とある魔法少女の末路
世間一般の認識として、魔力を持ち、災害のような怪獣とも互角以上に戦える少女たちを、恐怖と感謝、そして憧憬を同居させて、『魔法少女』と呼ぶ。
だが、それは、正式な定義ではない。
『魔法少女』とは、あくまでも魔力に目覚めた少女を指しているのであり、人々を守るヒーローとして怪獣と戦う義務を持たない。
というのも、魔法少女の誰もが大規模戦闘に向いているとは限らないからだ。
単純に、保有魔力の少なさや得意とする魔法の種類などによって、怪獣に通用する大火力を出せなかったり、何らかの戦闘補助が出来なかったりする。
他にも、怪獣とはいえ、生き物を傷付ける事に多大な忌避感を覚える為、戦闘力はともかくとして、心理的に全く戦えない、という者もいる。
彼女たちは、偶然、魔力に目覚めただけの、ごく普通の少女でしかないのだ。
自ら選んでその道に入った訳でもなく、だからこそ武器を取って戦う義務を持たない。
それ故、適正なし、と判断された者たちは、素性を覆い隠して、元の一般人としての生活に戻されている。
表向きは。
しかし、その中の一部には、その法の守護から外れてしまう不運な少女もいる。
特異な魔法を持っていたが故に、危険、あるいは便利だと断じられ、秘密裏に確保されてしまい、特殊な処置をされてしまう娘たちだ。
日隠明日香という少女も、その一人であった。
彼女は、保有魔力量が少なく、また得意魔法も対怪獣向けの物ではなかった。
その為、市井の中に戻される筈だったが、その手続きの最中に横取りをした者がいた。
彼女の魔法は、怪獣相手にはほとんど役に立たないが、人を相手にするには大変に強力なものであった。
密偵から暗殺から、人を相手にするならば、彼女は非常に有用である。
そうと判断したとある政治家の手によって、秘密裏に確保された日隠明日香は、洗脳を受けてしまう事となった。
上位者の命令に忠実に、場合によっては自らの命すら投げ出して従うように。
脅迫や拷問、催眠や薬物、ありとあらゆる手段を用いて、彼女の心は壊され、命令に従うだけの肉人形となってしまった。
倫理観や道徳心を優先する余裕のなくなった、終末期にはよくある事である。
ごくありふれた悲劇の一つだ。
そんな日隠明日香は、今、一つの命令を受けていた。
とある野良の魔法少女の身柄を確保せよ。
その際に、恐怖を植え付けておけと。
その後の洗脳を速やかに進める為の、よくある追記事項だ。
彼女には、難しい事ではない。
自分の命が危険に晒されれば、誰しも恐怖を覚える。近しい人が、自分の所為で傷付くとなれば、屈辱に身を浸す事もあるだろう。
いつでも、誰をも殺せる彼女に、恐怖を抱かない訳がない。
だから、いつものように、脅し付けようと彼女は行動を開始した。
標的の名は、苑城永久。
第八北西中学校に通う、野良の魔法少女である。
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日隠明日香の得意とする魔法は、所謂、認識阻害である。
誰にも気付かれない。
気付いても気にしない。
その様に、人々の意識をねじ曲げる物だ。
但し、魔力の少なさ故か、その効果範囲は自身一人だけであり、怪獣相手では逃げ回る事しか出来ない。
だが、人が相手ならば、幾らでも背後を取り放題だし、隠している重要な情報も、堂々と正面から見放題である。
第八北西中学にやってきた彼女は、事前に要請していた特殊部隊が、敷地内に堂々と侵入していく後に着いていく。
彼らは、大いに暴力を誇示している。
身を包む装備は、分かりやすく暴力的な物であり、見かけた警備員や職員は、容赦なく制圧している。
日隠明日香の魔法は、近くにより目立つものがある程に、効果が強くなる。
標的は魔法少女だ。
どんな能力を持っているか、分からない。
だから、慎重を期して、いつも通りに応援を要請した。
おかげで、騒ぎになりつつある校内だが、その中で明らかに異質な魔法少女然とした彼女に注目する者は、誰一人としていなかった。
そうして、遂に標的のいる教室へと辿り着く。
乱暴に侵入した部隊が、銃弾の一発で教員を無力化する。
「動くな!」
「口を開くな! 静かにしろ!」
「さもなくば撃つ!」
パニックになりかけた生徒たちを、威嚇射撃で黙らせている。
その後ろから、日隠明日香も、静かに入室し、標的を探そうとぐるりと室内を見回そうとした。
彼女の意識は、その記憶を最後に途絶えたのだった。




