2.好きな彼。まだ来てない
恋愛は時に人を盲目にさせる。
その盲目は自己陶酔によるものか、はたまた相手の眩しさか。
江里 一裕くん。普段そんなに目立たないけど成績優秀。すごく優しくて、「すてき」って言葉が似合う人。
……私の、好きな人。
ずっと昔から真っ直ぐ見てて、ちょっとドジなところが可愛いなぁとか勉強教えてくれる時の姿が格好良いなぁとか、色々思っていたんだけど。
今日、その子から告白された。
「……」
びっくりした。私なんかに興味ないと思ってたから。
でも彼の目は真っ直ぐ私を見ていて、まるで夢みたいだった。
「……はい、よろしくお願いします」
そう答えて、しばらく沈黙。
……彼は、驚いたような顔をしていた。
「どうしたの?」
彼は答えない。ただ、少し彼は笑ってみせた。
なぜか……気まずい。
私は今OKしたはずなのに。ひょっとして聞こえないのかな、そう思ってもう一回言おうとする。
そこで彼が口を開く。
「そっか」
満面の笑み。彼のそれを見られて嬉しかった。
だからすかさず私は言う。
「ね、」
「?」
「ちょっと今から、一緒に行きたい場所があるんだけど」
行く場所は勿論決まっている。思い出の場所――彼と初めて会った場所。
あの綺麗な景色を、彼ともう一回見てみたい。そう思ってのことだった。
珍しく雪が降り始める。
私は思わず見惚れて、そこで彼が口を開く。
「ね、さ」
「……何?」
「雪って、綺麗だよね」
「……。うん、」
そこでまた沈黙が始まって、その日はすぐに彼と別れた。
――次の日、私はご機嫌に学校に登校した。
彼のことを思うと自然と歩みは軽くなり、悩みも吹き飛ぶ。
ああ、これがリア充の感覚だろうか。
そんなことを思いながら小さく笑う。そして教室に着いて、前側の扉を開ける。
教室を見渡す。彼はまだ来ていない。
「何よ、あや~~。随分とご機嫌じゃん」
そう言って私に話しかけるのは由起。私の親友。
「まあね」
「何があったん~~? ちょっと気になるなーー」
「えーー、それは言えないなぁ」
「ほぉーーん」
そう言うと由起は私の顔を覗く。
「これは、恋の方で何かいいことがあったのかな」
「え、えーー。なんでよ!」
「だって顔に書いてあるもん」
「ふへ、えええええ」
相変わらず由起の察しはいい。正直、何も隠し事できる自信が無い。
思わずため息を一つ。
どうしようかなと途方に暮れる私を、由起は余計に面白がる。
「全く~~、誰だ誰だ~~? どうしたんだーー?」
言わなくてもこれはバレてしまうだろう。仕方ない。ちょっと言ってみるか。
「その……。付き合うことになりました」
「おーー! よかったじゃんーー!! いやーーようやくか。それを聴けてとても嬉しいよ」
「うん……」
それでと、由起は続ける。
「それで、お相手はやっぱり邦彦くん?」
「え……いや違うよ」
「え、そうなの? じゃあ誰??」
ずっと相談していたのに何を当たり前のことを訊くのだろう。
「えっと、2組の――」
再び周りを見渡す。うん、まだ来てないみたい。とか思おうとしたけれど、考えてみれば他クラスだから来るわけがない。
思わずそんなバカをして、少し私は恥ずかしくなった。