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塩と蜂蜜と珈琲 「改」  作者: ウメミツエモン
11/13

少女の夢

蜂蜜の話しからの・・



目が覚めたら、カエルだった。

昨日の夜までは、ヤモリだった。


その前の夜はトカゲで、一週間前には、人間の女の子だったような気がするけど、誰かに恋していたのか、誰かから愛しているって告白されたのか、ぼんやりとしていて、思い出せない。


脳ミソが小さくなったからなんだろうか?


そういえば、空が青い。

温泉のような温い水と、上流からの清いせせらぎが半分くらい混じる小さな池は、心地よい。

植生もバランス良く、カエルの天敵も多くはない。


わたしは小さい頃から生き物が大好きだったので、カエルのことは詳しい。

恋愛とか、憎しみとか、羨ましいとか、嫉妬心とか、きっと忘れたくて、ぼんやりしているのだろう。


人間の男の子が水の上から覗いている。

小さな銀のスプーンを落としたみたいで、困った顔をしている。

わたしは水の中を泳いで、キラキラ光るものを探した。

でも、カエルの体ではスプーンは持って上がれない。


迎えに来た母親と一緒に、男の子は帰ってしまった。

夜が来て、朝になった。


昨日の男の子は背が伸びて成長し、若くて健康なドクターになっていた。

隣には、オレンジ色のレースの飾りがついたワンピースが似合う女の子が立っている。


銀色のスプーンを男の子に返してあげたくて、わたしは女神になっていた。

でも、夢中になってキスをしている二人に声をかけるのが恥ずかしくて、迷っていると、青い空からアポロンの使いのエロスが降りてきた。

彼はキューピッドという天使としての名前も知られている。

あまりにベタな展開に、わたしは笑いを堪えて、二人の行く末のために祈った。


ドクターになった男の子は、空から降りてきたエロスを見て、怖れ、焦り、怒るような顔つきで、女の子の手を取って逃げ始めた。


そのとき、わたしは思い出した。

エロスの金の矢は恋する気持ちを激しく強くするが、銅の矢はどこまでも相手を拒絶する。

アポロンとダフネの物語は、なにを教えているのか、わたしにはわからない。


逃げようとする男の子と女の子。

エロスは金と銅の二つの矢を見比べている。

わたしは男の子が落とした銀のスプーンをエロスに差し出した。

エロスははっとした顔をして、それを受け取る。

池からすこし離れたところのリンゴの木には、人間に智慧を与えたというヘビが住んでいる。

そのヘビが女の子の足にからみつく。

前のめりに倒れる女の子と、支えるように捕まえる男の子は、レンゲの花がまばらに咲いている草むらの上に転がる。

二人は気がつかなかったけれど、あとすこし走れば、背の高い草に隠された深い谷がある。

転んで泣きそうな女の子と、すこし冷静になった男の子。


わたしが女神の姿になって渡した銀のスプーンは、エロスの手の上で銀の矢に変わり、二人を救ったヘビは女の子の足元で、腐って土に還る。


放たれた銀の矢は、炎となって、辺りの草むらを焼き尽くす。

レースの飾りのワンピースに包まれて、燃えさかる炎から身を守り、その後、男の子と女の子はハダカで抱き合ったまま、燃え尽きた灰の中に眠る。


あのオレンジ色のレースの飾りのワンピースは、きっと水と太陽の精霊の力を宿していたのだろう。

両親のよこしまな願いを糸に織りこんで作られた男の子の衣服とは別の物のようだと、わたしは納得した。


そして、また朝になる。

わたしは迷っていたプロポーズの返事をするために、緑色のカエルの皮を脱いで、嘘のような心地よさのある池を出る。

豊かさを保証してくれるというお金持ちの家の青年は、美しく凛々しく歩み寄るわたしの姿を見つけて、嬉しそうに笑う。

蜜蜂が彼の両手に抱えられた花束に留まり、すこしだけ蜜を吸い、また飛んでいく。



エロスとキューピッドは、神話の中では好きなキャラクターです。

キャラクターというより、実在を信じていますが、昔は、マーキュリーとエロスも混同して覚えていました。


マーキュリーはヘルメスと同体異名なんですね。

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