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血統術式

 無属性魔法《光盾(シールド)》。


 魔力で構築された光の壁が、怪獣の放った特大サイズの光線を遮ります。


 ふふふっ、念入りに三枚重ねです。

 手応え的に、一枚でも良かった気もしますが、主人公属性なコノヤロードーン的パワーアップをするかもしれませんからね。

 余裕がある内は余裕を出しておきませんと。


『こ、これは!? なんという……!』


 自分を殺したよりも更に強力な攻撃と、それを防いでいる私の防壁に、なにやらドラゴン様が恐れ戦いている感じですね。

 まだまだ修行が足りません。

 世界は何でも起こるのですから、自らの常識こそが全てと思わない事です。

 世の中、凄いのがいるものですよ?

 たとえば、並行世界に蔓延るあなたのご主人様とか。

 もうね、あれは、なんというか、ね? って感じな生命体と化しておりますからねー。


 さてさて、このブレスってばいつまで続くのでしょうか。

 よく息が続きますね。

 そういう問題ではない気もしますが。


 取り敢えず、私たちは無事なのですが、弾いた余波が拡散して町が酷い事になっております。


 ……ええと、首都ですよね?

 うん、あんまり破壊されてしまうのは避けるべきですか?

 ですよね?

 仕方ありませんねー。


「魔力、変換、再構築」


 光壁に触れて、その組成を変換します。

 三枚用意しておいて良かったです。


 行動は焦らず、されど素早く行わねばなりません。

 盾としての機能を破棄して、別の形にしているのです。

 時間をかけると魔力を吹き散らされてしまいます。


 まぁ、普通にやれば充分に間に合います。

 一枚でも耐えられますから、焦る気持ちも全くないですし、ミスって失敗しても少し魔力が勿体ないという程度なので、何一つとして問題ありません。


 はい、特に何の問題もなく完成。


 さぁ、行きますよー?

 行っちゃいますよー?

 歯を食い縛りなさい。


 無属性魔法《衝撃(ショック)》。


 手前二枚を利用した二連撃です。


 一つ目のショックで、怪獣光線を弾き飛ばして射線を確保します。

 ふふふっ、己の攻撃が消し飛ばされて唖然としている間抜けな顔が丸見えです。


 間髪入れずに第二撃が来るというのに。


 グシャッ、て感じに怪獣の巨体がひしゃげました。

 下手に踏ん張ったからでしょう。

 身体の前半分くらいが押し潰れています。


 そこで限界が来たらしく、派手にぶっ飛びました。


 500m越えの巨体が宙を舞う様は、爽快感が溢れていますね。

 まぁ、今は潰れて半分くらいですけど。


「あっははははっ!

 見ました!? 見ましたか!?

 無様に吹っ飛んでいきましたよ!?

 ザマァーーーーーー!」


 きっと鬱憤が溜まっているであろう美影さんとドラゴン様に、笑顔で言います。

 彼女たちも、仇敵の情けない姿にスカッとしているのではありませんか?


「えっ? あ、え、ええ……。えぇ」

『……なんとも、凄まじいな』


 おや、なんとも歯切れの悪い事ですね。

 もっと素直に喜べばよろしいのに。


 怪獣は、無様な飛翔の果てに、東京湾へと落下しました。

 海面が波打ち、小さな津波となって沿岸部を襲いました。


 その光景に、私は眉をひそめずにはいられません。


 なんという無能か。

 綺麗に着水する事も出来ないとは。

 全く、仕方ありませんね。

 美的センスもないなど、救い難いにも程があります。


 やれやれ、と、怪獣の雑魚さ加減に呆れていると、荒れる海の中から顔を出します。


 あら、こんにちは。

 随分と顔が歪んでいらっしゃいましてよ?

 生まれ直してやり直しては如何ですか?

 オホホ。


「半分に圧縮してやっても、全然死にそうな感じがありませんねー」


 どうやったら死ぬんでしょうか。


「や、奴は集合生命体ですわ!

 核を潰すか、焼き尽くすしかありませんの!」

「成程!

 流石は美影さん、良い事を言います」


 怒りの咆哮と共にブレスを吐こうとしやがっていましたので、出の早い魔力弾で適度に邪魔してやります。

 バスバスバス、と風穴だらけにしてやりました。

 ちょっと黙っていなさい。

 先生、怒っちゃいますよ?


 余所見をしながら、怪獣を抑え付けている私に、なにやらドン引きしているような気配を感じますが、無視です、無視。


 ふぅむ。

 それにしても、集合生命体ですか。

 なんとなく親近感が湧きますね?

 まぁ、私と違って核がある辺り、不完全な生物と言えましょう。

 ふっ、下等生物め。


 地道に核を探しても良いのですが、面倒ですね。


 ここは、楽しんでしまいましょう。

 平和になったおかげで、使う場面のなかった秘術もある事ですし、実験台となってもらいます。


 魔力を一気に練り上げます。


「きゃっ!?」

『ぬぅ!?』


 その余波に悲鳴が上がりました。

 大丈夫大丈夫。

 貴女たちを傷付けるものではありませんから。

 面白いものが見られるので、楽しんで下さいな♪


 空属性魔法《離界(ルーム)》。


 魔王クラスの魔力の大半を利用して、まずは巨大な箱を作ります。

 空間断層で覆われた、特別製です。

 これくらいしないと、これから使う術を遮断できませんからね。


 無属性魔法《縛鎖(チェイン)》。


 そんでもって、魔力鎖によって怪獣を捕獲。

 ルームの中に没シュートです。


 ふふふっ、暴れても無駄ですよぉ。

 もう閉じちゃいましたから。


 さぁ、準備は出来ました。

 ここからが本番です。

 イギリス弁的に言えば、イッツ・ショータイムという奴です。


 両手の指を立てて、互いの手首に突き刺します。

 ゴポリ、と赤い血が溢れ出ます。


「な、何をしているんですの!?」


 突然の自傷行為に、美影さんが悲鳴を上げました。

 なんと繊細な。

 私を心配するとは、これ、ホントに美影さんですかね?

 疑惑は深まります。


「まぁまぁ、見ていなさいな。

 面白いものを見せて差し上げますから」


 溢れる血液をインクにして、魔法陣を描きます。

 本式なら、かなり複雑な設定が必要なのですが、アバウトでも感覚で調整できる魔法を使える私の場合、大部分を省略しても問題ありません。


 真円に八芒星というだけの簡素な魔方陣を宙に描き出した私は、ルームの中にしっかりと狙いを定めます。

 間違って外に出てしまうと、マジでやばいですからね。

 怪獣被害が鼻で笑えるレベルでやばいです。


「さぁ、刮目せよ!

 冥土の土産として体感せよ!

 我らが刻みし、業深き血統を……!」


 星魔戦争に間に合っていれば、戦争の流れを大きく変えたとまで謳われる、秘術。

 あまりの威力の高さに、実験の中でしか使われていなかった、対宇宙怪物用大魔術が陽の目を見る時。


 さぁさぁ、食らいなさい!

 二百年の時、連面と紡がれてきた業深き血脈の重さを!


 血統魔法《炎城之血ブラッド・オブ・ブレイズ》。


 血脈の中に眠る霊格を解放し、純粋にぶつけるだけの蛮術が発動します。


 血の魔方陣が燃え上がり、同時にルームの内部に火が灯りました。

 初めは小さな火でしたが、魔方陣が完全に燃え尽きると同時にその真価を発揮します。


 灼炎。


 太陽もかくや、という火炎がルームの中で暴れ狂いました。

 実際は、太陽など比べ物にならないほどの熱量が発生しています。


 目を焼く閃光は、数瞬で消え去ります。

 効果時間は短いですが、まぁそれで充分過ぎます。

 これ以上長いと、もう使い処がないでは済みませんからね。

 封印級です。


 二秒かそこらの出来事でしたが、結果は一目瞭然です。


 ヒビ割れて、今にも砕け散りそうなルームの中には、何もありません。

 塵一つです。

 あの一瞬で、巨大怪獣がしっかりきっちり蒸発してしまったのです。


 っていうか、マジでヤバイですね。

 空属性による空間断層は、物理エネルギーでは破壊不能の筈なのに、何であんなに傷付いているんですかね。

 念を入れて、魔王クラスの魔力で構築しておいて良かったです。

 いや、ホントに。


「…………」

『……なんと、いう』


 あまりの結果に、観客のお二人は絶句しているようです。


 まぁね! 凄いですもんね!

 感動ものです!

 私も初めて見て使った時は大層驚きました!


 まぁ、超怪物である美影さんにこっそり使ってやったけど、全く効かなかった時は酷く落胆もしましたけど。

 あの人、もうどうやったら殺せるのかも分かりませんね。


 と、その時、私の脳内に怪電波が飛んできます。


 ふむふむ。あらー、見付けちゃいましたか。

 そうですね。

 覗き魔には制裁を加えてやるのが、女の矜持であり義務というものでしょう。


 ええ、構いません。

 遠慮なくやっちゃいなさい。

 あっ、お残しはいけませんよ?

 はい。


「てーけーりーりー」


 通信終了の合言葉をいうと、それに反応して、呆けていたお二人がビクリと身を震わせて我に返ります。


「あ、貴女は、一体……」


 恐怖を宿した視線で、美影さんが呟きました。


 あー、覚えがありますねー。

 人間、自分の理解を越えると恐怖になるんですよねー。

 それが続くと、もうどうでもいいや、と開き直って受け入れるものです。


 うんうん、懐かしい。

 私の世界の人間たちも、そんな感じでした。


「ふふっ、そうですね。

 名乗っても良いのですが、ここはセオリー通りに、今は秘密、という事にしておきましょう」


 口許に指を一本立てて、お茶目にウィンクします。

 やりました。

 今の、結構良い感じだったんじゃないですか。

 ミステリアスな女の子感が出ていたような気がします。


「もしも貴女が私を見付けられたら、その時こそ名乗りましょう。

 それでは、ごきげんよう」

「あっ、待っ……!」


 私が去る気配を察したのでしょう。

 美影さんが手を伸ばしますが、それよりも先に私はマントを翻して身を包みます。


 空属性魔術《二点移動(ダイレクトライン)》。


 そして、すかさず移動術式を発動!


 華麗にその場から立ち去りました。

 ふふふっ、凄くカッコ良かったですよね、今の私。

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