心が痛い
「はい、到着です」
東京スカイツリーの先端に、私、華麗に登場です。
なるべく魔力放射を抑えた上で静かに降り立ったので、きっと誰にも見付かっていない事でしょう。
それにしても、スカイツリー、実物は初めて見ました。
私の世界では、第三次大戦によって跡形もありませんから、ちょっと感動です。
世界各地の名所巡りを楽しむのも良いかもしれませんね。
さて、それはともかくとして、中々に物々しい空気が漂っております。
刺々しくて、重々しくて、禍々しい。
絶望的な戦場へと挑む空気です。
懐かしい、と、思ってしまうのは、若干、問題ありな気もしますね。
ですが、最近の巷は平和で平和で。
つい十年前は人類存亡の生存戦争を行っていたというのに。
もうそんな事も知らない世代が目につくようになり始めた事に時の流れを感じるのは、少々ババ臭い気もしますね。
まだまだ若いお姉さんです、私。
もうアラサーですけど。
そうこうしている内に、いよいよメインイベント到来です。
なんか完全に観戦気分ですけど、不謹慎極まりないですかね、私ってば。
気分的には、コーラとポップコーンが欲しいところ。
遠くに見える東京湾から、ざばぁ、と巨大怪獣がこんにちはします。
あら、なんとなく可愛い、と思ってしまった私の感性はきっともう駄目です。
ですけど、仕方ないんです。
だって、あんな大きいだけの獣なんて、私やノエリアに比べれば、大概に可愛らしいのですから。
適度に殴って躾れば、ペットとして飼えそうなんて思えてしまうのです。
怪獣の容姿は、六足歩行の獣か虫かと言えば、虫に近い感じです。
頑強そうな鱗状の外殻もありますし、もう虫って事にしても良いのではないでしょうか。
顔付きは、中々精悍です。
左右に二つずつ、計四つの目を持っており、下顎からは口の中に収まりきれない巨大な牙が天に向かって伸びております。
全長は、500~600m程でしょうか?
結構なサイズですね。
飼うとすれば、相当に広いお庭が必要でしょう。
余裕たっぷりな感じで堂々と顔を出した怪獣に、ミサイルや砲撃の雨あられが降り注ぎました。
怪獣の全身で爆炎の花が咲きますが、彼は全く意に介しておりません。
無人の荒野を行くが如く、ゆったりと歩を進めて、遂に上陸してしまいました。
まるで、相手にされておりませんね。
護国の兵が、なんと不甲斐ない。
まぁ、仕方ありませんか。
私の世界に比べて、こちらの兵器はなんとも常識的です。
必要は発明の母、という事ですね。(本日二回目)
凄惨な終末戦争を生き延びる為の、より敵を殺し尽くせる高効率な変態兵器など、こちらでは必要ではなかった。
ただ、それだけの事です。
平和な証拠です。
誇りこそすれ、恥じる事ではありません。
結果として、国を守れていないという点で大幅に減点ですが。
「……魔法少女とやらがおりませんね」
怪獣と戦っているのは、全てごく普通の兵器群です。
魔力のまの字も感じられない以上、あそこに混じっているという事はないでしょう。
「怪獣と戦うのは、魔法少女の役目だと聞いていたのですが……これはどういう事でしょうか」
考えられる可能性は幾つもあります。
一つは、敵前逃亡。
勝てないと悟り、命を惜しんで逃走したのです。
まぁ、誰しも自分が可愛いでしょうし、十代の少女なのです。
恐怖に駆られるのも無理からぬ事でしょう。
私が同じ年代だった頃と比べてはいけません。
一つは、単純に出せる戦力がないという可能性。
ここの他にも怪獣が出現しており、そちらの迎撃に向かっている、あるいは以前の怪獣迎撃で戦力が壊滅してしまった、などなど。
そんな理由で、出撃不可能という可能性もありますか。
他にもありますが、まぁ、それはさておいて。
「どうしましょう」
本当にどうしたものでしょうか。
私が、出場するべきなのでしょうか。
ですが、私は外様です。
何がどうして此処にいるのかは分かりませんが、本来ならば存在していない特異点です。
そんな私が出て、世界の帰結をねじ曲げても良いものでしょうか。
…………。
んー、良い気もしますね。
そんな事を言い始めたら、あちらこちらと別宇宙を渡り歩いている美影さんなんか、どれだけ大自然の怒りを買っているというのか。
おお、恐ろしい。
彼女が大丈夫なのですから、私も大丈夫です。
何の根拠もありませんけど。
「では、仕方ありません」
ええ、仕方ありません。
別世界とはいえ、今は亡き祖国が踏み荒らされる姿は見たくありません。
私の微力にてそれを覆せるのでしたら、遠慮なくやらせて貰いましょう。
と、今の今まで思っていたのですが。
どうやら真打ち登場のようなので、私の出番は延期ですね。
頭上を、大型輸送機が通過していきます。
おっと、無断でスカイツリーに登っている事がバレてはいけないので、こっそりと身を隠しておきましょう。
大型輸送機からは、魔力の放射がありました。
きっと、あれに魔法少女とやらが乗っているのでしょう。
下部ハッチが開き、小さな人影が投下されました。
魔法少女の名称通り、年若い女の子です。
あんな年頃で戦に駆り出されるとは、可哀相に。
私? 私は良いのです。
そういうお家に生まれた義務ですから。
黒のツインテールをした彼女。
なんとなく見覚えがあるような気もしますが、きっと気のせいでしょう。
そういう事にした方が精神衛生上、大変によろしい。
彼女は、宙で腕を広げると、高らかに叫びました。
「ドレスアップ!」
瞬間、彼女を中心として空中に光の球が出現しました。
そうです。
変身シーンです。
お色気シーンです。
惜しむらくは、魔力の光が邪魔で、まともな視力ではとても見えない事でしょうか。
なんという手落ちか。
見せないのでは、あまりにも無駄でしょうに。
ちなみに、私の目にはくっきりはっきり見えています。
人間ではないもので。
衣服が分解され、一度、完全な裸になった後、魔力で衣装が編み上げられていきます。
白を基調とした豪華な衣装です。
アイドルのようです。
ですが、ハイレグな下半身は一体誰の趣味なのでしょうか。
あんな子供の趣味とは思いたくないのですが。
衣装チェンジに合わせて、本人も変身していきます。
黒かった髪は、鮮やかな金髪に変わり、肌も抜けるように白くなります。
瞳も雷光の様な黄金へと変化しました。
最後に、マスケット銃のような武装を装備して、変身完了です。
「《千砲万華》ライトニング・キャリバー!
ここに参上ですわ!」
名乗り上げと同時に、少女改めライトニング・キャリバー様を包んでいた光球が、無数の雷となって弾けました。
「……やだー、もー、やだー」
私は色々と複雑な感情の真っ只中です。
微妙な差異はありますが、間違いありません。
容姿も、声も、見覚え聞き覚えの大変ある代物です。
特に発している魔力なんて、瓜二つなんてものではありません。
これでは、目を逸らし続けるてもいられませんよ。
「美影さん、何やっちゃってんですか、もー」
悲報、アラサーの悪友が年甲斐もなく魔法少女(笑)なんてやっている件。
いや、別人だとはちゃんと理解しておりますよ?
でも、やっぱりきつい訳ですよ。
面影がある所為ですね。
ついでに、私の知っている美影さんよりも成長している感じな容姿なので、どうしてもあのアラサー女よりも年上な感覚になってしまうのですよ。
いやー、こんな思考がばれたら殺されますね。
ああ、くわばらくわばら。
まぁ、流石にパラレルワールドの私の動向までは察知できないでしょう!
ハッハッハッ、殺しに来られるものなら来てみなさい!
……今、盛大にフラグが立ってしまった気が。
ああ、いけません。
あの人外生命体を真面目に考えては死が見えてしまいます。
もう少し大人しめに生きていきましょう。
「……取り敢えず、しばらく観戦していましょうか」
まずは、ポップコーンとコーラを近くの映画館から拝借してきましょう。
そうしましょう。
取り敢えず、ここまで。
以降は、完成したらの不定期更新です。
気分転換で書いているので、ペースの保証は全くできません。