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変わり果てた家族。多分、良い方向に。

 復讐を誓った事で落ち着きを取り戻した私は、取り敢えず現状把握に努める事にしました。


 現状把握は大切な事です。

 何も分からず、何処に向かうかすら不明なままで走り出しても、ろくな事になりません。

 愚の骨頂そのものです。

 かつて愚者そのものだった私が言うのですから、間違いありません。


 という訳で、何食わぬ顔で朝食の席に着いています。

 ちなみに、二日酔いは即座に治しました。

 風情を楽しんで苦しんでいられる余裕がなくなってしまいましたので。


 家の構造は、まぁ一般的な一軒家、という感じでしょうか?

 炎城の屋敷ほどの立派さはありません。


 正直、物珍しくて、つい視線があっちこっちに行きそうです。

 不審そのものなので、頑張って我慢します。

 その内、探検する機会もあるでしょう。

 童心がわくわくしますね。


 朝食の席には、姉ーー久遠の他に、何故か父と母の姿がありました。

 私の知る彼らは、何処ぞの屋敷に軟禁されている筈なのですが。

 懐かしさに胸中が満たされます。


 この時点で、大概にヤバイですね。

 どうしましょう。

 先手を取って、速攻で張り倒しておくべきでしょうか。


 ちなみに、二人も黒髪をしており、火属性の象徴である赤毛ではありません。


 お父様は質の良いスーツを着ており、ビジネスマンのようです。

 少なくとも、戦士ではないでしょう。

 肉付きからしてそうではありませんし、人殺しの目をしておりません。

 ごく普通の一般人のようです。


 お母様は、ラフな私服にエプロンを重ねており、いかにも主婦という様子です。

 記憶にある彼女は厨房に立つような人間ではなかったのですが、今は当たり前のようにそこに立ち、てきぱきと用意をしております。


 隣に座るお姉様は、セーラー型の制服を着ております。

 高天原神霊魔導学園はブレザー型だったので、新鮮な印象を受けますね。

 やはりというか、お姉様も一般人の目をしており、戦士らしい鋭さは欠片もありません。


 そして、私はブレザーの制服を着ております。

 色や細かな装飾は違うのですが、目新しさが何もなくて若干ガッカリです。

 私だけが戦士の目をしており、人を殺す事を躊躇わない類の人間です。

 きっと見る者が見れば、違和感バリバリでしょう。


 それに気付けないのが、今、周りにいる家族たちな訳ですが。


 ……まぁ、期待していた訳ではないのですが、予想通りに席は4つだけ。

 刹那さんの席はありません。

 いてくれたら嬉しかったのですが。

 心情的にも、私の命的にも。


 彼がいてくれれば、美影さんの機嫌も無条件に鰻登りなのですが……いないものは仕方ありませんね。

 八つ裂きにされるくらいは覚悟しておきましょう。

 いつも通りに。


 全てのお皿が出揃い、お母様が席に着いた事で朝食が始まります。


「いただきます」


 しっかりと手を合わせ、心からの感謝を捧げます。

 なにせ、生の食材ですからね。

 火星の食糧生産施設はまだまだ未熟なので、生の食材は本当に、本っ当に高級品なのです。

 精霊の方々も頑張ってはくれているのですが、需要に対して供給が全く追い付いていないのが現状です。

 もっぱら完全合成食材――フードカートリッジが一般的です。


 きちんと加工すればフードカートリッジも充分に美味しいものなのですが、やはり生食材を食べて育ってきた私たちには、何か物足りない感じでして。

 生食材が恋しいと誰もが思っているようです。

 ないものはないので、皆、諦めて我慢しているのですが。


「「「…………」」」


 なにやら家族の視線が私に向いておりますが、そんな事はどうでもいいです。

 何が起こっているのか、事態をまるで把握していない私ではありますが、今は食事に集中するべき時です。

 どうせ、何が起きてもそうそう死にはしない身の上ですので。


 メニューは、白いご飯に、油揚げのお味噌汁、納豆、焼き鮭、そして卵焼き。

 漬物や海苔は好きに取るべし、とテーブルの中心に置かれております。


 勿論、戴きますとも。


 しっかりとおかずとご飯を順番に食べます。

 美味しいです。

 久し振りの生のお味は涙が出るほどの感動です。


 お姉様たちはようやく再起動したようで、それぞれに食事を始めます。


「……久遠、最近はどうだ?」


 お父様が少しばかり躊躇いがちに問いかけました。


 思春期の娘にどう接して良いか分からない父親か!

 と、そんな感想を抱きましたが、まさにその通りの立場なので仕方ないのでしょう。


 私の記憶にある厳格で必要な事を必要な時にしか喋らないお父様はもういないのですね。


 ……マジで世界はどうなっているのでしょうか。

 全てが夢だったら良いのですが、幻術にかかっている感覚はありませんので、きっとこれは現実です。

 神は死んだ。


「うん、大丈夫だよ。

 勉強も部活も」

「そ、そうか」


 話が咲きません。

 枯れ果てました。


 親子の会話というのは難しいものですね。

 やはり、肉体言語こそが至高なのでしょうか。

 雷裂のように、顔を合わせたら取り敢えずクロスカウンターで語り合うアホが、この世の正解だとは思いたくないのですが。


 まぁ、あれは特殊な例でしょう。

 美影さんは短気ですし、おじ様は逆鱗を逆撫でする天才ですから。

 あの組み合わせでは、ああなるのは運命です。


「と、永久はどうだ?」


 話を振られました。


 ここで、質問の内容が不明瞭です、と答えるのは不正解なのでしょうね。

 正直、曖昧過ぎて何を訊ねたいのか定かではないのですが。


 まぁ、ここは穏便に答えておきましょう。


「はい、何も問題はありません。

 お父様にもお家にも、迷惑はかからないかと」


 言っておいてなんですが、問題だらけですし、場合によっては盛大に迷惑をかけてしまいますよね、私の現状。


「「「…………」」」


 などと考えていると、何故か唖然としている家族たちがいました。


 はて、私は何かおかしな事を言ったのでしょうか?

 心当たりはありませんが、この様子からして不審な点があったのでしょう。


 分からない事をあれこれと考えていても仕方ありません。

 訊くは一時の恥、訊かぬは一生の恥と言います。ここは素直に質問しましょう。


「? どうかしたのでしょうか?」


 ちなみに、そんな事を言ったら、美影さんには、教えるは一時の優越感、教えぬは一生の優越感だと返されたのは、とても嫌な記憶です。

 本当に教えてくれなかったですし。


 いや、そんな記憶は封印しておきましょう。

 思い出しても気分が悪くなるだけです。


 何故、あの一族は関わると嫌な記憶ばかりが増えていくのか。

 心から不思議です。


 そんな事を思いつつ待っていると、お父様が恐る恐るという様子で問うてきました。


「と、永久、お前、今、父さんをなんと呼んだ?」

「お父様と、そう呼びましたが……何か?」


 もしや、この男はお父様に似たお父様もどきだったりするのでしょうか。

 この私の目を誤魔化すとは、なんという擬態能力……!


 いえ、ふざけている場合ではありませんね。

 偽物だと言われれば、普通に納得できますし。

 だって、明らかに記憶のお父様と違いますもの。


 さてさて、この反応、まぁ年頃からしても予想できるのですが、反抗期に入っていたか不良道にでも入っていたのでしょうか。

 大変に身に覚えがあるので、なんとも微妙な気持ちです。

 私はきっと全輪廻において、この年頃の時に反社会的になるのでしょう。


 言っていて悲しくなる事実ですね。


 とはいえ、まぁ、こちらの私はまだまだ取り返しが付くのではないでしょうか。

 だって、ちゃんと家にいて家族といますし。


 私なんて、私なんて、あの化け猫の甘言に乗って世界中でテロ行為を……。

 いえ、考える事は止めておきましょう。

 それが精神衛生上、大変よろしい。


「よ、良かったなぁ、母さん。

 私の事をクソ親父とか呼んでた永久が、こんな真っ直ぐに戻って」


 いえ、真っ直ぐと言われると首を傾げざるを得ないのですが。


「ええ、そうね。

 いつ殴り倒すべきなのか、これで悩まずに済むわ」


 過激でございますね、お母様。

 あなた、そんなキャラじゃなかったでしょうに。


「……永久、何かあったのか?

 一日で変わりすぎだけど」


 心配したようにお姉様が問いかけてきます。


 確かに、大変に重大な出来事が現在進行形で起きております。

 ただ、現状で私が事態を把握しきれておりませんので、説明しがたいのです。


「そうですね。少々、不思議な事が。

 とはいえ、私も混乱の最中にありますので、説明するには少しばかりの時間を頂戴したくあります。

 そうですね……」


 何が起きているのか、おおよその所を知る為に必要な時間を、ざっと計算します。


「おそらく、明日には話せるかと。

 遅くとも明後日までには、報告させていただきます」

「……そんな他人行儀な言葉遣いをしなくていいんだぞ?

 いや、前のような乱暴な口調も困るが」

「……それも含めてですね」


 私としては、苦笑を返さざるを得ません。

 変えろと言われましても、私はこの口調で生きてきたものなので。


 ともあれ、そんな感じで朝食を終えます。


「ご馳走さまでした」


 しっかりと食後の感謝も捧げて、お皿を片付けます。

 その後、身支度を整えて学生カバンを手にした私は、懐かしきローファーを履いて家を出ました。


「行って参ります」


 更正したのだと信じている両親が笑顔で見送っていました。


 ごめんなさい、お父様、お母様。


 私は学校に行く訳ではないのです。

 そもそも、私が何処の学舎に籍を置いているのかも分かりませんし。

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