3.乙女心な好きなもの
好きなものって不思議だ。
昨日好きだったものが今日好きでなくなってたり、今日好きだったものが明日好きじゃなくなったりする。
それは乙女の気まぐれか、それとも言っちゃえば、全人類共通なのか。
――よく分からない。
「あれ、由起。残すの?」
「ごめんお母さん」
久しぶりに食べた鍋。思いっきり食べることが出来なかったどころか、出された分すら食べられなかった。
単純に上手く出来てなかったっていうといつもと同じ味だったような気がするしそうでもない。かといって食欲がなかったわけでもない。
単に、口が変わってた。
「白菜も大分残しちゃったじゃん。由起好きなのに」
「ごめんね、好きじゃ無くなっちゃったみたい」
「ああ、そうなの……?」
それでもやっぱり白菜が好きじゃなくなってたのはショックだった。
数少ない私が好きな野菜。だったはずなんだけど……。
「うん、ごちそうさま」
そう言って残ってしまったものにラップをかけ、使った皿を洗う。
冷たい水が私の指を震え上がらせる。
「もうすっかり寒くなったね、お母さん」
「うん、そうね。もう12月だもんね」
今年もすぐ終わっちゃったな。少し寂しく思ってしまう。
来年の今頃は受験シーズン、ちゃんと上手くやっているだろうか。
「ああ、そういえば……」
ここで一つ、今日の学校のことを思い出した。
今日の朝、地味にびっくりしたあの話。
「そういえば?」
「そういえばあや、一裕くんと付き合い始めたって」
「おーー」
すぐ食いつく母である。
羨ましいよねーーと言葉を付け足す。
「まあそうね。由起、あなたも早くいい子探すのよ! 高校の青春はあとちょっとなんだからね!!」
「私はもう無理だよーー」
「そんなことないわ、フレーフレー!」
そしてここまでがいつものワンセット。相変わらず我が母ながら呆れてしまう。普通こんなこと子供にいったら嫌われるって……。まあでも私がこんな母でも嫌いにならないっていうのは、こんな母だったからだろうか。
「まあはいはい、ありがとーー」
適当に返す私。皿を洗い終わる。
「まあじゃあ、私部屋に戻るね」
「うん、おやすみなさーーい」
「おやすみーー」
そう言って部屋に戻ってベッドにごろり。
改めて少し、弱いため息をついてみた。