エルフ暴動により無双しそうなアフター・偽勇者?出現
「……セージ殿。突然呼びつけるようなマネをして、スマンな────」
「いえ、ギルドマスターには恩がありますから。手紙だと、ただならぬ様子みたいでしたが。何があったんですか?」
追放の仲裁をしたセージ。
その後、予定通りギルドマスターの部屋へと訪れたのだった。
ちなみに、暴れようとするエルフは強制的に引きずっていった。
「……うむ。そのことなのだが。勇者が、出現した────」
「我が王の存在も世間に認知されてきましたか」
「結構なことです。いえ、むしろ浸透するのが遅すぎたともいえます」
「……違うのだ。セージ殿以外に、勇者を名乗る者が現れたのだ────」
「それは──かなりヤバいですね。具体的に何がヤバいかというと……。アイナ、長老の言葉、復唱」
「御意! 【勇者様は、一人だけでいい……】」
「アイナだけズルいですよ!!」
「こんな感じなので、エルフが暴動を起こす可能性が高いです。ぶっちゃけ、自称勇者よりそっちの被害が心配です。下手をすると街が滅ぶかも。エルフィ、後で適当に褒めてやるから矛を収めてくれ」
「……エルフだけは確かにシャレにならん。自称勇者が酷い狼藉を働くのでな、Aランクの冒険者に依頼して討伐に向かわせたのだが。全て返り討ちに遭ってしまった────」
「マジっすか。自称のクセにかなりの手練れなんですね。では、Sランクは?」
「……折り悪く南に災害が発生した。それ以外も含めて、全員、出払っている────」
「それで俺を招集したということは……俺はその自称勇者の討伐を?」
「……そのようなことは頼めない。セージ殿は非戦闘職。直接口頭で、もっと大事なことを頼みたかったのだ────」
「大事なこと、ですか? それは一体……」
「……うむ、他でもない。先ほどセージ殿が言ったように、対エルフの抑止をな────」
「ごもっともです。むしろ納得以外ない。もしもこのことがエルフの里に知れたら……考えるだけで面倒な事態に」
「……実はもう知られている。この手紙を読んでくれ────」
ギルドマスターは一枚の手紙をセージに差し出した。
文に目を通すセージ。
『前略
コクラマグナのギルドマスターへ
こちら、エルフの里の長老でございます。
偽勇者の噂の件、我々も早速、聞き及んでおります。
現在、全エルフへの出撃命令が完了し……。
半日もあれば全軍出陣できるでしょう。
しかし、そちらは我らが王・セージ様が世話になった街。
一週間だけ差し上げます。
それが血気盛んなエルフを抑える限界でもあります。
それ以上はもはや、勇者様以外に止められる術はございません。
悪しからずご了承のほど、よろしくお願いいたします。
かしこ
エルフの里の長老より』
文面の通り、エルフの里の長老は女性である。
「…………これ、丁寧に書いてるようですけど、シンプルに言えば脅迫状ですよね。要するに、一週間以内に人間が解決しないとエルフがぶっ潰しに来ると」
「……そうなのだ。それゆえ、本来は過失のないセージ殿を巻き込むような事態に。まことに、申し訳ない────」
「いやいや、ご英断といいますか、もはやそれしか方法はないんじゃないですかね。しかし、Aランクの冒険者が討伐できない時点でタイムリミットありはキツイな……」
「僭越ながら、我が王よ」
「不肖、我々がその命知らず──勇者もどきを仕留めて参りましょうか?」
「うーん、今回ばかりはそれがベストな選択か。ハイリスクハイリターンというか、不安の種は尽きんけども」
「お任せください!」
「王のお役に立つことこそ、我ら至上の喜び!」
「そこが不安なんだよね。よし、わかった。一つだけ条件な。俺も一緒に行く」
「そ、そんな!?」
「王は玉座にて吉報をお待ちください!」
「いや玉座とか持ってねえから。今回、魔物ではなく対人だろ? なら一応は自衛できるし、心配ならどっちかがアタッカーをやって、もう片方が俺の護衛をしてくれればさ」
「それなら私が護衛を!」
「いえ私が!」
「出発前から早々に揉めるなよ。じゃあ道中、役割をスイッチで。代わり番こってことで納得してくんない?」
「そういうことでしたら……」
「勅語、承りました」
「いちいち返事が仰々しいな……。ということでギルドマスター、賊の居場所、教えていただけますか?」
「……それは無論だが。ヤツは南にある、元ラクーン商会の建物の廃墟にいる。だがセージ殿、よいのか────」
「ええ。もう、なんというか……エルフが絡んでると他人事じゃないんですよ。あ、でもギルド所属の腕のいい斥候に、先触れをお願いできませんか?」
「……先触れ? それは構わんが、何を言伝るのだ────」
「内容は決まっています。『これよりエルフがそちらに向かう。自首するなら良し。しないのなら──己の罪を懺悔して待っていろ』、と」
「……然り。人道的な措置だ。承知した────」
「待ってください! 納得がいきません!」
「それでは我々がまるで、勇者伝説に出てくる【なまはげ】みたいではないですか!」
なまはげ。
異世界に出てくる鬼っぽい異形。
初代勇者がエルフに語って聞かせた。
諸説あるが、出刃包丁や鉈を持って悪い子を探し、練り歩く存在である。
泣く子はいねぇか、とも叫ぶらしい。
むしろ、こいつらの怖さに泣く。
「なまはげ……ああ、家にそんな伝承が伝わってたな。ピッタリじゃん、エルフに。エルフ=なまはげか」
「嫌ですよ! 可憐な森の民ですよ!?」
「そんなご無体な!!」
「まあ君ら、ガワだけは絶世の美女だからな。中身は【なまはげ】の残念美人だけど」
「!? ──」
「またアイナが喜びのあまり気絶をッ!! 王よ! 一度落として上げるとは──なんたるテクニック!」
「ほんと、何言っても喜ぶよな、君らは」
そして、セージ達は偽勇者の討伐へと乗り出すのだった。
 





