エルフ無双アフター・出張、そして出くわすパーティ追放
「二人とも。いちいち、道ゆく人に鋭い眼光を向けるのはやめような?」
「すいません、ついクセで」
「普通、王と出会った瞬間にひれ伏すのが礼儀だと思うのですが……ふぅ、人間の世界は礼儀というものに欠けていますね」
「君ら、そうは言うけど俺と初めて会った時にひれ伏しては──ああ、行き倒れてたんだった。エルフの里の連中も──いや、仕事中の門番の人以外は、ひれ伏してたな……」
やれやれといった感じで、人の世界をディスるエルフィ。
どうやらエルフの世界では、勇者と出会った瞬間にひれ伏すのが礼儀らしい。
すごく嫌な礼儀だった。
むしろ脳筋思考のエルフに礼儀を説かれるのは屈辱的だな、とセージは思った。
いま、三人は街に来ている。
当初、セージが所属していたギルドのある街だ。
サスケは家でお留守番。
良き番犬となっている。
さらには賢く自力でご飯も調達できるので、何の憂いもなく留守を預けられるのだった。
街自体へは、たまに作物を売りにも来るのだが……。
今回は全くの別件。
ギルドマスター直筆の手紙による招集。
その手紙にはこう書かれていた。
『国家認定勇者・セージ殿
至急、相談いたしたき案件が発生し候。
ついては忝くも、コクラマグナにある当ギルドへご足労願い候え。
国王すらも認める勇者を一方的に呼びつける無礼千万。
平にご容赦賜りたく候。
ギルドマスター・アレックス』
【コクラマグナ】とはギルドのある街の名前である。
この招集、いつもならエルフコンビの二人から反対されるのだが、へりくだった文の内容に満足したようだ。
『王の偉大さを理解できる民には、寛容に接しても構いません』
そう言ってアッサリ承諾したのだった。
「こんにちはー。あ、フィーナさん、ご無沙汰してます。ギルドマスターいらっしゃいます?」
「セージさん! 国王様から勇者の称号を賜ったんですって!? やっぱり、私とお付き合い──」
「しませんから。その称号、半分くらいは国王様の同情心からです。大体フィーナさんって、そんなミーハーでしたっけ? それより、今回は至急の要件とかでここに参ったんですよ」
「はい。セージさんがいらっしゃったら、すぐにギルドマスター室に通すように申し付けられてます。どうぞこちらに」
なんだかんだで仕事自体はちゃんとこなすんだよな、と思いながらセージは立ち上がったフィーナの後をついてゆこうとする。
アイナとエルフィも『受付嬢ざまぁ』と言いながら、さらに後に続こうとした。
フィーナはセージを振りこそしたが、別に浮気したり裏切ったわけではない。
それは単なる二人の嫉妬心、その裏返しだった。
過去、セージからフィーナへ好意を向けていた事実。
エルフ心的には、それが気に食わない。
とはいえ、明らかに言いすぎだった。
そして、受付から裏手にあるギルドマスター室へ一行が移動しようとすると──
「ロード!! お前をパーティから追放する!!」
なにやら不穏な叫びが、ギルドの入り口近くから聞こえてきたのであった。
「あちゃー……【追放】かぁ……」
「はぁ、こんな時に」
それを聞き、セージは面倒くさそうに呟き、フィーナは溜め息をついた。
「我が王よ、あの輩をご存じなのですか?」
「アイナ。恐らくアレは【告白ざまぁ】と同じ系統に属する──【追放ざまぁ】」
「いや、彼らのことは知らない。というか二人とも、【追放】を知ってるんだ?」
「それはもう! セイヤ様の時代から存在する、一大エンターテイメントですから!」
「しかし今回は、王への不届きというワケでもないですし……有象無象の下らない騒ぎなど放置しましょう」
「それが、そうもいかないんだよなあ……。【追放】は見つけた時点でギルドの所属者が対処するって決まりがあるんだよ……」
「セージさん、ギルドマスターの前にお願いしてよろしいですか? ……大事な用でわざわざ足を運んでいただいたのに、非常に恐縮なのですが。こんな些事に巻き込んでしまい申し訳ありません」
「いやいや、まだ俺もギルド所属ではあるわけですし。それは全然構わな──あれ? アイナとエルフィがいない」
さっきまでそこに居たのに。
そう思い、キョロキョロと辺りを見渡すセージ。
首をかしげながら入口の方へ向かうと。
そこには、先ほど【追放】騒ぎを起こしていた冒険者らしき人間。
そのパーティが一様に伸され、地面に這いつくばっていた。
「わかった上で、いちおう二人に聞くんだけど……やっちゃった?」
「いえ、殺ってはおりません」
「我が王は心優しいので、カトンボとはいえ心を痛めてしまいますから」
「うん、殺したかどうかを聞いたわけじゃないから。まあ結果的に確認は取れたけど。ところで、なんでそんな先回りを?」
「いち早くトラブルに対処するのは家臣の務め」
「王の負担を少しでも軽くするためのエルフです」
「そうか……まぁ今回は公衆の面前で【追放騒ぎ】を起こす、はた迷惑ヤツらだし、いいかな。二人ともよくやった」
「ッッ!?」
「普通に──褒められた!?」
「おい、なんでここ一番で驚いてるんだよ。そう言うってことは、普段自分らが褒められた行動をとってないって自覚してるんじゃねぇの?」
「いえ、無礼を承知で申し上げるなら……飴と鞭のうち、鞭だけ与える方針なのかなと」
「ぶっちゃけ──ツンデレだと思ってました」
「本当に無礼だな!? しかもツンデレって。君ら実は、俺のこと全く敬ってないだろ?」
「と、とんでもない!!」
「それは誤解です!! 鞭もツンデレも我々にとっては途轍もないご褒美!!」
「そういえば怒られても喜んでたな……。とりあえず今はそれ、置いとくか。先に追放パーティの対処を優先しよう」
「はい、我が王の手を煩わすクズパーティですね」
「気絶させてるだけなので、すぐに起こします」
三人で協力してパーティの面々を起こして回る。
アイナとエルフィは見境なく気絶させたようで、追放を言い渡されたらしき青年も一緒に気絶していた。
「い、いきなり何するんだよ!? 突然、暴力を──通り魔かよ!?」
起きた瞬間、自分の受けた理不尽に憤慨するパーティーリーダー。
「気持ちはわかるけど……それくらいにしておいた方がいい。また暴れるよ? 後ろのエセ双子コンビが。彼女らを制御することは──今の俺にはできない」
「ひぃっ!?」
エルフの殺気にあてられ、ビビるリーダーの青年。
「まあまあ、話は聞くから。とりあえず、そっちの隅にある──【追放専用スペース】に移動しような?」
「つ、追放専用スペース??」
追放専用スペース。
昨今のギルドでは、【追放】からの【ざまぁ】が横行しており、一時ギルドはその対応に頭を悩ませていた。
そして、『低能には低能用の空間を用意して然るべきか……』というギルドマスターの鶴の一声で、ギルド内の一角に【追放専用スペース】を設置。
追放の際には、ギルド職員か先輩冒険者を交えた面談が義務づけられている。
それに従わずに勝手に追放騒ぎを起こすと、ギルド証を没収されるという厳しい規定が設けられた。
だが、中には今回のように他所から来たルーキーもいる。
その場合に限り、初犯は厳重注意で済まされているのだった。
◇
「で、君らのパーティ【レッドコメット】はAランク昇格を目前に控えて、そっちのロードくんの存在が邪魔になったと?」
「そうなんですよ。俺ら全員、高ランクスキル持ちの戦闘職。そりゃあ、回復やサポートを軽んじるつもりはありません。でも! ロードは! 【マッピング】という能力しか持ってなくて、戦闘ではお荷物でしかないんですよ! 報酬は役どころに関係なく均等割りだから、パーティメンバーからも不満の声が上がってるんです!」
「そ、そんな。ボクは……」
「ふむ、なるほどな……。なあ、パーティリーダーくん。実は俺もな、【生活魔法】なんていう戦闘には一切役に立たない能力しかないんだ。でも、パーティではやってこれた。なんでだと思う?」
「え……? それは──セージさんが、回復やサポートに匹敵する活躍をなさったからでは?」
「その通り。これは俺の師匠の受け売りなんだが……【スキルとハサミは使いよう】という言葉がある。本当に使えないスキルなんて、そうそう無いもんだよ」
「でも、さすがに【マッピング】は……」
「恐らくだが、君らは【マッピング】を使いこなしていない。今までどう使った? そのスキルでダンジョンの隠し通路を発見したりしたか? コンパスが役に立たない地形で恩恵を受けたことは? 魔物に囲まれた時の安全な逃走経路のために活用したか?」
「うっ……」
「今のは憶測だから、実際に使えない用途もあるとして……実地だと、もっと活かせると思う。冒険についていけなくなってからの追放なら仕方ないが、それは本人からの申告か、実際にランク上昇に行き詰まってからでも遅くないんじゃないか?」
「…………そう、ですね。俺たちが軽率でした。騒ぎを起こして申し訳ありません。ロードも、頭ごなしに追放しようとして、済まなかった……」
パーティーリーダーは項垂れながら己の非を認め、謝った。
頭に血さえのぼっていなければ、悪い人物ではない。
「よし、パーティーリーダーくんはいいな。それじゃ、ロードくんの方は?」
「ボクは……許します! まだ実害を受けたわけじゃないですし、何よりセージさんが庇ってくださいましたから!」
ロードはセージへとキラキラした瞳を向けた。
「……それだけか?」
「え?」
「他に言うことは?」
「えっと……? ありがとうございました?」
「この──愚か者がぁ!!!!」
「「「「「!?」」」」」
「セ、セージ様!?」
「なんという覇気!!」
怒声を発するセージ。
彼がここまで怒るのは珍しい。
少なくとも、エルフコンビと出会ってからは初めてだった。
追放パーティはもれなく驚いているが、エルフの二人は戸惑いながらも、むしろ喜んでいた。
「ぇ……なんでですか?」
「なんでもなにも、君が一番悪い!! 『ボクは許す』だとか上から目線で語るんじゃない!」
「ええぇ!?」
「まず、さっきはパーティーリーダーくんにスキルの使い道を言ったが……そもそもそれは、君のスキル。ならまず、君が率先して活用法を見つける努力をするべきだろ! それよりなにより──最も基本的なことを疎かにしている」
「き、基本的なこと?」
「仲間に対するコミュニケーションとプレゼンだよ。君は、ここまで何をやった? よく『言葉で自分の有用さを説明しても聞く耳もたない』なんて輩がいるが、他にも説得する手段なんて山ほどある。工夫や試行錯誤もせず、ただ唯々諾々とパーティの後ろに付いていくだけなら、追放されて当然だ」
「うぐ……」
「とまあ、そんなところだ。俺が言ってるのもある意味、極論だから。異議は受け付けるよ。とにかく、仲間割れを起こす前によくよく話し合ってくれ」
「はい……」
「わかりました……」
「よし。それじゃ、アイナ、エルフィ。そろそろ──」
「はい! 我が王よ、心得ております!!」
「この生意気なクズパーティを処せばよいのですね!!」
「全然違う! 君ら相変わらず人の話聞いてねぇな!?」
エルフコンビの空気を読まない発言で、場の空気は台無しにされたのであった。
積極的に誤チェストも行うのがエルフスタイル。
誤チェスト=間違って天誅しちゃった☆
的な感じです。めちゃくちゃ大ざっぱですけど。