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帰ったら帰ったで横暴な納税~そして禁忌の一端~

「おう! 不在だった住民が帰ってきたか! さあ、租税(そぜい)の徴収だ!」


「あれ……? あの、あなたは?」


「新しく領主様として赴任してきた【カザミ】だよォ! 以後、お見知りおきを! つってな、ヌハハ!!」


 突然、現れた男。

 意味も分からない内にセージは殴られる。

 もちろん領主に人を殴りつける権限など、無い。


「ぅぐ。新しい領主様? あの、俺、国王様から租税の免除を(たまわ)っておりまして」


 自分の家がある【エルブリッジ】へと戻ったセージ。

 ようやく人心地(ひとごこち)かと思い来や……。

 そこには予想だにしない光景が待ち受けていた。


「あぁん? 一領民風情が一国の王からそんな特別扱いされるわけないだろう! さては、税の免除を()うつもりか? ならん! ひれ伏して今まで(まぬが)れてきた備蓄を納めよ! 貴様の脱税(だつぜい)はキチンと記録されておるでな!」


 居丈高(いたけだか)に笑うカザミ。

 それに対し、当のセージは──


「な、なるほど。確かに常識的に考えればごもっとも。これは失礼を。脱税などするつもりは無かったのですが、国令に(そむ)いてしまったようで。この通りです。ご勘弁ください」


 なんと、ヘラヘラしながら土下座をしていた。

 エセ双子がプライドを(なげう)って披露(ひろう)していた行為だ。


「お? なんだ、なかなか分かっているじゃないか。俺の祖父は召喚された異世界人。この【内政チート】の前には【農業チート】も【狩猟チート】も、その傘下に収まるまでよ! ヌハハ! 自然こそ我が財産! その恩恵と人を支配する我がチートこそ無敵! ゆくゆくは中央政治にまで手を伸ばす力だァ!」


 その様子に気をよくするカザミ。

 どうやら、土下座の意味を知っているらしい。


 もちろん──


「お、お、王に向かってなんという口を!!」

「万死に値──!!」


 エルフの二人が黙っていない。

 即座に殺気立つ。


「ぅひっ!? なんだコイツらァ!? おい! お前の家族の者か!? 教育はちゃんとしておけよ!」


「すいません! 二人とも、土下座まではしなくていいから、ここは俺に(めん)じて頭を下げてくれ」


「ぅ……」

「かしこ、まりました」


 渋々(しぶしぶ)セージの意思に従う二人。


「そうそう、そうやって──ん? よく見れば連れの二人、あり得ないくらい美人だな? そうだな、貯蓄の代わりに女を差し出しても──ッ!?」


 カザミの言葉は、なぜか途中で途絶(とだ)えた。


「はは、お(たっ)しの通り徴税(ちょうぜい)には応じますんで。人の奴隷扱いだけは、堪忍してくださいよ」


 土下座状態のまま言い放つセージ。

 その表情は見えないが、笑みを浮かべていた。


「む、む。仕方がない。脱税分の罰も含め、貯蓄の九割で許してやろう! ……冬が越せなくでもなったら、いつでも言ってこいよ?」


 下卑(げび)た表情をするカザミ。

 どうやら、無事に越冬(えっとう)したければ美形の二人を差し出せという腹づもりらしい。


「九割……かしこまりました。ひとまず、要求には従いますので。この場はご勘弁を」


「……チッ! おい、その蔵から、あるだけ備蓄を取り立ててこい! いつもの通り、ワシの蔵に収蔵しておくように!」


 やむを得ず、カザミは部下に命じる。

 その要求だけを満たし、とりあえずは帰っていくのだった。


「…………よし、行ったか」


 新たな領主が去るなり、態勢を戻すセージ。


「セージ様!? あまりにあまりではございませんか!?」

「あ、あのような横暴を、ゆ、許すなど!!」


 エルフの二人は怒りに震える。

 エルフィなどは怒りのあまり、言葉に詰まるほどだ。


「いいんだよ。いや、全然よくはないけどな。とりあえず、その場しのぎというか……。国王様も苦心(くしん)なさってたし、人事か命令系統に支障が出たのかもよ? 一回、ご本人に事情を聞いてみないことには、なんとも。まあまあ、このままで終わらせる気はさすがに無いし」


「今すぐお(めい)じください!!」

「エルフ総力の武力をもち、あの奴原(やつばら)めを()つと!!」


「はー……。あのね、人間の社会はそんなに単純じゃないの。【何でも武力と森で解決】のフォレストエルフとは違うんだって。なにより、我が家には【初代からの家訓】があってさ」


「初代──セイヤ様でございますか!?」

「そ、その宝訓にはなんと!?」


「いや、そんな難しい話じゃないし。【冒険者なんかやってると理不尽はついてくるもんだ。何かあったら土下座でもして許しを()え。それで済むなら死なない程度なら笑顔で殴られてやれ】って。ちょっと(はぶ)いたけど、そんな感じ」


「そ、そんな……」

「あの覇王たるセイヤ様が……」


 エルフの二人は愕然とする。

 そこへ。


「クゥーーン……」


「さ、サスケ!? それに、この有り(さま)は……」


「な、な」

「あのデスフェンリルが!?」


 セージが目にしたもの。

 それは、傷こそ全くついてないものの──

 ドロドロになり、毛のほつれたサスケ。


「お前! 畑や家を守るっていうのに……【戦っていいのは基本的にエルフと魔獣と害獣だけ──人間は盗人と(ぞく)以外、傷つけるな】っていう命令を律儀に守ってたのか!? その感じだと、相当に乱暴だったろうに……」


 とはいえ、先にも()べた通り別に傷ついてはいない。

 そこまで自己犠牲という感動話ではなかった。

 しかも、さりげにエルフ相手は許可している始末。


 そして、さらに出てきたのが。


「あっ、セージさん!」


 相も変わらず、ニコニコした表情のキサラギだった。


「き、キサラギさん?」


「これ……スイマセン。なんか、新しい領主様、すごいっスね。蔵のほとんどを持っていかれちゃいまして。収穫をおすそ分けする約束なんですが、これだけしか。本当はもっと差し上げられる予定だったんスけど……。いやぁ、あんなに大口を叩いてたのに、恥ずかしいっス!」


 キサラギは荷車に袋を載せて運んで来ていた。

 その袋は、そこそこの数がある。

 照れた顔で、その内の一袋を差し出すキサラギ。

 その袋には、小さな芋がギッシリ詰まっていた。


「え、これ。あの新しい領主様、備蓄のほとんどを持っていっちゃいましたでしょ? こんなに分けちゃったら、キサラギさんの分が……」


 その言葉に、キサラギは目を丸くした。


「なに言ってんスかセージさん。ご先祖様以来、苦楽を共にした仲じゃないっスか! えと、これからの分は──また畑を作ればいいっス! 何とかなりますから大丈夫っス!」


 恐らく、自分の家の物と等分して持ってきたのだろう。

 他ではない、当事者のセージは感じ取っていた。


 確かに、言葉の通り【農業チート】で何とかなるのかもしれない。

 キサラギのチートの凄さはセージも()の当たりにしている。

 だが、すでにそういう問題ではなかった。


「──────」


「──ヒッ!?」

「あ、あぁあ!?」


 先ほどまで(たけ)っていたエルフの二人。

 なのだが、急に(おび)え始める。


「なぁ。アイナ、エルフィ」


「は、はいぃい!」

「ゎわ、我が王よ! 何なりと!」


「さっきの【初代からの家訓】なんだけど、続きがあってさぁ。ご先祖様が言うには、【ただし、家族が害された時は絶対に引くな。何がなんでも、家族が安全になるまで絶対に報復し続けろ。我が家の名において、死んでもぶちのめせ】──ってな」


 あくまでも、セージの表情は動いていない。


「そそうでいらっしゃいましたかかか!!」

「さすがは覇王様ですうぅうううう!!」


 だが、ガクガクと(うなずく)く二人。


 どうやら、ハルカの手紙にあった──【覇気】とやらに()てられたらしい。


「【自然こそ我が財産】とか言ってたよな? よし、そんなに自然が好きなら──俺から少し()れてやるとするか……」


 その言葉とともに、セージは真顔になった。

 エルフの二人はただただ、震えている。



 その夜──領主の館のすぐ横。

 そこに、一つの人影があった。


「自然と人を支配するとかいうカザミ。遠慮なく受け取れ。禁忌魔法・【蔓延(はびこ)緑樹庭園(りょくじゅていえん)】」


蔓延(はびこ)緑樹庭園(りょくじゅていえん)

 それは、セイヤの代からある魔法。

 とある面積規模を緑化する。

 ただし、キサラギの【農業チート】とは全く違う。


 それから産み出される自然は──

 食人植物が跋扈(ばっこ)し、危険な虫や獣がのさばり始める。


 浸食もそこまでは早くなく、非生産的に過ぎる代物(しろもの)

 それでも、数時間から一晩もあれば十分(じゅうぶん)だろう。

 冒険者時代にも、これはほとんど使われていない。

 セージ自身も『これ……あんま使えねーな』と漏らしていた。


 広がったのは領主邸の(わず)かな面積。

 それでも、脱出するだけでも相当な苦労をするに違いない。


 実は、エルフ内において、これは【迷いの大森林】の元になった魔法と伝えられているものだった。



 そして翌朝、【エルブリッジ】の村内にて。


「あ、【これ独り言なんだけど】! 今の領主様、横暴だし、誰か親切な人がいたら解決してくれないかなぁ!」


 セージは意味不明なセリフを言っていた。


「せ、セージ様?」

「我が王よ、今のは一体どういう……」


「さあ? こういう領民の(なげ)きって、案外、天が聞き届けるって噂があるらしいよ」


「?」

「??」


 その言葉に、エセ双子は首を(かし)げるだけだった。


 数日後──

 何とか無事に領主邸を脱出したカザミの、解任人事が国から通達される。


「あ、あの……」

「これ、絶対に人為的なものですよね……」


「お、おう。こうも確実で早いとは。あれから【エルブリッジ】にも諜報員を配置してくれるって話で、【合言葉】も教えてくれてたけど……実はフォレストエルフより、謙遜(けんそん)しまくってたマーメイドのがヤバいんじゃないの……」


 二人に聞こえないほどの声で。

 セージはそう呟くのだった。

 そのセリフはちょっと引き気味だった。

 自分が発令したクセに。

 というか、『どの口が【武力と森で解決】などと(のたま)うのか』という話であった。



 そして、この話にはオチがついてくる。


「偶然とはいえ、良いザマでございますね!」

「我が王の意向に背く時点で、万死に(あたい)することに変わりはございません」


「君ら、言い過ぎ。大なり小なりで、俺らも完全無欲ってワケじゃないっしょ。人間、誰しも欲深い面はあるし、重箱(じゅうばこ)(すみ)まで(つつ)いてたらキリがないって。ん? 王の意向に背く時点で万死に値……? そう言えば、君らなんだけど──」


「すすすすぐに備蓄を戻しませんとね!」

「アア、アイナ! 一番槍(いちばんやり)(ほま)れは譲りませんよ!」


 二人は露骨に誤魔化した。

 王の意向云々においては自覚があるらしい、

 とはいえ、彼女らの欲など、今回に比べればまだ可愛いものである。

※略


と行きたいところですが。


感想欄にて

「本編読み終わったあと、毎回しおり付けるために一番下までスクロールするのが面倒です」

という後書きノー意見が来たので今回はほとんど無し。


【エルフ式回転土下座の方法】だけ記載。

1.少し助走をつけます

2.斜め上にジャンプ。華麗に回転するのがポイント(フィギュアスケートみたく)

3.そのまま滑らかに着地、そして額を地面につけたあと

4.ブックマークに追加と★を6万個つけたらハイ完成!!


ブクマと★をつけてくださってる皆さん、

いつもありがとうございます!!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] >「さっきの【初代からの家訓】なんだけど、続きがあってさぁ。ご先祖様が言うには、【ただし、家族が害された時は絶対に引くな。何がなんでも、家族が安全になるまで絶対に報復し続けろ。我が家の名にお…
[良い点] 実はヤベーやつってバレたからって早速ヤベー事やってるのは草生える セージが生やしたのは草なんて可愛いものじゃねーけど
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