76話 尋問
僕たち3人は貸し切っている大きな宿につき、部屋についた。それぞれ別々の部屋についた。
一緒の部屋だとかそんな展開はない。ちゃんと1人一部屋割り当てられている。
部屋について一息ついたころ。
コンコン。
扉を開けると心さんが待っていた。
「真広君、今いいかな?話を聞きたいんだ。」
「あの、聞きたいことって?」
「もちろんあの堕ちた土地神のことについてだよ。他の2人ももうロビーにいるから、ロビーに来てくれるかな?」
「わかりました。」
僕は心さんについて行きロビーに向かった。
中央の大きなテーブルにすでに琴巴と桔梗さんが座っていた。
貸し切っているため他には誰もいない。
「さぁ、真広君も座って。これでみんな揃ったね。じゃあ、なんであの堕ちた土地神があなたたちの方に向かったのか。心当たりはある?」
めちゃくちゃある。本人から聞いたし。
「わかりません。こちらを向いたと思ったら向かって来ました。」
琴巴がそう答える。
「逆にお母さんは戦ってたんだからなにか心当たりはないの?」
心が首を傾げて聞く。
「そちらに行く時、堕ちた土地神はあなた様はって言ってた。つまりあなたたちの誰かが誰かに見えたまたはなにか特別な存在である可能性があると考えているわ。」
「特別な存在?」
今度は僕が首を傾げた。
「えぇ、そして神 ツクヨミの登場と助力。ツクヨミは天照 スサノオと並ぶ最高位神の一柱として知られているわ。そして今まで歴史上ほとんど登場しなかった謎多き神としても。そんな神がなぜ現れたのか。私はあなた達の誰か関係してるんじゃないかと思ってる。」
「ねぇ、真広君なんであの時堕ちた土地神に近づいたの?」
桔梗さんがこちらを向いて聞いてくる。
「僕には、なにかあの時彼女が訴えかけようとしていると感じたんだ。」
僕はまっすぐに桔梗さんを見て答える。
「訴えかける?」
琴巴が不思議そうに僕を見る。
「うん。でも、もちろん彼女と僕は初対面だよ。」
「じゃあ、ツクヨミとは?」
心さんがテンポを置かず聞いてくる。
「もちろん今まで関わりはありません。」
嘘は言っていない。
「嘘は言っていないようね。でも、なにか大きなことを隠しているのは確かだわ。今回の件は別としてもね。」
続けて心さんは言う。
「目を見ればわかるわ、その歳にしてはかなりの修羅場を潜り抜けている。5級の式神を2体従えるほどの強さ。そして、あの涼風重蔵の孫で、今は蘆屋冴久の弟子。聞けば聞くほど不思議な子ね。」
「あはは。」
僕は目を泳がす。これは最初から僕だけ疑われてたな。
ー疑われてましたね。まぁ、この三人の中で1番怪しいのはどう考えても真広ですからねー
ですよねぇ。
「最後に質問。貴方は私たちの敵?」
心さんが鋭い眼差しで聞いてくる。まるでぬらりひょんを前にしているかのようなプレッシャーを感じた。
「違います。」
僕は即答した。
「ふぅ。試すようなことしてごめんね?」
心さんはそう言い、手を上げると、ロビーのどこからか札が心さんに飛んできた。
「判別の結界!?お母さん、私が嘘をつくと思っていたの?」
桔梗さんが心さんの手に集まった札を見てそう言う。
嘘がわかる的な結界張られてたのかな?
この宿にはさまざまな陰陽師たちが泊まっていることやそもそもこの宿に結界を張っていていろんな術の気配を感じるので全然気づかなかった。
ーこの人油断も隙もないですねー
この間も僕に札くっつけてたよね?霞が気づいてくれたけど。
「念の為よ。でも、何者なの?真広君って。」
首を傾げて心さんがそう訪ねてくる。
「ただの人間ですよ。」
まだ結界が張られていたら反応していたかも知れないな。
にしてもほんと心さんまじで怖いな。この間も札つけられて家を突き止めようとしてくるし。最低だよこの人は。
「あっ、そういえばお給料渡さなきゃ。」
心さんが忘れてたと言いながら厚い封筒を3袋取り出した。
「はい、よくがんばりました。今回はみんな学生なのに危険な目に遭わせちゃったから多めに入れておいたわ。」
封筒を開くとなんと一万円札が束になって入っていた!
こ、こんなにぃ!?
「お母さん…お金じゃ誤魔化されませんよ!ねぇ、真広君?」
桔梗さんが口を尖らせて文句を言い僕の方を見る。
「いえいえ、心さんには助けられました。ありがとうございます。こちらはありがたく受け取っておきます。」
あぁ、心さん。なんていい人なんだ。僕はてっきり日給一万円くらいかと思ってたよ。
ー真広…ちょろすぎますよー
琴巴と桔梗さんが呆れた目でこちらを見ているように感じたが僕は見てみぬふりをした。
だってお金大事じゃん?
真広と琴巴が自室に帰って心と桔梗の親子2人となった。
「お母さん。真広君をどうする気だったの?」
桔梗は心をにらめつけて言う。
「どうするって?」
心は桔梗に優しく返す。
「もしも…真広君があの時、判別の結界で味方じゃないとわかったらよ。」
「もちろん、殺してたわ。」
心はなんでもないように言う。
「殺すって!?真広君はまだ高校生だよ!?」
桔梗は心に怒鳴るように言う。
「年齢なんて関係ないわ。彼の力はこれからどんどん強くなる。たぶん今ももう貴方より強いわよ、彼は。敵だとしたら早く手を打たないと手遅れになるわ。」
「そ、そんなぁ。」
「もしもあの時、判別の結界が反応したら違う術式が発動して判別の結界に反応した者を拘束する術式がこの部屋自体に掛けてあるわ。殺した方がいいと私が判断したらこのフロアの外に控えている私の部下たちが流れ混んできて殺すと言う算段だったの。」
「流石に酷すぎる。」
自分の母が人を殺す算段を立てていたことに桔梗は戦慄する。
「私は名家五家に数えられる葉月家当主です。時には残酷な判断をするときだってあります。感情だけでは当主は務まりません。例えば、今回の任務もそうでした。」
「今回の任務?」
急に今回の任務の話題になり桔梗は困惑する。
「えぇ。あの堕ちた土地神。なんで堕ちたのか知っていますか?」
「え?知らないけど…」
桔梗はいきなり聞かれて驚く。なぜなら、桔梗からみたら、堕ちた土地神はとても邪悪なあやかしの類にしか見えなかったからだ。
「古い文献をあさってわかったのですが、あの土地神は一度土地神であったころ社を焼かれているのです。人によってね。おそらくその時に堕ちたのでしょう。」
「社を焼かれた。」
ポツリと桔梗はつぶやいた。
「今の社も大きいので、おそらく当時の社も大きな社だったのでしょう。大きい社と言うことはその土地の厚い信仰を受けていると言うことです。当時は人々に豊穣をもたらしていたそうですよ?しかし、文献によれば急に焼かれたのです。今まで助けて来てやった人の手によって。それはそれは怒り狂ったことでしょう。憎かったことでしょう。でも、文献には神の怒りについて記述している文はありませんでした。おそらくこの土地神は人間が好きだったのでしょう。とてもいい土地神だったわけです。こんなにも長い間堕ちたにも関わらず今日までこの場所に居続けたのです。相当頑張っていたと思いますよ。
そんな彼女を殺すことでしか私たちは救えませんでした。人の手で土地神を堕とし、その土地神を危ないからと言って狩る。今回はそんな残酷な任務でした。」
桔梗は目を伏せて静かに母の話を聞いている。
「真広君は彼女がなにか訴えようとしていると言っていましたね?彼女は一体なにを伝えたかったのでしょう。身勝手な人々への恨みでしょうか、それとも身の程知らずにも狩りに来た我々への怒りでしょうか。まぁ、真広君、堕ちた土地神に触れられてすぐ気絶してしまったのでなにを伝えようとしてたのかはなにも何も分かりませんが。」
そう言って心はロビーを出た。
「ありがとうって言ってた気がするよ。」
桔梗は誰もいないロビーでつぶやいた。
その声は広いロビーにやけに響いたが、誰にも聞こえてはいないだろう。




