幼馴染は聖剣を引き抜き、俺はその鞘を引き抜いた。
とある田舎の農村。
サガは一般農民として生きていた。
「ユシア、遊ぼう!」
「分かった」
いつも通り、幼馴染のユシアと遊ぶ。
もう少し大きくなったら農作業の手伝いをしなきゃいけなくなるが、まだ6歳だから許されている。
勿論ユシアは女の子だ。
「今日はなにをするの?」
「隠れんぼでも……なにあれ?」
表情の変化がない彼女を引っ張って遊ぼうとしていると、町に鎧を着こんだ兵士達が入って来た。
なにか荷車の様な物を引いている。
「何だろう?」
「そういえば、父様が勇者の選定式があるって言ってた」
「本当!?」
サガは自分が勇者になった時のことを考えて、胸が踊った。
ちょうどそういうことに憧れる時期なのもある。
荷車に乗っていたのは、ボロボロの剣が刺さった岩だった。
よくある、力押しでは引き抜けないけど、選ばれた勇者なら簡単に引き抜けるというものだ。
首都やその他都市にも勇者は見つからなかったから、ようやくこの田舎までやって来たのだろう。
「では、これより勇者の選定式を行う。村中の十歳以下の子どもを連れてこい!」
兵士のリーダー格の人が声を張り上げ、選定式が始まった。
勇者の可能性がある十歳以下の子供達が剣を引き抜こうと奮闘するが、びくともしない。
遂にサガの番になった。
神様に祈りながら剣に触れ、全力で力を入れてみる。
ズズ と音が鳴り、期待を抱いたけど……それ以上の反応はなかった。
……どうやら、サガは勇者ではなかったらしい。
「では、次の者」
「やっぱりそうだよね」と考えつつ、どこか期待していた自分を恥じていると……周りから歓声が上がった。
サガが視線を上げ、剣の方を見ると、ユシアがいた。
ボロボロだった剣は綺麗に金色に光り輝き、神々しく見える。
「勇者が見つかったぞー!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおお』
一瞬ユシアの目がこちらを向いた気がしたけど、すぐに兵士長と放す彼女の父親に向き直る。
サガが呆然としていると、彼女は親に見送られて、兵士と一緒にこの国の首都へ向かっていった。
せめて一言伝えて別れようと思い、走り出そうとしていると……視界の端に、剣と同じ岩に刺さった鞘をみつけた。
「忘れ物だ!」とその鞘をスッと引き抜いて、再びユシア達の方に走る。
「おーい、忘れ物だよー!」
サガの声を聞いた兵士が振り返り……驚愕の表情を浮かべた。
兵士長に何かを耳打ちし、彼らの歩みが止まる。
そんな人たちに近づいて、
「忘れ物ですよ」
「君……これを岩から引き抜いて来たのか?」
「はい」
◇
黒く、逞しい筋肉。
右手に握られた斧には火が灯っていて。
牛の様な顔と角に、深紅の目。
「オオオオオオオオオオオオオ!」
魔王四天王の中で最強と言われる炎怒のミノタリオンは、鼓膜を破るような咆哮を轟かせた。
「やるぞ」
「ああ」
「そうね」
「分かりました」
パーティーのリーダーである、勇者ユシア(16)が聖剣を片手に突っ込んでいく。
振り降ろされた斧を身軽に躱し、その腕に切れ込みをいれる。
「オオオオオオオオ」
「ウォーターポンプ!」
ミノタリオンが口から発した炎に対抗する様に、パーティの魔法使いのキャスタが水魔法を使った。
水が炎を全て鎮火し、そのままミノタリオンに襲い掛かる。
元宮廷魔術師で、賢者とも言われる彼女に魔法で勝てる訳がない。
奴は顔についた水を振り払い、向かってくるユシアに向かって、横薙ぎに斧を振るう。
かなりのスピードと質量で、当たったらヤバそうだが、ユシアは一瞥もくれずに走り続けた。
そして、その斧は彼女の寸前で止まった。
「ヘッ、こんなもんか!?」
聖剣の鞘を持っているサガ……ではなく、パーティの戦士のセンシンが受け止めたのだ。
ソロでSランクの冒険者をやっていた腕は伊達じゃない。
「オオオオオオオオ!」
ミノタリオンがさらに力を込めてセンシンを吹っ飛ばし、彼は岩に叩きつけられた。
いくら硬い彼とはいえ、少し血が出ている。
「ハイヒール」
そんな傷を癒すのは、パーティーのヒーラーである神官のサガ……ではなくヒララさんだ。
最高位の神官の娘で、死んですぐなら蘇生もできる凄腕である。
「オオオオオオオオオオオオ!」
いよいよミノタリオンの近くに迫り、聖剣を輝かせるユシアに向かって斧を振るうが、軽々しく避けるか、センシンが受け止めるかして、全く当たらない。
「アースランチャー」
キャスタの土魔法がミノタリオンの顔に降りかかり、視界を塞ぐ。
その間にユシアが斧を握っている太い右腕を駆け上がった。
「オラオラ、こっちにもいるぞ」
センシンが左側から攻撃し、注意を引いた。
左足で地団太を踏むが、彼には当たらない。
そして、腕を登っていたユシアは煌めく聖剣を振りかぶった。
「アッパーパワー」
強化まで掛けられる有能なヒララさん。
「終わりだ」
「ま、待て! 後ろを見てみろ、こっちには人質が……」
ユシアの剣が一瞬止まり、背後を見渡すと……ミノタリオンの部下にナイフを突きつけられた……サガがいた。
大きな荷物を背負い、聖剣の鞘を抱いている。
「こいつがどうなっても……」
「フレアバスター」
何の躊躇もなくキャスタが魔法を撃った。
獄炎に包まれるが、そんな中でもサガは微動だにせず、ピンピンしている。
「よし死ね。聖剣解放」
「グアアアアアアアアアアアアアアアア」
ユシアの一撃が、ミノタリオンの頭を吹っ飛ばした。
◇
「よく頑張ったぞ。乾杯」
「カンパーイ」
ミノタリオンの城に近い町で、祝勝会を開催した。
まだ青年ではないが、飲んでいなければやってられなとばかりに飲みまくる。
「どうだったよ、俺の奮闘は!?」
「はいはい、吹っ飛ばされててダサかったわ」
「あれはワザとだよ!相手を油断させるテクニックってやつだ」
「いけません!ケガはなるべく負わない様にしなさい!」
「は、はい」
センシンが酔っぱらって大声で話始め、冷静にキャスタに叩かれ、ヒララさんに叱られた。
いつも通りの流れである。
テレレレレレ
そんな時、たまに素面で突っ込みを入れる程度だったユシアのポケットで、連絡用の魔道具が鳴った。
どうせ国王だろう。
「少し連絡してくる」
「おー、早くしろよ」
店の裏手で、連絡を始めた。
……チャンスだ。
「なあ、俺はパーティーを降りようと思う」
「おいおいサガよぉ。その話何回目だ?」
「それだけ重要な話なんだよ!」
酒のジョッキを机に叩きつけ、本題に入る。
「俺はもう力不足だと思うんだ」
「いつものことでしょ」
「今日の戦闘とか、人質になりかけたからな」
「こ、子分の1人の注意を引いてたじゃないですか」
「キャスタがワンパンできる程度ならほぼ意味ないだろ!」
そのまま勢いで押し切り、まとめていた自分の少ない荷物を抱えて、
「とにかく、俺は降りさせてもらう!」
「待って、サガさん!」
「ほっとけよヒララ。どうせ戻ってくるって」
「うるせぇ!今回こそは逃げ切って、田舎でのんびりスローライフを送るんだ!」
ユシアが戻ってくる前に、酒場の入口へと走る。
ドアを開けて外に飛び出した瞬間、誰かとぶつかって転んでしまった。
謝ろうと視線を上げ……体が固まった。
「どうした?サガ」
「ユシア……」
ぶつかった相手は、報告を終わらせたユシアだった。
言い訳しようとしたが、真っ先に首根っこを掴まれて、店の奥に引っ張られていく。
「ほら帰って来た」
「今回は早かったわね」
そんなセンシンとキャスタの声に虚しい気持ちになる。
店の奥にて。
怒りではなく、呆れた様な顔をしたユシアとの面談が始まった。
「さて……もう25回目だが、一応理由を聞いておこうか」
「俺は力不足なんだよ。もうお前らみたいな化け物に付いていけねえよ」
「足手まといにはなっていないだろう」
「……けど、役にも立っていない」
俺の聖剣の鞘には、無敵化の能力がある。
無敵化発動中は一歩も動けないが、全ての攻撃がすり抜け、誰も俺に触れられなくなる。
溶岩でも流されない限りは、傷一つつかない、安全な能力だ。
これのお陰で、足手まといにも人質にもならないが、一歩も動けないから戦闘どころか斥候もできない。
「荷物持ちくらいにしかなってねえんだよ」
「……いや、お前は重要な役割を果たしている」
彼女は、少し言葉を止め、胸に手を当てて、
「お前がいないと、私は強くなれない」
「……さいですか」
こう言ったら聞こえがいいかも知れないけど、これほぼ無表情で言ってるからな。
元々表情のレパートリーが少ない彼女だが、少しくらい顔を赤くしてくれても良いのではないだろうか?
どうせ逃げられないから、ユシアに引っ張られて、酒の席に戻った。
そして、今後の方針について話し合う。
「魔王軍四天王は全員倒した。あと残るのは親衛隊と、魔王本人のみだ」
「どうせあの引きこもりは出て来ないわよ。さっさと攻め込みましょう」
「賛成!どうせ定期連絡でも急かされてるんだろ?さっさと終わらせようぜ」
「そうですね。これ以上、苦しむ民を見ていられません」
「ああ、スローライフを」
満場一致で、魔王と最終決戦を行うことにした。
◇
途中、最上級のモンスター達が襲い掛かって来たが、なんの問題もなく蹴散らし、魔王城に辿り着いた。
黒と紫で彩られた、如何にもな建物が聳え立つ。
「悪趣味な城ね」
「絶対に魔王を倒すぞ」
「おー!」
ユシアが城の門を破壊して、玉座の間を目指す。
親衛隊に突っかかられることもあったが、ヒララが簡単に治せる程度であり、大した損害は出ない。
そんなこんなで……玉座の間に着いた。
「突入するぞ」
「応!」
扉を蹴とばし、遂に魔王と相対した。
赤黒い色に包まれていて、背中にはコウモリの様な翼がある。
その体は人より少し大きいくらいだが、その威圧感は凄まじい。
「貴様が魔王か?」
「その通り、我が魔王だ」
威圧感が一層強くなり、空気中の魔力が濃くなる。
正に魔王といった風格で……サガは、すぐに無敵化を発動させた。
奴は玉座から立ち上がり、
「では、殺り合おう……遺言は残して来たか?」
「その言葉、そのまま返させて貰おう」
「はは……ダークバースト」
「セイントクロス」
魔王が闇魔法をパなし、キャスタが聖魔法で対抗したが……押し負けた。
少し逸れたお陰で損害はなかったけど、彼女の魔法が押し負けるのは初めて見た。
「私は補助に回るわ」
「分かった。私とセンシンで挟み込むぞ」
「了解」
「お気を付けて」
ユシアが左側、センシンが右側から魔王に向かって駆けだす。
もう一度闇魔法を放ったが、キャスタの聖魔法をぶつけて逸らした。
「意図的に逸らしたか」
「力押しだけじゃないのよ」
魔法はキャスタが逸らし、安全に前衛の二人を通す。
先に辿り着いたユシアの剣を腕で受け止め……少し切れ込みが入るも、切り落とせはしない。
彼女はその硬さに動揺せず、身軽に横、斜めと連続で斬りつけるが、大きなダメージにはならない。
「その程度か!?」
「ッグ!」
聖剣を腕で受け止めて、腹に蹴りを入れた。
もろに食らったユシアは吹っ飛び、追撃を加えようとした魔王に、今度はセンシンが斬りかかる。
魔王は、センシンも吹っ飛ばそうと左腕を大きく振るったが、彼は剣を斜めに傾けてそれを流した。
「フッ、テクニックについてはユシアより俺の方が上だな。ディスブレード」
「小賢しい!」
剣の威力が上がる魔法を使い、下から斬り上げる。
魔王はそれを避ける為に、翼を羽ばたかせて飛んだ。
しかし、左側から跳び上がる影が。
「落ちろ!」
回復魔法を貰ったユシアが、素晴らしい跳躍力で上から剣を振り降ろした。
そこに、右下からセンシンが斬りかかる。
さらに、
「それは、全てを救う聖の波動。
祈りは天に届き、願いは必ず聞き届ける。
鮮やかな天の光が、我々の行くべき道を指し示すだろう。
白光に染まって、その涙に答えん。
全ての人類の祈りを背負い、目の前の巨悪を討ち滅ぼせ。
セイクリッド・エクステイン!」
珍しく詠唱をしたキャスタが、最高位聖魔法を放った。
即興の闇魔法で迎え撃つが、今度は詠唱した聖魔法が勝つ。
魔王を、巨大な光の奔流が飲み込んだ。
「やった……か?」
「フラグ建てないで!」
超高速でフラグを建築したセンシンを、キャスタが叱責した。
光が無くなって、魔王の姿が見えたが……やはり、まだ終わっていない。
「やるな」
戦闘員3人に囲まれて、危機的状況に陥っているにも関わらず、どこか余裕気に話す。
「では、我もそろそろ本気を出そう!」
空気中の魔力がさらに濃くなり、ドス黒いオーラを纏った。
今更ヤバいと思ったのか、ユシアとセンシンが剣を振りかぶり……
ドガン
いつの間にか、センシンが地面に叩きつけられていた。
足は複雑骨折し、あばら骨は何本か肺に刺さっていそうだ。
ヒララさんが回復魔法を掛けるが、治るまで少し時間が掛かる。
「一人目」
「させん!」
右足で彼を踏み潰そうとした魔王を、珍しく語気が荒くなったユシアが、タックルで魔王をずらした。
しかし、それは読んでいたのか、何かを溜めていた右腕を振り……ユシアの脇腹が消し飛ぶ。
ヒララさんが二人並立して治す荒業を発揮させて、何とか戦線を保たせるが、
「お前か」
ヒーラーを見つけた魔王は、飛び上がって口を開け、
「ダークブレス」
黒い炎を吐いた。
近くにいたキャスタがヒララさんの手をとり、テレポートして危機を脱する。
「狙うならこっちにしろ」
「降りてこい!」
剣士二人が跳び上がり、数回斬りつけるも、思いっ切り蹴っ飛ばされてしまった。
二人とも、かなりの重症を負う。
「期待外れだ。もう、終わらせよう」
魔王は両手で天を仰ぎ……漆黒の玉を作り出した。
見ているだけで、アレがどれほどの威力を持っているか分かる。
当たったら即死するレベルだ。
「一旦引こう!私のテレポートで……」
「待って下さい、まだユシアとセンシンが!」
テレポートで逃げようにも、ユシアとセンシンは別々の方向に吹っ飛ばされており、一瞬では逃げられない。
ヒララさんが必死に直しているが、まだ走れるほど回復はしておらず、テレポートは一度行った場所にしか使えないので、二人の場所にはいけない。
二人の足の速さを考えると、連れていけるのは一人だけだろう。
「俺はいい、勇者のユシアを逃がしてくれ!」
「でも、でも……」
誰かが犠牲にならなくてはならない状況。
「センシンの方を助けてくれ」
沈黙の中、無敵化を解除したサガの声が響いた。
パーティーの誰もが驚愕する。
「俺は、いいんだ。変えは効く。世界の為にユシアを……」
「いや、ユシアは俺がなんとかする。お前らは退避しといてくれ」
「そんな……」
「たまには俺を信じてくれよ。2年の付き合いだろ?」
「……信じましょう」
「ッツ!」
キャスタとヒララさんは、センシンの方に駆けていき、テレポートでどこかへ逃げていった。
そして、サガはユシアと向き合う。
「体はどうだ?」
「大体治ったが……逃げるのは無理だろうな」
「そうか」
そんな問答を続けて……サガはユシアに抱きついた。
全力の力を込めるが、彼女にとっては痛くもないのだろう。
「……一緒に逝ってくれるのか?」
「バカ言え、二人で生き残るんだよ。少し集中させてくれ」
聖剣の鞘の無敵化は、俺だけでなく所持品にまで適用される。
無敵化したら服や直接触れていない荷物も無敵になり、全ての物質を透過する。
だが、直接触れていても、地面などには全く適用されない。
その範囲は、俺の意識に依存しているのだ。
「お前は……ユシアは俺の物だ」
「……」
「絶対に守る」
魔王が腕を振り降ろして、黒珠を使うのを横目に見つつ、意識を明確にさせる。
ユシアは俺のだ……無敵化。
黒珠の近くから、城の床が破壊され、天変地異が起こり……サガとユシアもそれに飲まれた。
「ふう。これで勇者は倒せたか」
魔王は、自分で破壊した魔王城とも言えない平原を見渡して……一点で止まる。
勇者と良く分からない男は、生きていた。
「どうやら、上手くいったみたいだな」
後は勇者様に任せて、倒れていようとしたが、彼女に腕を掴まれる。
「え……え?」
「背負って戦う」
「おいおいおい!」
「しがみついていろよ!」
腕と足をフルに使って、駆けだしたユシアにしがみつく。
すごい風圧から、無敵化を発動しようとして……一つの事実に気付いた。
「防御は俺に任せてくれ」
「……分かった」
魔王の魔法がユシアの頭に飛んで来たが、その部分だけを無敵化し、すり抜ける。
もう何発か魔法を放つも、全て部分無敵化で凌ぎ切った。
足を攻撃されたら動けなくなってしまうところだったが、余り知られていない能力なのか、大丈夫だった。
「どうなっている!?」
「鞘の力だよ!行け、ユシア!」
「聖剣解放!」
ユシアは、聖剣の力を解放させて飛び上がり、空中に浮遊している魔王の上から斬りかかった。
奴は、腕で防ごうとしが、腕と剣が交錯する瞬間のみ、剣だけ無敵化してすり抜けさせ、
「「魔王を討つ聖剣の一撃」」
奴の頭に最後の一撃が刺さり、魔王は滅びた。
◇
魔王討伐後、満身創痍で倒れていたサガとユシアは、戻って来たキャスタ達に回収された。
そして、世界に魔王討伐が世界に知られた。
「よくやった、勇者達よ!」
ちょくちょく支援をしてくれてた王様に、俺たち勇者パーティは祝福された。
爵位が何だとか言ってたけど、元から上席があるキャスタやヒララも自由に生きたいセンシンも蹴った。
そして、遂にユシアの番になる。
「勇者ユシア、よくぞ魔王を討伐してくれた。爵位をやってもいいが……私の息子と結婚して、王族の一員となるのはどうだろう?」
式に、王様の息子が出てきた。
王族なことを笠に着て威張り散らすデブなどではなく、魔王で世界が揺らぐ中でも政治を安定させた才人である。
そして、普通に金髪イケメンだ。
彼は、ユシアの前に跪いて、
「あなたが、勇敢に戦う姿に惚れました。僕と結婚して下さい」
求婚した。
ユシアの返答は。
「すまない」
Noだった。
隣に並んでいるサガの手を取り、引き寄せる。
「私には、彼がいる」
「ユシア……」
「そうですか。まあ、大体分かってました。潔く引きましょう」
サガは、ユシアの顔を覗き込みつつ、一つの質問をした。
「お前、もしかしてこのために俺を連れまわしてたのおか?」
「さあな」
◇
白の一室。
部屋には天蓋付きのベットがあり、大きなシャワールームまで併設されている。
「な、なんか凄い装飾だな」
「本来は王族専用のベットルームだからな」
驚愕するサガに、ユシアが冷静に解説した。
「お前から浴室に入って来い」
「分かった」
高鳴る心臓を抑えて、汚れている体を洗い流す。
実は、サガは初体験なのだ。
用意されていたバスローブを着て、一人ベットに座っているユシアに話しかけた。
「次どうぞ」
「ああ」
今度は俺がベットに座って彼女を待つ。
絹が擦れる音、シャワーが跳ね返る音、その全てに心を震わせた。
「(落ち着け、多分ユシアも初だし、俺がリードを……あれ、あいつ初めて?いや、聞いたこともないし、襲われても大体の男なら吹っ飛ばすし……)」
今更、『ユシアも初めてなのか』とか考え始めたサガ君。
だが、風呂を上がったユシアを見た瞬間、その考えは吹っ飛んだ。
無表情なのは変わらないが、顔が赤くなっており、初々しい感じがする。
……わざわざ無粋な質問で雰囲気を壊す必要はないだろう。
「どうだ?」
「綺麗……だよ」
「そうか。では、始めよう」
彼女はベットに寝転がって両手を開き、
「魔王討伐で、お前は鞘の力で私を助けてくれた。だが、今日は私が鞘で、お前が聖剣だ。存分にそれを振るといい」
「……ああ」
聖剣は鞘に収められた。
正直、最後のユシアのセリフを書きたかったからこれ書いたのはある。
面白かったという人は、★★★★★をお願いします。
好評だったら、こういう一発ネタの短編を投稿するかもしれません。