表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/24

炙り出し

 コンコン、と病室にノックの音が響く。


「どうぞ。お入りくださいませ」


 病室の主が、応諾すると、扉がスライドして開く。


「失礼する。

 美影君、無事に帰ってきてくれて何よりだ」


 入ってきたのは、壮年の男性だ。

 白髪交じりの髪をオールバックにしているが、今は少しだけ崩れている。

 着用しているジャケットにも皴が寄っており、顔に浮かんだ疲労の色と合わせて、随分とお疲れの様子だ。


 彼の名は、支倉凛太朗。

 怪獣対策庁の長官である。


 急ぎ行わねばならない後始末のみを終えて、帰投した金裂美影のお見舞いにやってきたのだ。

 それでも、首都直撃のダメージは大きく、急ぎの物だけに限っても夜中までかかってしまったが。


「頼まれていた物を持ってきたぞ」


 そう言って、支倉長官は、タブレット型の端末を掲げて見せる。

 それを認めた美影は、笑みを見せて感謝する。


「有難う御座いますわ、長官様」


 寝台の隣にやってきた彼から端末を受け取り、美影は早速と起動させる。


 中に入っているのは、日本全国の学生制服のカタログだ。

 その中でも、女子用で、中学の、そしてブレザー型、と絞っている。

 一応、条件に当てはまらない制服データも入っているが、条件に合致した物だけは個別に仕分けられて入力されていた。


「……元気そうだな。

 寝なくても良いのか?」


 大真面目に生死に関わる戦場にいたのだ。

 実働は短時間ではあったが、まだまだ成長期の未熟な身体である美影には、随分と疲労が溜まっている筈である。


 だというのに、こんな深夜にまで起きているどころか、見舞い品にアンノウン特定のデータを持ってこいと言うのだから、仕事熱心と言うべきか何と言うか、と支倉長官は考えていた。


 それに対して、美影はデータをスクロールしていきながら、答える。


「全身に打ち身程度ですわよ、私が受けたのは。

 アンノウンのおかげで、楽をさせて戴きましたもの」

「はははっ、頼もしい限りだ」


 強がってはいるが、そんな事はない筈だ。

 観測していた限り、彼女の放出した魔力量は、驚くほどである。

 支倉長官には分からない感覚であるが、魔力を大きく消費すると、体力と同じように疲労感があるらしい。

 限界を超えると、気絶しそうな程の頭痛や眩暈に襲われるらしく、美影の消費量はその域に達していた。


 本当だったら、今頃、泥のように眠っている筈である。


 そんな彼の内心を見て取ったのだろう。美影は付け足すように言う。


「……それに、眠れないんですの。

 気が昂ってしまいまして」

「それ程に、衝撃的だったのか」

「ええ、とても。

 あんな領域があるのかと……ふふっ、今思い出しても笑えてしまいますわ」

「私としては、寒気がするようだがな。

 あのような恐ろしい力があるなど」


 討伐指定怪獣は、抗い難き天災の象徴であった。

 実際、世界的エースであった美影であっても、単独ではまるで相手にならなかった。


 そんな絶対的存在を相手にして、まるで虫けらを潰すように一方的に圧倒してしまう者など、想像だにしていなかった。

 信頼を通り越して恐怖を覚えるレベルである。


「君は、怖くはないのか?

 目の前で見たのだろう?」


 怪物を超える化け物の力を。


「……そうですわね。

 怖くはありますわ」


 それは確かな事だ。

 彼女がその気になれば、自分など容易く殺されてしまうだろう。


 だが、それを言い出せば、怪獣だって似たようなものである。

 討伐指定でなくとも、通常の怪獣だって油断していればあっさりと殺されてしまう。

 いつも、いつだって、命を懸けている。


 それに比べれば、話の出来る彼女の方が、よほどマシである。

 ずっとずっとマシだ。


「でも、大丈夫ですわ。きっと」

「何か根拠でもあるのかい?」

「ありませんわ」

「……ないのか」

「ええ、ただの勘ですもの」


 彼女は、自分を〝友〟と呼んでいた。


 美影には、見覚えはない。

 魔法少女に変身すれば、確かに認識阻害の力が働くが、同じ魔力持ちならばかなり抵抗が可能である。

 だから、見覚えがないという感覚は、話した事もあった事もない相手だという感覚は、正しい筈だ。


 しかし、一方で美影は不思議な感覚も得ていた。


 何処か馴染みがある、と。

 酷く慣れ親しんだ相手だと、彼女は直感的に悟っていた。


 理性では、根拠なき錯覚だと分かっている。

 だが、無視するにはあまりにも強過ぎる確信に、いっそ美影は身を委ねてみようと思ったのだ。


(……セツナの事も、助けてくれましたし)


 名も知らぬ彼女がいなければ、大切な戦友が死んでいたし、自分もその後を儚く追っていただろう。

 分かり易く、命の恩人だ。

 そんな人物に心を寄せない訳もない。


「あっ」


 と、その時、美影が声を上げた。


「どうした?」


 支倉長官が訊ねれば、美影はにんまりとした笑みを見せて、タブレット端末を差し出してみせた。


「見つけましたわ。

 この制服に間違いありませんわ」

「何? 本当かッ!?」


 あるいはフェイク……とまでは言わないが、学生服型の魔装だったのかもしれない。

 そのように考えて、正直に言ってあまり期待してはいなかったのだが、どうやらあっさりと見つかったようである。


「第八北西中学か……。

 関東生存圏とは近場だな。

 確認するが、本当に間違いないのだな?」

「私が信じられませんの?」

「いや、念押しだ。

 ……よし! すぐに問い合わせて、生徒名簿を確認しよう。

 これで見つかってくれると良いな」

「多分、見つかりますわよ」

「それも、勘か?」

「ええ。ちょっと間抜けそうでしたもの」


 国家の御手は、確実に隠者を炙り出し始めていた。


次回は火星サイド?

その予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ