《千砲万華》
「怪獣反応を確認しました! 太平洋沖!」
「くそっ! 前回の襲撃からまだ二日だぞ! 早すぎる!」
「オペレーター! 上陸予測ポイントは!?」
「お待ちを! ……東京湾です!」
「よりにもよって首都に直撃か! ふざけやがって!」
ここは、対怪獣特別対策庁。
縦割り行政の日本において、かなりの特権を有した独立機関である。
その権限は多岐に及び、場合によっては国家の武力に対して直接命令を下せるほどだ。
そんな場所が、蜂の巣をつついたような大騒ぎとなっていた。
国家的危機である怪獣が出現したのだ。
何度目の襲撃であろうと慣れるものではない。
この騒ぎも無理もないだろう。
しかも、加えて言えば、つい二日前にも大規模な襲撃があったばかりである。
こんなに頻繁な来襲は、これまでになかったパターンなのだ。
暫しの平穏があると油断していたのだから、誰もがひっくり返ってしまっていた。
「出られる戦力は!?」
「《千砲万華》だけです!
他の者は先日の対応で戦闘不能です!」
「カテゴリー判定、出ました!
でかい……。
カテゴリー6! 最大級です!」
「ま、待ってください!
怪獣反応、ライブラリでヒットしました!
討伐指定怪獣です!」
「なんだとぉ!?」
「コードネーム、カタリナ!
三年前、マンハッタン島を壊滅させた個体です!」
「なんてことだ……。
魔法少女一人で倒せる相手ではないぞ!?」
討伐指定怪獣、それはかつて人類文明と接触した上で討伐される事なく生き残っている怪獣に与えられる忌み名である。
それらの強さは、ノーネームの個体とは一線を画しており、一体討伐する為に国家の総力クラスの戦力を必要とすると言われている。
『それでも、行かなくてはならない。
そうでしょう?』
管制室に、幼さの残る少女の声で通信が入った。
《千砲万華》と呼ばれる魔法少女の声だ。
まだ十代前半であるが、既に複数体の怪獣の討伐実績を持っており、ユニークスキルを有している事もあり、世界的エースとして認知されている。
そんな彼女であるが、それでも通信越しの声には圧し殺した震えが滲んでいた。
ネームドモンスターに単独で挑むという事は、これから死ぬという事と同義なのだ。
それが分かっていても猶、国の為にと命を擲つ悲壮な覚悟をしているのだろう。
「……すまない。
我々は、君に死ねとしか言えない」
『構いませんわ。
魔法少女となった時から、いつかこんな日が来る事は覚悟しておりましたもの』
「出来る限りの援護はする。
それでもいざとなれば……」
『それ以上は言わないで下さいませ』
逃げてくれ、とは言わせてくれなかった。
司令長官は、目を固く瞑り、絞り出すように言う。
「武運を祈る。
国の為に、死んでくれ。
《千砲万華》、金裂美影……」
『ええ。お任せなさい。
私こそ、この国の最後の砦だと目に焼き付けなさいませ』
そして、出撃した。