エルフやらかしちゃったアフター・錬金魔法薬、そして魔法学校?
「あれ……? これ、ワインにしては薬品っぽい味というか」
「はて? パーティ用には、このような飲み物は出さないハズですが……」
首をひねるセージとヴァンデリア王。
「あぁあ~!! それ、ストック最後の分でしたのに!!」
悲痛そうな声で叫ぶフードの女性。
「なっ!? まさか毒!?」
「それはないはずです! 私たち、先に毒見してますし!」
「毒見……? あ、お二人はエルフの方ですね。アレ、恐らくエルフには効きませんよ?」
「!?」
「セージ様の御身に何かあったら待った無しで人類絶滅ですよ!? 冗談抜きです!!」
「ぜっ絶滅!? いえ! 別に毒ではないです!!」
「毒ではない……?」
「では、一体なんなのですか?」
「えーと。説明が難しいんですけど……いわゆる錬金術で作った魔法薬でして、強いて例えるなら変わった酔い方をするアルコールに近いかなと……」
「回りくどいです。もっとシンプルに」
「処しますよ?」
「ひいっ!? 身体に害は全くございませんので! ただ、【普段ではあり得ない言動】をするだけです! 当事者の本心が出るわけでも性格が反転するでもない、単なるジョークアイテムのようなものです! すでに人体実験は済ませてますし、時間が経てばすぐ戻ります!」
事情を聞けば、国王はこういったジョークアイテムが大好きとのこと。
偶然の産物ではあるが、たまたま出来た面白いモノとして、喜びいさんで持ってきたのだという。
「エルフィ、どうしますか?」
「……とりあえず保留で。嘘ではなさそうですが、もし逃げようとしたら──【外し】ましょう」
「【外す】ってなにを!? 怖いですよ!?」
と、その時。
飲み物が作用し始めたのか、当事者の二人が会話を始めた。
「勇者様ぁ、聞いてくださいよ。条約締結が終わったら次なる問題が控えてるんです。問題が終わったらまた問題。もうイタチごっこですよお」
「国王様……お察しします。俺でよければ──力になりますよ!」
「ほ、本当ですか!? 実は──我が都・ヴェルフラードが運営している【モルガム魔法学園】なんですけど……」
「ふむぅ。魔法学園というと、魔術の素養に優れた若者が入学するとかいう、エリート育成機関の?」
「そう、それです。よりにもよって、今年度は問題児が入学してくるらしく……しかも二人も! この前なんか、一人は城壁を魔法で破壊。もう一人は王都のギルドで暴力沙汰を起こしてるんですよ!? ううっ、多数の有力貴族の子息を預かる場所だというのに……すでに胃が痛い…………」
「なにぃ。そいつぁ、けしからんですね! よし──ここは俺が編入して、矯正したりましょうか? つっても、生活魔法しか持ってないんですけどね、俺。はははっ!」
「いやいや、勇者様はエルフすら従えるカリスマがあるじゃないですか! 問題児ごとき、覇王のオーラで一撃ですよ!」
「オーラはともかく、エルフってある種の自動迎撃生物兵器みたいなものですからねえ。しかも、敵かどうかわからない存在すらも、無差別に攻撃しちゃうバーサーカー。まぁ、自分の力じゃないから全く自慢できないんですけど! うははっ!」
ここまでの会話を見守っていた三人。
エルフ二人は眉をひそめた。
そしてフードの女性へと疑問を投げかける。
「あの、これってただ悪酔いしてるだけなのでは?」
「お酒に吞まれてるようにしか見えないのですが……」
「そんなことはないです。国王陛下はどれだけ酔っていても、こんなことはおっしゃいませんし……。そちらの男性のことは存じ上げないので、何とも言えませんが」
「うーん……」
「確かに、セージ様もこういう安請け合いをすることって無いですね……」
と、女性三人が話しているのに気付くセージ。
「ん……? アイナ。それにエルフィ。そんなところで何をしている」
「え、いえ。こちらの女性と雑談をしているだけです」
「……? セージ様の口調がいつもと違う?」
「そうか。何をボソボソと話しているのかは知らんが──二人とも、遠慮せずにこちらに来い」
「は、はあ。かしこまりました」
「では、失礼いたしまして」
戸惑いながらセージの傍に寄って行く二人。
「なんだその距離。えらく控えめだな?」
「えっ?」
「もっとお傍に寄ってもよろしいのですか?」
「無論だ。そうだな──アイナは右、エルフィは左に……そうそう」
「な、なんだかドキドキする距離ですね」
「ここまで至近距離で侍るのって初めてですよね」
二人がその言葉を発した瞬間。
セージは二人の腰辺りに手を回し、そのまま抱き寄せる!
「にゃっ!?」
「ひゃうっ!?」
普段なら絶対にされない、予想外の行動。
二人の口からは思わず変な声が漏れていた。
「──うむ! 国王様、このアイナとエルフィを魔法学園に持ち込んでも?」
「おおっ! もちろんですとも! 心強い限りです! しかし、勇者様とエルフの姫君方は絵になりますなぁ。エルフは美男美女の種族として有名なのですが、ご存じの通り一般の人間からすれば高嶺の花。国王の身分があったとて、エルフを娶るのは夢のまた夢なのです」
「ははは! 確かに! バーサーカーではありますけど、美人は美人ですからねえ。アイナ、エルフィ。聞いての通りだ。俺と供に──魔法学園へと、赴いてくれるか……?」
「ははははい!!」
「アイナ! 気絶してはダメですよ! この夢のような機会、二度と訪れないかもしれません! 魂に刻みつけるのです!!」
「んー……? エルフィ、何やらゴチャゴチャと言ってるようだが。よもやとは思うが、不服なのか──?」
「滅相もございません! 冥府の底までもお供いたします!」
「ふむ、そうか……。それなら結構。アイナも、それでかまわんな──?」
「もちろんです! セージ様万歳!!」
「我が王、万歳!!」
「ならば良し! では国王陛下、そろそろ我々はお暇します。さあ二人とも、付いてこい! 帰るぞ!」
「「はい!! 我らが王よ!!」」
「勇者様! 学園への許可証は大臣に命じてすぐに発行させます! 王命として出しますので、お好きな立場でお入りください! 勇者様万歳!!」
そうしてセージは高笑いをしながらエルフ二人を引き連れ城を後にし──例年、会合の使者のために用意されている宿へと向かうのだった。
その後、魔法薬が抜け、セージが正気に戻ったのは宿に戻ってからおよそ半刻後。
その間の記憶はキッチリ残っており、彼は魔法学校問題の件で頭を抱えることになる。
余談ではあるが。
これに味を占めたエルフの二人は、同じ魔法薬を『何としてでも』と求めたが……。
所詮は偶然の産物。
同じモノが完成されることは、ついぞ訪れないのであった。
この魔法薬、人によっては本人の秘めたポテンシャルを一部開h





