エルフ無双アフター・チート農園収奪
「我が王よ、そろそろだと思うのですが」
「ええ、期は満ちました」
王都から帰ってしばらく経った日。
エルフコンビは突然切り出した。
ちなみにその時の一件で、国王からはお土産という名の心付けを大量に贈られている。
エルフの当人たちには伏せられているが、いわゆる危険手当と同情による見舞金だった。
「その件、この前やったばかりでしょ。それともアレか、ボケたのかな?」
「そんな、面白ひょうきんエルフだなんて」
「恐悦至極」
「無理矢理べた褒め変換するの、やめろ」
「それはともかく」
「今回は国盗りなんかではありません」
「……そうは言われてもな。エルフの考えてることなんて俺わからないから、直球で説明してくれる?」
「もちろんですとも」
「今回の目的は──【チート農園奪取】です」
「あぁ、以前、農業なんとかって言ったヤツか。土壌に悪そうな感じの。結局のところ聞かなかったけど、それって一体なんなの?」
「そもそもの発端は初代勇者のセイヤ様の時代まで遡ります」
「それは勇者様がその他の塵芥と一緒に召喚された時のこと──」
「あ、長々とした説明は要らないから。三行くらいでよろしく」
セージのスルースキルは確実に上昇していた。
「御意に」
「①セイヤ様がこちらに召喚される際、愚民も一緒に巻き込んでこちらの世界に来ました。②恐れ多くも、巻き込まれた愚民風情が勇者様を差し置いて【農業チート】という小癪なスキルを保持してました。③分不相応なのでエルフ総出で愚民から農地を接収しました。以上です」
「お、おう……。なんというかエルフィ、すごいな。初めて普通に感心したわ」
「!? エルフィばかりズルいですよ!!」
「アイナ、私ばかり王の寵愛を受けて申し訳ありません。これも魅力の差ということで諦めてください」
「こらこら、仲間割れするんじゃない。どっちも凄い、どっちも凄いから仲良くしろよ。それで? そんな昔の人物なら、巻き込まれた人とやらは、とっくに亡くなってるだろ?」
「それがですね」
「最近判明したのですが、小癪にもその子孫が、セージ様と同じく血と共にスキルを受け継いでいるらしいのです。小癪にも」
「そうか。エルフ的にどれだけ癇に障るのかは知らんが、小癪って言い過ぎじゃない? まあ、ケンカも戦争も吹っ掛けてくるわけでもなし……放置しといたら?」
「何をおっしゃいます!」
「その昔、時のエルフの長老は告げました。【勇者様は、一人だけでいい……】。そして、エルフ族はセイヤ様以外の異世界人を滅ぼすことにしたのです」
「過激なのは今さらだけど、すげえ排他的思想なのな。エルフの長老とかいう重要そうなワード、今まで出てきた? つうか、生活魔法より農業の方がよっぽど有能そうな気もするんだけど……」
「「!?」」
「そんな、顎が外れそうなくらい驚かなくても」
「驚きもしますよ!!」
「我が王はエルフの存在意義を否定するおつもりですか!?」
「……エルフの存在と生活魔法って、何か重要な関連でもあんの? そもそもさ、平和に暮らしてる人の土地を奪おうとか。俺ら、まるで強盗じゃん……」
「えっ?」
「セージ様が現在お使いになっているこの土地。過去に農業チート野郎から剥奪した土地ですけど」
「俺の家系、強盗じゃん!? マジかよ!! その事実は知りたくなかったよ!!」
「王が愚民から租税を取るのは当然の権利ですよ」
「先日も申し上げましたが、そろそろ覇王としての自覚を──」
「覇者になるつもりはないから。しかし、速攻で民衆から革命を起こされそうな思想だなソレ。第一、その農業をやってる人の子孫の居場所、わからないだろ? はい無理。この話お終い」
「え?」
「農業チート野郎ならここから四半刻も行かない場所に住んでおりますけど……」
「はぁ!? メチャクチャ近所じゃん! え、誰?」
「確か──キサラギとかいう猪口才な名前の」
「セイヤ様が止めなければ【根切】にしたものを……」
エルフ用語の一つである根切。
要約すると【根絶やし】。
これは一族郎党皆殺しという意味である。
そうすれば生き残りから復讐される心配もない。
実に合理的かつ非人道的な手段だった。
「ああ、いつもトマトを持ってきてくれるキサラギさんね。嫌いなのは理解したけど、余計な形容詞つけるのはやめて差し上げろよ。いやいや、彼、メッチャいい人だよ。ニコニコしながら気前よく作物わけてくれるし。……うっ、そんな人の土地をご先祖様は奪ってるのか。罪悪感がヤベェ。次に会う時、どういう顔で接すればいいんだ」
「悩むまでもございません」
「覇王らしく──鷹揚に構えていらっしゃればよいのです」
「それなんて言うか知ってる? 盗人猛々しいって──」
エルフコンビを諫める最中、セージの家の戸を何者かがノックする。
『セージさーん。キサラギっス~』
「噂をすれば影か。本人きちゃったよ……。はい! どうぞー!」
「こんにちはセージさん。農業日和のいい天気っスね。今日は新種を持って来たんスけど……。名付けて【民家のめざめ】。丸々としたお芋なのに、なんと甘いんスよ! たくさん収穫できたので幸せのお裾分けっス!」
「……できねぇ。どうやったらこんな人から土地を奪うとか、むごい発想が出るって言うんだ……」
「【農業チーター】・キサラギよ」
「セージ様に土地を献上するのです」
「ねえ話聞いてた? 俺、いまお世話になったばかりだよ? 恩を仇で返すのってエルフ的にどうなの?」
「土地? セージさん、土地が欲しいんスか? ちょうど開墾しすぎた土地が余ってるんで、差し上げましょうか?」
「キサラギさん良い人すぎでしょ!? 容易に詐欺師からカモられそうで俺心配なんだけど!!」
「あはは、誰にでも上げるわけじゃないから大丈夫っスよ。ウチとセージさんの家って代々仲が良いですし。確か初代は、生活魔法の恩恵に預かる代わりに開墾を手伝ったとかなんとか」
「……よかった。エルフに乱暴された可哀そうな異世界人はいなかったんだ……」
「ふふん」
「素直に従えば、エルフも鬼ではないのです」
「二人とも後で説教な」
「!!」
「ありがたき幸せ!」
こうして、エルフの里の勇者伝説に新たな一ページが追加される。
『勇者は海のような広大な慈悲をもってチート野郎の開墾を許す』
そう、記されたのであった。
エルフってワードがゲシュタルト崩壊。
〇ンカのめざめって、ご存知の方いらっしゃるんですかね?