俺は代わりに復讐をする
俺は異世界の少年『勝』に転生した。@短編99
追記>>タイトル変更。旧題『勝は俺』
俺は前世は何処かの国の英雄だったらしい。
でも小説ではよくある展開で、救った人間になんと足元をすくわれたんだ。
そして殺された。酷い話だよね。
強い力を持ったカリスマ勇者(そう言われた。俺はピンとこなかったが)。
体格も細マッチョで背も高くハンサムだった。
女にも男にもモテた。だって性格もまあいい方だったと思うし。
だけど妬まれた。
力を恐れられた。
カリスマまであったから、王様とかが懐疑心で落ち着くことが出来なかった。
で、王様とか大臣とか領主とかの『偉い人達』にね?
美味しいお酒に睡眠薬、そして魔法『スリープ』を重ね掛け、その上で鎖で簀巻きにされ、海に落とされた。
当然口も鼻も塞がれていた。
海に沈んで苦しさで目が覚めたけれど・・・死んだよ。
そしてどうしてこんな状況に陥ったのか、数秒で理解したけど。
ああ、俺のした事って誰にも感謝されない事だったんだなぁ。
その時は『ありがとう』とか言いながら、脅威が去ったら今度は俺が脅威になっていたなんて、笑い話にさえならない。
ああ、みんなが幸せに暮らせるようになって良かった。
今度は俺が幸せになろう。
そうだなぁ、旅をして美味いものでも食おうかな。金ならあるし。
戦いで出会ったあいつとあいつと、ああ、あいつの所にでも行って・・・
なんて夢があったんだ。
そんな前世を、昨夜の夢で思い出したんだ。
今俺は前の世界とは違う歴史を持つ、別の世界に転生したようだ。
俺がいた世界の国の名とか、歴史も全く違う。まず、魔法がないのだ。
ついでに言えばドラゴンなどの魔物がいない。過去にもいたことがないのだ。
まあいいけどね。
俺は前世で28歳で死んだ。
今の俺は17歳、高校二年。那智勝という名だ。
成績は下の方、勉強が苦手。ついでに運動も苦手。特技なんて何もない。
普通・・いや、かなり出来ない人間だ。私立の高校でエスカレーター式、中学からそのまま上がったおかげで高校に入れた。
まあこの高校も俺程度が受かるレベル、就職も進学もパッとしない所に進む運命は決定だ。
それはともかく、高校へ行くか。
朝飯は・・・コーンフレークに牛乳をかけ、もしゃもしゃと食べる。それで終了。
勝の両親は・・・いない。いや生きてはいるが、家にいないのだ。
父親は不倫相手の家に入り浸っているし、母親は俺の顔が父親似だから顔も見たくないとかで母方の祖父母の家に行ったきりだ。もう3年会っていない。金だけは振り込んでくれているので、キャッシュカードでおろせばいい。
俺が二十になったら離婚して俺は自立させられるんだろうなー。
俺を引き取ろうというアクションがないから何と無くわかる。まあ大学行って『金をよこせ』というのもいいかもな。
まあ何にしろ・・・自由だな。
昼飯は校売でパン、もしくはコンビニで弁当。
勝は自炊をしない。家も掃除していないし、ゴミ捨てもたまにだから家がゴミだらけ、洗濯もたまにだ。
何だか臭い。
台所も、風呂場も、玄関にはゴミ袋がいくつもある。
俺はなんで勝と入れ替わったんだ?普通宿主が死なないと、入れ替わるなんて出来ないはずだ。
入れ替わる何か原因・・
こつん
何かが足に当たった。
薬の箱だ。これは・・熱冷ましだ。
勝の知識が俺に賦与されているのだろう、文字、物の意味などが分かるのは有り難い・・
そうか。勝は熱があったんだ。病気だったんだ。
携帯(これの使い方も分かるのは勝の知識のお陰だ)を見たら通話履歴があった。
でも着信拒否のようだった。メールも送っているが、既読になっていなかった。
つまり両親は勝を・・見殺しにする気だったのだ。
そして勝は死んで、俺が転生したんだ。
可哀想な勝。
こんな生活じゃ、友達もいなかっただろう。
辛かっただろう。
(死んでもいいや、死んでやる、クソ親どもめ感謝しろ、死んでやるから
こんな人生、もういらない・・)
熱でうなされ、涙を流す勝のビジョンが脳内に浮かんだ。
前世の俺は両親には恵まれた。愛情いっぱいに育てられた。
だが魔王に殺されてしまった。俺を守るため、身を挺したのだ。
なのに勝の親はなんなんだ。
未成年の息子を見殺しにしたら自分達だって罪に問われるのに・・
ああ、メールも見ていないから状況が分からないんだな。
死んで初めて後悔・・いや、後悔はしないだろうな。『やばい!、まずい!!』と、顔を青くさせて狼狽えるんだろうな。
もしかしたら・・遺体を隠し、『息子は別の場所に引っ越した』とか言うんだろうか?祖母に引き取られたとか、叔父の家に行くことになったとか、その辺りか。
そんな事させないぞ。
よくも我が子を捨てたな。
今度は俺がお前達を捨ててやる。これは代理戦争ならぬ復讐だ。
俺は病人に偽装した。なあに、体温を少し上げて咳き込んで見せればいいのだ。
2時間ほど剣を振るえば・・・ああ、そんな物は無いか。
部屋を物色すると、父親が昔使っていた家ジム用具があった。ダンベルに重り20キロをくっ付けてスクワットをしてみる。勝は全く筋肉がないので、10分でぐったりだ。5分休憩してまた10分、また10分、また・・・
これを10セット。根性で持ち上げ続けた。
体温計で測ると38℃になっていた。よし、病院に電話だ。
いい具合に筋肉痛も重なって、重病人もどきとなり救急車で搬送されたのだった・・・
こうして今まで両親のしてきたことが明るみになり、ご近所の方々、先生や同級生に大いに同情されることとなった。
その後両親だが・・ご近所はもとより、会社関係者や自分達の親兄弟にも慢罵され、見放されたのだった。
父の不倫相手など、即刻逃げ出したそうだ。でもすぐに噂が女に追いついて、今では誰にも相手をされないとか。
父は会社を辞めて転職をしたが、先の話が伝わっていて上手く人生が回らなくなったようで、いままで出来るサラリーマン風だった格好が、だらしない中年のおっさんになっているらしい。
母も家を追い出され、自活しているようだがまともに仕事もしたことがない中年のおばさんが出来る仕事など少ない。いつも小綺麗にしていて10歳は若くみえたのが、今はただの中年の・・『ばばあ』って呼ばれるに相応しい姿だそうだ。
両親両方の祖父母は『夫の祖父母が見ている』『妻の祖父母が見ている』と聞かされていたそうで、それはもう驚いたそうだ。
どちらの爺婆も普通にまともで、どうしてあんな父と母に成長したのか理解に苦しむ。
父母の兄弟姉妹達も本当に普通の人たちで、いい人だった。
彼らの善意で家を離れ、別の学校に転校をする事にした。
学校の皆やご近所の方々に、あまりにも気を遣われるのが億劫になったのだ。
新天地ではもともと俺に備わっていた力を使い、勉強に、スポーツ・・剣道にがむしゃらに取り組んだお陰で、成績も体力も向上した。
まあ青春を謳歌しつつある。
勝もやりたかっただろう人生を歩み始めたわけだ。
時々血のつながりだけのふたりから手紙が来るが、箱にしまって読んでいない。
どうせつまらない時候の挨拶、そして上辺だけの懺悔文だろうから。
そうそう、両祖父母が俺のために遺産の生前分与をしてくれた。父母の兄弟姉妹達も賛成してくれたそうだ。
本当、彼ら親族はいい人ばかりなのに・・まあそれはいい。
その財産のことを知ったんだ、だから俺にご機嫌取りをしてくるわけだ。
その事を両祖父母に相談するや、即刻弁護士に相談してくれたそうだ。本当に頼りになる人達だ。
自分の両親をここまで心配させるとは、本当どうしようもないクソ親だ。
父方ばあちゃん、体調が優れないそうだぞ。まったく・・・
母方ばあさんは、俺が虐待されていた事を知らず、我が娘を甘やかして家に居させた事を深く反省しているせいか、何彼と面倒を見ようとしてくれるのだ。ありがとう、ばあさん。そんな優しい貴方を利用した母親には恨みこそすれ、ばあさんには何も思っていないからね。
俺は偶数月に父方の祖父母に、奇数月に母方の祖父母に会いに行っている。
前世でも両親が亡くなった後、俺をジジババが育ててくれたんだ。だから基本じいさんばあさんが好きだ。
これからも頑張って勉強して、爺さん婆さん達に孝行して行きたいな、そう思っている。
なあ、勝。
お前の分も、俺は頑張るからな。
一番の復讐は、幸せになる事だ。
でもお前が生きているうちに何とかしてやりたかったよ・・・
俺ももう一児の父親になった。
名前は勝利と書いて『まさのり』と読む。
そうなのだ!
我が子に勝が転生したのだ!!
何で分かるんだと言われても、分かるんだから仕方がない。
俺は大学時代に前世の記憶を思い出しながら小説を書き、それが見事に当たった。
小説からマンガに、声優CDからアニメに、ミュージカルに!大金が舞い込んだ。
今も続編をコツコツ書き続け、大人気作家となっているわけだ。じじばば親族にも還元しています!!
この前親族みんなでイギリスに行った。前世で暮らしていた世界にちょっと似ているんでね。
みんな大いに楽しんでくれたし、じじばば達も『冥土の土産になった』とか感涙するし。
まだまだ!冥土に行く前に色々連れて行くからね!
あ、当然クズ達は放置ですけどね。
俺の嫁だが、投稿当時の担当編集者。美人ではないが俺に理解がある。そして趣味も合う。話が合う、それが一番大事。
勝利を生んでくれたのだ、さらに愛は増すってものだ。
時々勝利は寝ている時に飛び起き、泣いてぐずる。
俺には分かる。
あの前世の辛い日々を思い出して泣くんだ。
前世での父親も、俺が怖い夢を見た時こうしてくれたんだよな。
「泣いていいぞぉ。レシラ(前世で父の事。つまりパパ)が抱っこしているからなー」
しばらくぐずって、勝利はコテンと寝落ちする。
嫁はその様子を見守っていて、息子が眠ると俺の頭を抱き寄せて。
「素敵なレシラ。貴方が父親で良かったわ。大好き」
嫁も辛い幼少期を過ごしたそうだ。
嬉しそうにする嫁を引き寄せて、息子ごと抱き上げて、
「好き程度だとぉ?俺は愛してるぞーー」
ちょっとふざけて棒読みで。
体のバランスを取ろうと、俺の頭にしがみつく嫁、そして息子と一緒にベッドに背面ダイブ。
みんなで幸せになろうな。
俺は二人の体温を感じながら目を閉じた。
ここに投稿始めて1年。次は100の大台に乗る。っマジか・・