずいだろ」


「別に裸で過ごすわけじゃないんだし、ベッドは別よ」

「それに私の裸なんか見てもしょうがないでしょ」


いやちょっとまて、俺がコイツの裸を見慣れているのは夢の世界の話で…

おちつけ、冷静に考えろ、夢の中で見た物は全て妄想だ。

俺は現実にアンネリーゼの裸を見たことは無い。


「じゃあ、先にシャワー浴びるから」

ソレだけ言うとアンネリーゼはバスルームに入っていった。

ちゃんと脱衣所があるので目の前で脱いだり着替えたりはしない。

しばらくすると普通にパジャマに着替えて出てきた。


落ち着け、俺はからかわれているんだ。

大人の対応を求められているんだ。

俺も普通にシャワーを浴びて着替えよう。


俺は落ち着いて普通にシャワーを浴びて寝た。

当たり前だけどアンネリーゼは何もしない。

男女相部屋だから何か起きるなんて考えすぎだ。

普通だ、人間は普通で当たり前が当然なんだ、母さんがいつもそう言ってたじゃないか…


翌朝、海岸に出るとアンネリーゼは会場のVIP席にいる人を指さした。

「ほら、あれがスポンサーのワイズマン財団会長よ」


「うわぁ、アメリカのIT長者じゃないですか」


「スゲぇ世界で五指にはいる富豪がスポンサーかよ」


「回りがワイズマン・ソフトの広告だらけですね」


「あっちにイギリスの大手投資会社ガンダルフの大きな看板があるぞ」


芽依(めい)が目を輝かせていた。

「司会者の女性ってナオミ・メンターさん」


「ギャラいくらだろ、贅沢な大会だな」


悠真(ゆうま)は金勘定しか頭にないの」芽依(めい)が怒ってるよ。


俺たちがキョロキョロしているとアンネリーゼが仕切った。

「ルールは簡単、10フィートの円の上に十字に並べた13個のビー玉を取った数の多いチームの勝ちよ」

「優勝者はビー玉キングとビー玉クイーンに選ばれるのよ」


「それって…」


「ラビがキングで私がクイーンになるに決まってるでしょ」


「ペア参加だから芽依(めい)隼人(はやと)で組みなさいよ」


「俺は?」


悠真(ゆうま)は自分のビー玉が無いでしょ」

「シュートするビー玉は自分のを使うのよ」


「俺も高いの買おうかな…」悠真(ゆうま)はちょっと悩んでるみたいだった。


「賞金とか出るのか?」


「賞金はないけど、チャンピオン2名は奨学金が授与されるわ」


「ねえラビ、なんか殺気立ってる参加者があっちコッチにいる気がするよ」隼人(はやと)が不安そうにしている。


「返済なしの奨学金だからね、ビー玉で学費をなんとかしたい子供が殺気立ってるのよ」


「そんなに殺気立つほどの事かよ!」


「ジュニア部門は参加年齢が18歳未満だから、大学だけじゃなくて中学や高校も奨学金で通えるの」

「貰える学費に上限が無いから、貧乏でも学費の高い学校に入れるのよ」


悠真(ゆうま)が状況に気づいた。

「それって…もしかして…アメリカの高い学校って学費が数千万円行くって聞いたけど…」


「そうよ、ビー玉で勝てば医学部でもどこでも行けるのよ」


「俺たち奨学金は要らないから…」


隼人(はやと)はいるんじゃないの」


「えっ僕?」


「そうよ、外国人でも外国の学校でもOKだから優勝すれば高校大学の学費が助かるわよ」

「お母さんみたいに奨学金の返済に苦労しなくてすむわよ」


「いや、ちょっとまて、アンネリーゼは自分達が優勝するの当然みたいな顔してるけど無理だろ」


「私を負かしておいて勝つ気がないの!」


「ビー玉で負けたくない!」俺は強く断言してしまった。


「勝つ気でいくわよ!」


砂浜には64カ所もの3メートルほどの円が作られていた。

参加者は128チーム256人ってコトだよな。

一回戦ごとに半分になっていくんだ。

全米大会って結構本格的なんだな。


一次予選で半分の64チームが消えた、トーナメント7試合で決着が付く。


俺たちは順調に勝ち上がった。

しかし、準決勝までくると強敵しか残っていない。

準決勝の相手は黒い縁の太いメガネをかけた少年とは言えないガリ勉みたいな男と高校生ぐらいの女の子だった。

サークルの横に大きなディスプレイが立っていて選手のプロフィールが表示されている。

対戦相手のプロフィールを見ると年齢17歳11ヶ月と15歳2ヶ月って男の方は参加制限ギリギリいっぱいだな。


「相手は兄妹のペアみたいね」


試合が始まると俺は容赦なく必殺技をかました。

「魔弾カン・ディグラック」

前は100回に1回成功するかの技だったのに、あの日アンネリーゼと対戦してから自由に使いこなせるようになった。

「ふっ、相手にならなかったわね」アンネリーゼはドヤ顔で満足そうだった。


「なんか対戦相手が泣いてるんだけど」


「今って5月よね」


「そうだよな」


「アメリカは9月入学が普通だから入学金の支払期限がまだあるわよね」


「そうなんだ…」


「プロフィールの下のところ、将来は弱者を救える弁護士になりたいって書いてあるから」

「貧乏そうだし、お兄さんの奨学金狙いでしょ」

「時期的に入試は終わって合否が出てるでしょうから、合格して入学金の支払いに悩んでるところじゃないの」

「この大会で負けたら入学金が払えなくて終わりでしょうね」


「ちょっとまてぇ、ヘビーすぎるだろぉ!」


「敗者に情けは無用よ!」


俺はここに来てよかったんだろうか…

決勝戦の相手は…

なんかすごい金持ちそうなデブ&ブスカップル…


周りに世話係みたいな人まで付いている。

俺たちは試合開始直前にとんでもない攻撃を受けた。

対戦相手の横にいる背広姿の男が俺に向かって日本語で警告してきた。

「イーサン・カウチ選手が使うビー玉はどれも1個1万ドル越えです」

「試合中に傷一つでも付けたら損害賠償の訴訟を起こします」

「高価な美術品だから小さな傷でも全損と見なします」


予想外の攻撃に俺がうろたえていると、アンネリーゼは俺のポケットに手を突っ込んでマリー・アントワネットのビー玉を取り出すと負けずにドヤ顔で言い返した。

「ふっ1万ドルがなによ、コッチは3万ユーロよ!」


相手が驚いていると芽依(めい)が後ろから自分の神秘の青(ファイアンス)のビー玉を出して英語で言い返した。

「THE 1万1千ドル」


悠真(ゆうま)が後ろから俺にささやいた。

「コイツら訴訟で脅して勝ち上がってきた卑怯者だ、遠慮するな」

「そうです、負けないでください」普段は怒らない隼人(はやと)まで怒ってる。


「おまえら自分の試合はどうした?」


「一回戦で負けました」


「そうか…」


試合開始前の準備運動は札束で殴り合いになった。

アメリカの試合ってこういうのアリなのかよ…


俺は卑怯者だけには負けられない。


試合が始まるとハッキリ言って弱い、雑魚だった。


今までで一番弱かったと言っても良かった。


残念な決勝戦はあっさり終わった。


相手は不正試合だ訴えると騒いでたんだけど、主催者の弁護士が大会妨害で訴えると大人の力でボコりかえしてくれた。

正直いって後味の悪い大会だった。


表彰式が始まるとビル・ワイズマン会長が俺にビー玉キングの王冠をかぶせてくれた。

なんか一生懸命話しかけてくれてるけど俺にはどうでも良かった…

司会のお姉さんがキスしてくれたけどなにも感じない…

あぁ、俺が準決勝で負かした兄妹が泣いてるよ…

虚しい…ビー玉の試合がここまで虚しかったのは初めてだ…

俺が放心しているとアンネリーゼが肘で突っついてきた。

「ちょっとラビ、勝利者インタビューなんだけど、勝手に通訳させてもらうけど後で文句言わないでよ」


「もう好きにしてくれ」


アンネリーゼが俺の代わりに何か英語で喋ってる。

俺には英語が解らないけど観客が沸いてる。

あれ、なんだろう、俺が負かした兄妹が嬉しそうに俺の手を掴んで振り回してる。

すごい感謝されてる感じがする。

俺はアンネリーゼに聞いてみた。

「なんて言ったんだ?」


「奨学金の権利を準決勝で戦った好敵手(ライバル)に譲るって言ったのよ」

「この人、9月からイエール大学の法学部に入学するんだって」

「将来は必ず弱者の味方になるって言ってるわよ」

「妹さんも奨学金で医学部目指すって」


俺は少しだけほっとした、表彰式が終わろうとしたとき遠くからすごい音がしてきた。

隼人(はやと)が異常に気付いた。

「戦車がこっちに向かってくるよ、州軍の戦車みたいだけどイベントに出るのかな」


「軍人が何か叫んでるぞ」


「逃げろって言ってるのよ!」英語が解る芽依(めい)が叫んだ。


俺たちは大慌てでビーチから町の方へ逃げた。

戦車はビー玉大会の会場を踏み潰して行った。

戦車は会場を突っ切ると、その場で反転して俺たちに向かってきた。


「なんでコッチに来るんだよ!」


俺たちがパニックになっているとアンネリーゼは自分のビー玉を握りしめて謎の呪文を唱え始めた。

「四元の精霊宿りし賢者の石よ、我バビロンの神官ジウドスラの名において命ずる」

「風よ我が元に集い敵を討つ顎となれ」

なぜか俺にはアンネリーゼが唱えている呪文が理解出来た。

戦車を中心に空気が渦を巻きながら集まっていく。

ビーチに突然発生した竜巻は何十トンあるのかわからない大きな戦車を空高く巻き上げていった。

そして、空に舞い上がった戦車は海に放り込まれて動かなくなった。


後でニュースでやってたけど、戦車を盗んだ犯人は見つからなかったらしい。

監視カメラに人が乗り込むところは映ってなかったし、誰も乗っていなかったのに突然動き出して暴走したんだって。

ビル・ワイズマン会長が狙われたとかいろんな憶測が飛び交っているけど、俺にはどうでもいい話だった。



日本に帰ったアンネリーゼが自分の部屋に入ると聖人の姿を模した人形がせわしく動いていた。

「ジウドスラよ、皇帝は我の言葉に返事をしてくれなかった、悲しいぞ…」


チョビヒゲの人形もせわしかった。

「10万ドル取れる我のキスに無反応だったぞ!」


「申し訳ございません」


「それより、あの戦車はゴーレム化しておりました」

「このような真似をする者はギルガメッシュしか考えられません」


「おのれギルガメッシュめ、七たび殺しても再び転生したのか!」


チョビヒゲの人形も叫んだ。

「皇帝が狙われるぞ!」


葉巻をくわえた人形も叫んだ。

「八つ裂きにして八度殺してやる!」


有名な科学者を模した人形も叫んだ。

「ギルガメッシュの現世の姿を探さねば!」


興奮した四賢者にアンネリーゼは決意を秘めて静かに宣言した。

「私が全てに代えても皇帝をお守り致します」




全米ビー玉トーナメントは実在する大会ですが、作中の都合で現実とは一部ルールを変えています。

https://www.nationalmarblestournament.org/


All the Marbles

https://www.youtube.com/watch?v=vahgtjHqp_k

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