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魔女の奇跡

 ふっ、決まりました……。

 今の私の登場、とってもカッコ良かったですよね。

 タイミングを見計らっていた甲斐があるというものです。


 色々と私には辛口な美影さんと言えど、流石に認めざるを得ないに違いありません。


 空に浮かべたたくさんの魔方陣から、魔力で構築した鎖が大量に伸びております。

 それに絡め取られた怪獣は、逃れようとなんだか踠いておりますが、無駄無駄無駄無駄ァです。

 そう簡単にぶっちぎれるようにはしておりませんよ?

 まぁ、かといってそう強くもしていないので、頑張っていればその内千切れるのではありませんか?

 精々、頑張ってくださいな。


 さてさて、それはともかく、美影さんの反応は如何に、と思って見てみますが、なーんとも反応薄いですね。

 死んだ目、所謂レイプ目という感じで絶望感溢れる表情で消沈しております。


 あれあれ?

 絶望するには早過ぎますよー?

 助っ人参上ですよー?


 泣き顔&絶望表情はレア感あるっていうか、初めて見させていただきましたけども。


 まだまだ諦める時間ではありませんよー?


「美影さーん? 大丈夫ですか?」


 優しく声をかけます。

 あれと同一人物であって、同一人物ではないという地雷原のような少女です。

 ソフトな刺激で接しないと、途端に起爆してしまいます。


 アッ、アッ、止めてぇ~。

 微塵切りにした私を炒めないでぇ~。

 溶けちゃいますぅ~。

 蕩けちゃいますぅ~。


 ハッ!

 いけません。

 嫌な思い出がフラッシュバックしてしまいました。

 こんな記憶は封印して、脳ミソの片隅にポイしておきましょう。


 あんな嫌な女の事はさておきまして、目の前の彼女です。

 どうしてこんなに絶望感漂わせているのでしょうね。

 もしもーし?


「…………どうして」

「はい?」


 蚊の鳴くような小さな声で何かを言っています。

 あのー、申し訳ありませんが、もうちょっと大きな声でお願いできますかー?


「どうして、もっと早くに……来てくれなかったんですの?」

「ふむ。理由、ですか。

 程好い機を見計らっていたからですけど」


 やっぱりカッコよくいかないといけませんよね!

 見栄えは大切だとよく言っておりましたし!


「そんな、理由で……」


 私の言葉に反応して、美影さんの目に生気が宿りました。

 大変に見覚えのある色合いですね。

 そう、阿修羅面怒りモード……!


 ここここ、怖くなんかないやいっ!

 かかってこいやぁー!


「貴女が……!」


 掴みかかってきました。


 お、おおお、落ち着きなさい、私の右腕!

 こいつは、美影さんであって美影さんではありません!

 全力で殴ってしまえば、多分、普通に死んでしまいます!


 反射的に殴り倒そうとする両腕を、必死の理性で押さえ付けながら、彼女の訴えを聞きます。


「貴女がもっと早く来てくだされば!

 セツナは、あの子はッ!

 死ななかったのに!

 何で、何で……!」

「あー」


 血を吐き出さんばかりの訴えに、込められた熱量とは裏腹に私の思考はやや空転してしまいました。


 そっかー。そう考えちゃいますかー。


 これは、あれですね。

 育ってきた環境の違いなんでしょうねー。


 私たちなら、援軍の方にそんな筋違いな感情は抱きません。

 仲間を殺したのは敵ですし、仲間を守れなかったのは自分でしかないからです。


 援軍の方には、何一つとして関係がありませんので。

 責任を押し付けるのは、あまりにも筋が違います。

 来てくれただけで感謝感激ものです。


 しかし、それは、戦士として生まれて、戦士として育ってきたからこその価値観。


 普通の女の子として育ってきた者にとっては、これはきっと理不尽に見えてしまうのでしょう。


 これが、カルチャーショック……!


 まぁ、それはともかくとして。


 ……刹那、ですか。

 まさか、その名を聞く事になろうとは。


 確証はありませんが、流れ的にこちらのドラゴンの名前なのでしょうが、せつな、セツナ、刹那、でーすーかー。


 へー、ふーん、ほほぉー?


 偶然と思うべきか、必然と思うべきか。


 私の脳内美影さんが、ドヤ顔しておりますねー。

 己は刹那さんと結ばれる運命にあるとでも言いたいのですかねー。


 クソうぜぇ。


 なんて、私の心情はさておきまして。


 これも縁ですかね。

 仕方ありません。

 何とかしてしまいましょう。


「これはサービスですから、盛大に感謝してくださいな」

「……え?」


 笑みで伝えると、美影さんは呆けたような顔をします。


 それを放って、私は右腕を伸ばします。

 この損傷具合では、蘇生させてもすぐに死んでしまいますからね。

 まずは、元の形にしてしまいましょう。


 ふふふっ、容易い事です。

 私の身体は、万能細胞のみによって構成されているのですから。

 如何なる生物の如何なる部位であろうと、復元再生させられます。


 袖の中で、私の腕が輪郭を失い、半透明な粘体となります。

 それを薄く広げて、ドラゴンの全身を包み込みました。


 まぁまぁ丈夫な細胞ですね~。

 でも、分かり易い形をしております。

 廃棄領域にいた怪生物たちの、訳分からん生体細胞に比べれば、単純極まりありません。


 …………さっかくなので、もう少しサービスして強めに再構築してあげましょうか。

 これも〝刹那〟さんの名を受け継いでいるからですからね?


「な、何をしているんですのッ!?」


 相棒の亡骸に、唐突に現れた怪しい女が手を出している所為でしょうか。

 美影さんがなにやら警戒を顕に叫んでおります。


 育ちが違うと、ここまで変わるものなんですね。

 私、ビックリです。


 私の知っている彼女ならば、既に私はぶっ殺されている場面なのですが。

 本当に、口よりも先に拳の出る方でした。


 口許に指を立てて置いて、笑みをもって黙らせます。

 黙って見ていろ、です。


 意図がちゃんと伝わったらしく、不満と不安を綯交ぜにした表情で見守る姿勢となりました。


 ………素直ですねぇ~。

 本当に美影さんなのか、こっちが不安になってくる程です。


 強化修復が完了したので、手を引きます。

 右腕を元の人の形に戻し、ドラゴンから粘体を引き剥がすと、元通りの勇壮な感じがする姿が現れました。


「セツナっ……!」


 その姿に、美影さんは堪らず駆け寄ります。

 目尻に涙が溜まっており、声も震えていました。


 健気な様子です。


 私の事など忘れ去ったかのように無防備な姿を見ながら、私はその背中に左腕を突き立てました。


「……え?」


 伝わった衝撃に、美影さんは困惑した声を漏らしました。


「なん、で……?」


 説明が面倒なので無視しますねー?

 痛かったら手を上げてくださいねー?

 別に止めたりはしませんけどねー?


「う!? いっ、ぎぃ!?」


 魂に触れてこねくり回すと、美影さんの魂が震えました。

 ついでに、身体も震えました。

 口からはなんとも形容しがたい悲鳴が漏れ出ております。


 あら、嫌ですわ。

 淑女がそんな醜い叫びを出すものではありませんことよ?


 ちょっと危険なくらい痙攣している彼女の事は放っておいて、私は作業を続行します。


 美影さんの中からドラゴンに関する記憶を見つけ出し、マーキング。

 魔力の糸を紡いで、ドラゴンの遺体に、イン!


 完膚なきまでに死んでしまった影響で、ドラゴンの精神はバラバラでしたからね。

 このまま蘇生させても、植物廃人ルート一直線です。

 よくて、幼児化でしょうか?

 なので、しっかりと元に戻す為には、彼の事をよく知る者の記憶を利用するのが一番です。

 かつて、私が刹那さんに施された処置と同じですね。


 まぁ、それと違うのは、原型の記憶が失われない事でしょうか。


 美影さんとドラゴンの魂を連結する事で、美影さんが記憶喪失してしまうデメリットを打ち消してしまいます。

 まぁ、この場合のデメリットとして、片方が死ねばもう片方も引き摺られて死んでしまう可能性が出てしまう点が挙げられるのですけども。

 繋がりが強すぎて、どうしても影響が出てしまうんですよね。


 まさに、二人は一心同体!

 死ぬ時も一緒ですよ!

 美しい友情ですね!


 結び付きがほどけないように、しっかりと固結びして、施術は終了ー。


 ふぅ、良い仕事をしました!


 美影さんから手を引き抜くと、力が入らないらしく、よろけて膝を突きました。

 ですが、すぐに復活して私に食って掛かってきました。


「何をするんですの!?

 私に何をしたんですの!?」


 今度は殺意高めに傍らに落ちていたマスケット銃を拾って、その銃口をこちらに向けております。

 魔力も充填されており、いつでも撃てる状態です。


 惜しい!

 あと一歩。

 既に撃っていれば、かなり脳内美影さんに近付いていたのですが。

 いや、彼女なら無言で撃っていますね、きっと。

 ああ、怖い。


 私がそんな下らない事を考えていると、表情から真面目に取り合っていないと判断したのか、彼女は怒りに顔を歪めながら引き金に指をかけました。


 それを止めたのは、私ではない声でした。


『美影……?』


 低い、イケボです。

 あら、ドラゴン様、良い声をしておりますね。


 その声に反応して、美影さんは弾かれたように背後を振り返ります。


 そこには、鎌首を弱々しくもたげ、困惑したように瞳を揺らすドラゴン様の姿がありました。


「せ、セツナッ!

 良かった。良かったですわ……」


 その大きな身体にすがりついて、泣き始める美少女。


 うんうん、感動の再会です。

 ああ、私も涙が……特に出ないのは何故でしょうか。

 私は、美影さんとは違って、ちゃんと人の心を解する人情溢れる人間だった筈なのですが。


『……君が助けてくれたのか』


 ドラゴン様が、翼で相棒の背を擦りながら、私に視線を合わせて問いかけてきます。


「サービスですよ、サーーーーヴィス。

 二度としてあげませんから、もう死んじゃ駄目ですからね?」

『ハハハ、耳が痛いな。

 ああ、もう死なないように注意しよう』

「よろしい」


 ほのぼのしていると、背後で何かが砕けるような音が響きました。


 何かあったっけ、と振り返れば、私の魔力鎖を引きちぎった怪獣がいました。

 なんか、先程までより禍々しく変身しております。

 本気モードって気分。


 あらあら、随分とひそかに頑張っていたんですねー。

 あまりに歯応えがないものですから、すっかりと忘れ去っていました。


『GYYYYOOOOOOOOOO……!!』


 やかましく咆哮を上げた怪獣は、全身の口から光を漏らしました。


「あいつ、まだ……!?」

『いけない!』


 危険を覚え、ドラゴン様が翼を広げます。


 飛んで逃げようという事なのでしょう。

 しっかりと美影さんを前足に抱えており、大変に偉いですね。

 私も抱えようとしている様子があり、紳士的でベリーグーです。


 それを、魔力糸で絡めとって阻止しました。


「こらこら。

 病み上がりなのですから、激しい運動は駄目ですよー?」

『がっ!? な、何をするのだ!?

 このままでは――』


 言っている内に、極大の光線ブレスが放たれ、私たちは光の中に消えました。

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