目的地? それ以前に墜落しちゃうエルフ。
「いや~、まさか国王様、火急の必要があるとはいえ【飛竜】を出してくれるとは。これ、噂だとヴァンデリア王国でも数えるほどしか所持してないらしいんだよなあ。王家の人ですら滅多に飛ばさないっていうし。これさ、下手しなくとも先触れの伝言役の人より俺らのが早く着くんじゃね?」
現在、セージ達は空の旅の真っただ中。
初代であるセイヤの元の世界とは違い、この世界には竜がいる。
普通、竜は自ら進んで人間と関わろうとはしない。
よって、人と竜の間でも積極的な交戦は滅多に行われない。
しかし、【凶悪竜】に認定されてしまえば別で、討伐対象になる。
だが、竜という生き物は気高い種族。
故意的に悪事をなそうとする個体は比較的、稀であった。
そして、竜の気高さとはプライドの高さでもある。
エルフとはまた違うが、プライドが高いものは扱いにくい。
よって、このように移動手段として使える竜は限られていた。
人を乗せて飛ぶためには厳重な運用条件が設けられている。
その条件としては──
・温厚な個体で人に危害を加えないこと。
・卵、もしくは幼体の頃から育て調教すること。
・人を乗せても安定性を損なわないこと。
・賢すぎる種ではないこと。
他にもあるが、大体このような項目が並ぶ。
中でも気性や安定性が一番重要で、速力は本来的に二の次である。
この竜の名前は【ランドルバッファ】。
種の個体としての大きさは、そこそこのサイズ。
とはいえ、セージとエセ双子くらいなら余裕で乗せられる。
そして、人が扱う竜の中では変わり種でもあった。
というのも、今回に限り必要な──【他の竜より、ずっと速い】を満たしていたのだ。
出発前のこと。
この表現に疑問を持ったセージは竜の世話係に聞き、意見した。
『あの、【ずっと速い】って……。それ、【高速】だとか【ハイスピード】って単語じゃダメなんですか? そういう表現の方がスマートな気がしません?』
しかし世話係は頑なに『そういう決まりなので』と、その意見を取り合わなかった。
人が乗る竜は、遠目からでも【使役竜】だと識別できる措置がなされている。
【投影魔法】により、ヴァンデリア王家の紋章が浮かび上がっているのだ。
遠方から視認できるだけあって、それはかなりのインパクト。
とはいえ、それは万が一の措置である。
本来、竜は討伐対象の個体でもない限り攻撃をしてはいけない。
無闇に人を傷つける種こそ少ないが、さすがに攻撃をされると反撃をしてくる。
そうなると災害扱いになり、被害範囲がシャレでは済まない。
人間の勝手な都合ではあるが、そうなると凶悪竜と認定されてしまうのだ。
よって、本来はそんな識別措置も必要はない。
せいぜい、どこの国所属かを表すくらいである。
そういった理由から、攻撃されることは、まずない。
と、竜の事情はそれくらいとして。
肝心のセージ一行である。
「確かに、空を行くのも気持ちがよいですね。我らフォレストエルフ、風の民でもありますし。しかし──」
「ええ、アイナ。残念ながら一ヵ所だけ、致命的不具合とでもいうべき部分がございますね」
姫的立場の二人も、空の旅は初めてらしい。
「不具合? 揺れもないし、万が一の時のクッション魔道具も貰えてる。それに当の竜自体も大人しいし……これ以上、何か必要ある?」
風除けの魔法に、落下した時のためのクッション魔道具。
調教の賜物だろう、揺れなどの衝撃もほとんどない。
セージからすると万全に見えこそすれ、不具合など全く感じない。
「我が王よ、根本的なことですよ」
「他でもない、ヴァンデリア王家の紋章ではなく、勇者兼覇王の紋しょ──」
「そういえば二人とも。ちょっと寒くない? 風除けの魔法で風圧はないし、一応は少し厚着してるけど」
セージは話を無理やり遮った。
なぜかというと、もちろん──
『セイヤの頃から独自の紋章が、エルフには伝わっている』
そんな、いかにもありそうな事実を握りつぶすためであった。
「言われてみれば、少々寒いですね……あっ」
「! それは我々に、人肌で温めよと──」
「それでこの暖房魔法具だよ。いやあ、国家の危機とはいえ貴重品を気前よくポンポンと貸してくれるよなー」
ついでに二人の【エロ発言】に繋がりそうな言葉も握りつぶす。
そしてセージは、とあるアイテムを【エコバッグ】から取り出した。
その大きさは手のひらサイズ。
長方形の箱を限りなく薄くしたような形をしている。
「あれ? それは【懐炉】では?」
「ええ、中に火属性の触媒の入っている」
「ん? 二人ともコレ知ってんの? 一般民衆じゃ、まず手が出ないような珍品だよ? あ、そっか。忘れがちだけど、アイナもエルフィもお姫様だったわ」
「あ、いえ。身分がどうとかいう話ではなくですね」
「それ──少数ではありますが、マウンテンエルフが生産している物ですので……我が王が一声かけさえすれば、エイル様が喜んで贈ってくださるかと……」
「………………これさ、温度を上げる最初の起動に火種がいるんだよ。二人とも、アイテムか魔法か──火を点けられそうなのって何かある?」
セージは事実から目を背けた。
「アイテムならございますね」
「魔法は残念ながら。フォレストエルフは風属性ですので、そちらもエイル様が得意です」
「──エイルさん、いいな。性格も実直で好感が持てるし。ふむ、トレードか……」
何かと先ほどから名前が出てくるドワーフ。
セージはボソリと呟いた。
それにビクリと反応するエセ双子。
「そそ、そういえばセージ様は着火魔法を持っておられるのでは?」
「ですね! セイヤ様の伝説にもございますし!」
「着火魔法か……そりゃ、生活の一部だし、もちろんあるんだけど……」
「ま、まさか使えないご理由が?」
「アイナ。勇者様がためらうことです。余程の覚悟をしなければ──」
「いや、そういうのじゃないんだけどな。リスクも無いし、使いたくないわけでもないんだけど。なんか、ご先祖様のネーミングというか……これ、偏ってる部類なんだよなあ。まあいいや、じゃあ使うよ。着火魔法・【マッチ一本の火種】」
【マッチ一本の火種】
セイヤの仲間、ハルカの手紙に載っていた魔法である。
無駄に魔法名に凝りたい時期のセイヤが名付けた魔法。
名前の通り、マッチ一本分の僅かな火種を生み出せる。
「!!」
「これがセイヤ様がお持ちになっていた【古代魔法】の一つ、着火魔法……!」
「なんで驚いてんの? たかだか小さな火を出しただけで攻撃力皆無だよ? これ」
「な、なにをおっしゃいます!!」
「我々は伝説の目撃者になれたのです!! これが興奮せずにいられますか!!」
勇者関連の話題になると、より大げさになる二人。
「おー、さすが希少な暖房魔法具。これ温かいなー。ほらほら、二人の分も点けたから遠慮すんなよ」
セージはエルフの驚きをスルーした。
「あっ、ありがとうございます」
「セージ様の温もりが──」
「エルフィ、その表現やめろよ。んー……アレで驚いてるなら、この系統に属する魔法、もう一個見せようか?」
「なっ!?」
「ほ、本当でございますか!?」
「いいよ。ちょっと二人ともおかしくなっちゃうけど。じゃ、使うから。幻覚魔法・【マッチ一箱の温もり】」
「えっ」
「あ、」
エセ双子に使用の許可すら得ていない。
セージは会話中、ノータイムで魔法を使用する。
そして。
「…………そろそろかな?」
「あれ、これは。あ、セージ様ぁ~えへへへへへ」
「我が王~うふふふふふふ」
いつもおかしな二人が、さらにおかしくなっていた。
「じゃ、魔法解除──っと」
「あ、あれ? 私に優しいセージ様は?」
「我が王との楽しいひと時が消えた!?」
幻覚魔法・【マッチ一箱の温もり】
中毒性や依存性もなく、禁断症状も無し。
楽しいひと時の幻覚が見られる魔法。
セージは主に仲間に使っていた。
錯乱状態の解除や麻酔代わりにも使える。
他にも色々と使い道はあるらしい。
「それ、着火魔法の一つ先で幻覚魔法ね。冒険だとまぁまぁ役に立つ。ちなみに──もう1ランク上げちゃうと、【禁忌魔法】になるから。どう? 興味ある? おかわりしとく? 物理的な攻撃力が無い代わりに、ちょっとした絶望を味わうけど、食らっとく?」
「いやいやいやいやいや!!」
「おおおお、おかわり感覚で禁忌魔法を勧めないでください! 今の口調、ご飯のおかわりの時と同じ声色でしたよ!?」
エルフ二人は震えながら抗議する。
「そっかぁ。まあ、こっちはさっきのとは別方面で使ってたからなあ。しかし──」
と、セージが言葉を続けようとした瞬間。
下から衝撃波のようなものが飛来し──三人は竜と共に地面に落下した。
※今回元のは関係なし。
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それから、なんと!
レビューをいただきまして!!
レビューありがとうございますうううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!
すいません、嬉しさがにじみ出て発狂しました。
ブクマと★は あれだけクレクレのリスペクトしておいて
レビューのことを失念しているという失態。
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あと、これまでに付け加えてブックマークに追加と★をくださった方にも。
ありがとうございます。





