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異世界になりたかった日  作者: 花見和の如く
閑話 いつもみたいな日常
4/4

4.猫が喋ったぁああ!!!!?

「おやすみなさーーい」

「おやすみーー」


 ボクがリビングに来たのは、丁度由起が部屋に入るタイミングだった。

 母殿はホッと息をつき、お茶を入れ始める。


 相変わらずボクには気付かない。


「そうね、由起も来年受験ですものね」


 ふと漏らすその言葉はボクにはどこか寂しげに聞こえる。

 そうか、由起……地方の国立大に行く、とか何とか言ってたっけ。

 なんてふと想起してみる。あの時の母殿、どれほど複雑な気持ちをもたれたのだろう。

 嬉しいような寂しいような、悲しいような頼もしいような。そして心配なような。


「……上手く、いくといいのだけれど」


 そう今日も母殿は一言。

 心中お察しいたすと、ボクは鳴き声を一つ。

 相変わらず変に名付けられた名前でボクを呼ぶ。


「あらワンちゃん。いらっしゃったのね」


 ……ワンちゃんって猫なのか? 犬じゃないのか? ボクは猫だぞ?

 いつもながら思うボクのツッコミ。勿論伝わるわけもなく、未だにボクの名前はワンちゃんだ。

 もうここまで来たらたとえ訂正する人が現れようともワンちゃんのままなのだろうけど、……なんか、なんだろう。うん……。


 さて、そんなことを思いながらボクは母殿の前で座る。そして眠くなったのでゴロリ。母殿は椅子から立ち上がりボクに手を伸ばし、頭を優しく撫でてくれる。

 相変わらず、気持ちがいい撫で方である。ボクはこの時間が、この世で一番好きな時間だ。


「ワンちゃん、明日も由起に、いいことがありますように」


 その言葉とともにボクは眠りに落ちる。ボクにとっては随分珍しい時間帯だった。


 ――。

 ――――。

 ――――――。


 いつの間にか、朝になっていた。リビングの床はすっかり冷たくなっていて、起きるとともに寒気がボクを襲う。

 でも精々あるのはその冷たさだけで不思議とそこまで寒いと感じない。それこそ寒気のあとは何も感じなかった。


 さて。不思議になっているとそこに


「待って遅刻するヤバヤバ!」


 ドタバタと慌てふためく女子高生が一人リビング現れる。案の定、由起だ。

 時計を見る。うん、これは遅刻するな。確定だ。


「ワンちゃん、ワンちゃんどこ!! 行ってきますのハグさせて!!」


 ボクは彼女の前に現れる。彼女はボクを見つけると勢いよくボクを持ち上げる。

 そして――。


「ふんぐ!」


 思わず「声」が漏れるほどの強い抱擁。

 ちょっと苦しい。

 しかしすぐその力は弱まった。


「あ、これだけでいいのか……?」

「え?」


「え?」


 ん、待て。今誰が喋った?

 明らかにボクの近くから、由起の声じゃない声が……。


 ……ん?


 待って普通に考えてこれって……。


「……え」


 由起は、絶句していた。ああ、そこからも明らかな気がする。

 今の声……。間違いなく。


「ね、猫が……」


 ボクの……。


「ワンちゃんが喋ったぁああ!!!!?」

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