1.雪が降る夜
あなたの知らぬ間に、時間は過ぎている。
あなたの知らぬ間に、世界は変わっている。
あなたはそんな世界でも、この世が好きだと言えますか?
少し霞んだ真っ黒な夜空。賑わう夜の商店街。
「私、好きな人がいるの」
僕に対して目を背ける君は、申し訳なさそうに呟いた。
「……そっか」
「ごめんね!」
間髪入れずに出す君の明るい声も、どこか弱くて。
僕の口はそっか、という言葉を繰り返す。
君はまた俯く。少し困ったように辺りを見回す。
辺りの雪は積もることなく、街の風景に彩りを添えていた。
やがて君はまた僕を振り向き、今度は作ることなく、優しく言葉を放つ。
「……ね」
「……?」
「ちょっと今から、一緒に行きたい場所があるんだけど」
少し戸惑う。そんな僕の手を、君が引く。
君に引かれて歩くこの街は、いつもよりも美しくそう見える。
まだ戸惑う。そんな僕に構わず、君は口を開く。
「ね、さ」
「……何?」
「雪って、綺麗だよね」
「……。うん、」
「よくお父さんお母さんから、昔はもっと降ったのにねぇとか言われるけど……やっぱり私、もうちょっと昔に生まれたかったなぁ」
「……そっか」
「ほら、雪だるま。とか。絶対可愛いもん。……作りたかったなぁ」
「…………」
最近の日本で、雪なんか降りっこない。
それは地球が温暖化してるとか、そういう理由ではないように思えるけど、なぜか、降らなくなった。
昔は北陸だとか、北海道だとかだと本当に、異常な程に降っていたらしいのに、そのような地域差もなくなって。今の日本は本当に、降るとしてもこれくらい。降るのは大体、一年に一回あるかどうか。
でも、だからな気がする。僕に雪が綺麗に映るのは。
ここまで貴重だから、その貴重な雪が綺麗に見えるのだ。
「……そう、だね」
小さな柔らかい雪は、まだ降り続ける。
その雪は、とても「青かった」。
次気がついたとき、僕は真っ暗闇の中にいた。
そこにあるのは虚無で、動こうとしても動けないそんな空間。
気付いた。ここには僕がいないということに。
……。え?