恐怖に震えるエルフアフター・勇者vs勇者
「ここが目的地の廃墟……」
「廃墟といいますか……」
「まるで、高級な宿みたいですね」
ギルドを出発したセージ達。
多少の障害はあったが、問題なく目的地に着いたのだった。
ここに至るまでは半刻ほど。
敵の護衛や賊にエンカウントするたびに、アイナかエルフィが瞬殺。
ほぼほぼストレートに来たので、本来はそこまで時間がかからないハズだった。
では、なぜここまで時間がかかったかというと──
『我が王が直々に出陣なさるのです! ここは王専用の神輿を!』
『ええ! 玉座と共に調達して参りますので──半日ほどお待ちを!』
『いいけど。そう言っておけば構ってもらえると思うなよ? 君ら置いて、俺一人で行っちゃうよ?』
エルフ二人がゴネたからであった。
それはともかく。
廃墟というわりに、中は小綺麗に保たれている。
屋内に入ると敵も出てこなくなり、サクサクと歩を進めてゆく。
「ごめんくださ~い! 予告通り、エルフが来ましたよ~! 罪の告白の準備は出来てますか~? 自分で減刑しないと死刑もあり得ますよ~?」
周囲に呼びかけながら歩くセージ。
「あのう、セージ様」
「その掛け声、なんとかなりませんかね……」
「え、何か間違った事実でも含まれてる?」
「いえ……」
「なんでも、ないです……」
エルフ二人は否定したかったが、考えるまでもなく否定できる要素がなかった。
完全に自業自得である。
「しかし、ホントにいるのかな。ここまで全然返事ないし、もう奥の部屋に着いちゃうんだけど」
「それなら奥の部屋にいるのでは?」
「最深部で待ち受けるなんて、王でもないのに生意気ですね」
そして、一際豪勢な扉の前までたどり着く。
「義理はないけど、とりあえずノックするか。チワーッ!! エルフでーす!! あなたの死神が来ましたー!!」
セージはノックしながら叫んだ。
「「…………」」
エルフコンビは腑に落ちない表情をしていたが、言葉が見つからず黙っていた。
「返事がないな。もしかして防音されてるのかな? よし、アイナ、エルフィ──」
「御意!」
「突入します!」
通達を終える前に二人は扉を蹴破る。
まるで八つ当たりをするかのような勢いで。
「はい、お邪魔しまーす。……おや?」
一行が室内に侵入すると。
「……え? どなたですの?」
呆気にとられた様子のうら若き少女がいた。
その姿はセージと同じ黒髪黒目。
手には鋭そうな剣を持っている。
「ドーモ、エルフです。いや俺は人間ですけどね。ギルドからの先触れ、来ませんでした?」
「いえ、来てませんけど……。あれ!? 外を警戒してたゴローさんとトシローさんは!?」
「外を警戒? あ、もしかしてギルドの斥候、その人にやられちゃったのかな?」
「お二人は優秀ですので! えーと、その優秀なお二人なんですけど、どこかで見かけませんでした?」
「たぶん……横のエセ双子が瞬殺したのかなと」
「エセ双子……? え、その耳の形。もしかしてエルフ!? すごい、妖精みたいな美人! ホントにいるんだ! ファンタジー!!」
「エルフを知らない……? そういえば【なまはげ】って、一説には妖精の仲間だとかいう話も」
「我が王よ、なにも、今それをおっしゃらなくとも……」
「我々も、少しは良い気分に浸りたいのです」
「悪かったよ。それで、君が勇者で合ってる? 街や近隣の人に乱暴をした覚えは?」
「はい、私が勇者ですの。乱暴? 住民からお金とアイテムを貰うのは、勇者の特権なのでは?」
「なんでだよ、そんな特権は存在しないよ。俺も免税はしてもらってるけど、さすがに殺人許可証や私掠免状は発行してもらってないし。ところでさ、その『ですの』とかいうの、素の口調?」
「いえ、これは【マサユキさん】がそうしろって。勇者らしい口調をしなさい、と」
「マサユキ?」
セージはキョロキョロと辺りを見回すが、他に誰かがいる気配はない。
「ここにいますよ。マサユキさーん、返事してください」
少女は剣に向かって呼びかけた。
(……なんだよ花蓮。俺を呼んでも仕方ないだろうがよ。聖剣の役割は勇者に力を与えるのみだぞ)
「なんだこれ。頭に直接響いてる?」
「これが勇者の聖剣・マサユキさんです」
「は?」
「そのナマクラが……勇者の聖剣?」
そのワードはエルフの逆鱗に触れた。
『いや、お掃除棒の方がよっぽどナマクラだよ。ナマクラどころか木の棒だし。エルフって視力弱いのかな』
セージは心の中で悪態をつく。
(ナマクラとは随分な言い草だな。俺は見ての通りインテリジェンスソード。意志ある剣だ。これでも転生する前は人間だったんだぞ)
「転生……?」
馴染みのない概念に、セージは首をかしげる。
(おう。なんつうか、生まれ変わりってやつよ。こっちの世界では無い考えなのか。ともかく、聖剣になった俺は、選ばれし者に絶大な力を与えられる存在になった)
「それは……なんというか──ご愁傷様」
(待て! なんで憐れまれてるんだ! 絶大な力って言っただろ!? 定命の人間とは違う! ヒトを──超越してるんだぞ!!)
「すごく言いづらいんだけど……何かの罰じゃないの? ソレ」
(は?)
「いや、だってさ。自分では動けないんでしょ? 例えば全く人のこない空間に何万年も孤独に放置されたとして──精神的に耐えられるもんなの? 俺は無理だな」
(…………)
「それに、無機物ってことは……食欲、性欲、睡眠欲。いわゆる三大欲求が無い。子孫も作れないし美味しいものも食べられない。元が男だったとして、そういう風に少女を見つけてもただ眺めてるだけ。絶望じゃん。それ、生きてる意味、あるのかなあ? あ、ゴメン。無機物だから生きてはないな」
「セ、セージ様……」
「我が王は時々、エルフよりも辛らつですよね……」
「失敬な。エルフと一緒にはしてくれるなよ。俺は無闇に暴力は振るわんよ。それ以前に腕力が無いって話だけど」
だが言葉の暴力は振るう。
それが勇者。
「あの! 突然あらわれたアナタは一体、なんですの!?」
そこで置いてけぼりを食らった少女が、存在を主張するかのように声を上げる。
「俺? エルフと国王様が言うには勇者らしい。ここに来たのは治安維持のためだな。その『ですの』っていうの、やめたら? もし気に入ってるなら、余計なお世話だけども」
「ゆ、勇者!? マサユキさん、私以外に勇者がいるんですか!?」
(お、落ち着けカレン! ソイツは偽勇者だ! 俺を使いこなすお前こそが本物! 全力を引き出していいからソイツを倒せ!!)
「は、はい!!」
マサユキは未だセージの言葉に動揺していた。
嫌な現実を直視しないよう、少女に檄を飛ばす。
戸惑いながらも剣を構え、それに応える少女。
「お、対話で終われるかとも思ったんだけど……やるの? 無自覚みたいだから情状酌量の余地はあるけど、容赦しないよ?」
「我が王! お下がりください!」
「ここは我々が! ナマクラもろとも殺りますので!!」
「いいよいいよ。対人戦かつ、剣は自分で動けないみたいだし。それじゃ、勝手に先制を貰うとして──禁忌魔法【ポンポンペイン】」
「ひ、ひいいぃいいいいい!?」
「あわわわわわわわわわ!!」
会話の最中、唐突に魔法を仕掛けるセージ。
それを聞いて恐慌状態に陥るエルフ二人。
その魔法はエルフの遺伝子にトラウマとして刻まれていた。
【ポンポンペイン】……とても凶悪な対人魔法。無機物や一部の魔物には無効。消毒魔法の【マキロウ】とは真逆の作用を持ち、お腹に存在する目に見えない魔物を活性化させる。あまりにもえげつないので、初代勇者も悪人とエルフにしか使用しなかった。
「なにを──アイタタタタ! お腹が痛たたたた!!」
「それ、弱設定だから。降参しなければ──問答無用でどんどん痛みを強くする」
「参った参りました! 乙女の尊厳が死にそうなので許してください!!」
「勝った」
まだ時間にして数分も経っていない。
少女の降参宣言を聞き、魔法を解除する。
「ポ、【ポンポンペイン】だけはご勘弁をぉおおお!!」
「靴でもなんでも舐めますので!!」
「いや、なんで味方の方がダメージの尾を引いてるんだよ。君ら、魔法食らってないだろ?」
「「…………」」
エルフコンビは何も言えず、なみだ目でプルプル震えていた。
「とりあえず自称勇者の少女は確保。聖剣は……どうするかな。なあ、もう一回転生? するのと、地中深くに埋められるの。どっちがいい?」
(………………柄の部分にコアの宝石がありますんで、一思いにやってください……)
「そうか──その境遇、本当に同情するよ」
こうして、偽勇者事件は幕を下ろす。
後年、エルフの書にはこう記される。
『真の勇者に刃向かいし、偽りの勇者。王の怒りに触れ、その身には禁忌の厄災が降りかかる』
その文字は、書き手がまるで怯えながら書いたがごとく。
震えたように、ヨレヨレだったという。
※念のために後で検索をかけるとビンゴしてしまいました。突拍子のないことでも、すでに誰かが作品に落とし込んでることが多いですね。これ【マッピング】もすでにありそう。知らないなりに気を付けてはいるのですけど……。
重要:特定の作品を貶める意図はございません! 決して!
当初は一万文字もいかずに終わる予定だったのですが、思いのほかブックマークと☆をいただいてるので続いてたりします。
表題的には完結してますし、続けるならタイトル変えるか、もう折を見てたたんでしまうか……。





