婚約破棄されたぽっちゃり令嬢は傷心家族旅行で訪れた先のブロッコリー王子に溺愛される!
2020-11-08
安価・お題で短編小説を書こう!9
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>>104
使用お題→『ブロッコリー』『ノンレム睡眠』『チャーシュー』『氷柱』『グルメ』
【婚約破棄されたぽっちゃり令嬢は傷心家族旅行で訪れた先のブロッコリー王子に溺愛される!】
「プルメリア・ウェルフェッド嬢。婚約を破棄させてくれ」
私の前に立ち、そう告げるのは私の婚約者。『氷柱の王子』とも呼ばれる、ひょろひょろでがりがりの男性だ。
「お、お待ちください、殿下。急な呼び出しに駆け付けてみれば、突然そのようなことをおっしゃって……。いかがされたのですか。あとその鶏ガラのような女はどちら様ですか」
王子の横には女が一人、寄り添うようにして立っていた。細く痩せこけた顔、ドレスの上からでも分かる貧相な体、そこにぶら下がる、ほうきの柄のような手足。
「おのれプルメリア。彼女を侮辱する気か!」
うっかり口をついて出た私の失言に、声を荒らげ、目を怒らせる殿下。
「いけません殿下! プルメリア様は、ただちょっと、びっくりされただけなのです。そうですよね!」
これ見よがしに彼の手を取り、私には引きつった笑顔を向ける鶏ガラ。
白々しい。
「……そうか。まあいい。とにかくだ、プルメリア・ウェルフェッド嬢。私は真実の愛に目覚めたのだ。自分が本当に愛しているのは誰なのか……」
そこで一旦言葉を切って、傍らに立つ鶏ガラと見詰め合う王子。
なんだこれ。
「……だから……だから、君と愛のない結婚をすることはできない。済まない、プルメリア」
こうして、王子と私との婚約は破棄された。
とんだ茶番だ。
*
父は、私の玉の輿に未練たらたらだった。家柄の話ではない。お金の話。
あちこち奔走して、王子のわがままを覆そうと頑張った。と言うか、今も頑張っている。
私はと言えば、母と妹と三人で、今は優雅に車上の人だ。
「これ、おいしー! ねえお母様、お姉様。鉄道の旅がこんなに素敵なものだったなんて!」
「本当にそうね、カリッサ。お食事はおいしいですし、この車窓からの眺めも……ほら見て! あの山の頂を。雪が降ったのね。白く輝いているわ」
お金がないのは、実は、この人たちの無駄遣いが原因だったりする。
今回の旅行も「かわいそうなプルメリア」「かわいそうなお姉様」から始まって、やれ気分転換が必要だ、やれ環境を変えて前向きに、そのためには旅行でしょうと、おためごかしを並べ立て、あれよあれよという間に連れ出されたのだ。
「お父様も、お仕事だとか訴訟だとか詰まらないことをおっしゃってないで、私たちと一緒にいらしたら良かったのに」
「ええ、ええ、本当にそうね。ねえ、あなたもそう思うでしょう、プルメリア」
王子や、あの鶏ガラ女ほどではないけれど、母も妹もほっそりとしている。しかも美人。
「そうですね、そう思います」
気のない返事に二人の顔が曇る。口先だけの同意では、この人たちはごまかせない。
「プルメリア……。さあ食べて。あなたは食べるのが好きだから。好きなことを楽しんで、嫌なことは忘れるのよ」
「その通りだわ。ほら、次のお料理が来たみたい」
あんたらが原因だよ……とは言えない。王子とかどうでもいい。でも食べ物は大事だ。
料理が運ばれてくる。大きなお皿だ。銀色の蓋に、私の顔が映り込む。ぷくぷくと膨らんだ、私の顔。
その顔が揺れる。
揺れて、ねじれて、小さくなって。蓋が外される。
蓋の中に何がいたか。
「はっ?」
そこにはブタがいた。
大きなお皿に盛り付けられた、大きなブタ。ブタの頭。
その大きなブタが、小さな目を見開く。鼻と口が、もごもごとうごめく。
「キヲツケロ」
ブタは確かにそう言った。
*
楽しい旅は続く。
「これもおいしいわ! お姉様も食べる?」
「ねえ見て! 湖だわ。水面が……木々の緑を映して……吸い込まれそう……」
楽しんでいるのは、主に母と妹だ。私はあんまり楽しくない。
「次のお料理は何かしら。ねえ、お姉様。……お姉様? あんまりお食事が進んでいないみたい」
「そんなことないわ。大丈夫よ」
母と妹が顔を見合わせる。客室が揺れる。黄色いスープの湖、その水面が震える。
「ねえプルメリア。悲しいのは分かるけど、今を楽しまなくちゃ。おいしい食事に美しい景色。それに、新しい出会いも待っているわ」
「そうよ。くよくよしても仕方ないわ。それに……あっ、ほら。新しいお料理が来たわ」
太陽の光が、テーブルの上を滑っていく。こんなにも明るい世界の、足元の暗がり。そこに何かが隠れている。
料理が運ばれてくる。お皿の上に、白い卵が並んでいる。
テーブルの上に置かれると、客室の揺れに合わせて、その卵たちも、ゆらゆら、ゆらゆら。
私も一緒にゆらゆらしていると、それまで静かだった卵の動きが、急に騒がしくなる。
並んだ卵の表面に、一斉にひびが入る。
「ひっ……」
ぎょろ目がのぞき、くちばしが開く。
殻を突き破って現れる、丸裸のひよこたち。
そのひよこたちが騒ぎ立てる。
「ナベノナカ」
私にはそう聞こえた。
*
おかしなことは続いた。
「お姉様が召し上がらないのでしたら、それ、私が頂いてもよろしいかしら」
「ええ、どうぞ」
「プルメリア、カリッサ、川が見えるわ。これから鉄橋を渡るのね。なんだか恐ろしいような気もするけれど……まるで宝石のようにきらめいて、とっても美しい流れ……」
父はどうしているだろうか。王子と鶏ガラは? 銀行や裁判所は? 私はどうしてここにいるのだろう。
気にはなるけど、すべてがどうでもいいような気もする。
「もうすぐ終点ね。列車の中は狭いから、それでプルメリアも元気が出なかったのかも知れないわ」
料理たちの預言。
気を付けろ。何に?
鍋の中。何が?
「あっ、新しいお料理だわ」
それは黒い鉄板の上で、じゅうじゅうと音を立てていた。
赤いお肉から、白い煙が立ち昇る。ちょっと心配になるくらいの勢いで。
案の定、客室の中は、煙で何も見えなくなった。
「えっ?」
お肉が並んでいた辺りで、茶色いものが動く。
空気中に漂っていたものが、本来の位置からずれていく。
声が聞こえる。
「オマエ」
私のことだ。
*
鉄道の旅を終えて、私たちは、とある国の駅に降り立った。
「あー楽しかった。でも少し疲れたわ」
「そうね、カリッサ。だけど、ここからが旅の本番よ。緑が多くて、素敵な国だわ」
私はもう、ぐったり、うんざりしていた。食事も十分に喉を通らず、少し体重が落ちてしまったような気もする。
まだまだ元気な二人と、今にも死にそうな私。
そんな私たちに声を掛けてくる人がいた。
「そこのあなた。そうです、愁いをたたえた瞳のあなた」
その人は…………私は驚きで言葉も出なかった。
「おっ、お姉様、お姉様! 何かおっしゃって。不敬ですわ!」
「プルメリア、ご挨拶なさい!」
「いや、いいんだ、構わない。急に話し掛けたのは私の方なんだから」
その人は立派なスーツに身を包み、背が高く、言動には余裕が感じられ。
「私はこの国の王子だ。あなたはプルメリアというのか。美しい名だ」
いきなりの寝言で私を圧倒し。
「まあ!」
「プルメリア! 殿下!」
私の前にひざまずくと。
「麗しの姫よ、愛しい人よ。私の妻になってください」
私が一番驚いたこと。それは緑色の頭。
「すごい! すごいわ、お姉様!」
「おめでとうプルメリア!」
その人の頭は、大きな大きなブロッコリーだった。
*
流されるまま、私は王子の妻になった。婚約とか結婚式とか、すべて素っ飛ばしたのか、私にはまったく記憶がない。
「さあお食べ、プルメリア。君の好きな、ブロッコリーのサラダだ」
「あの、殿下。私は一人で食べられますから。そんな羽交い締めみたいにされては、かえって食べにくいです」
「おっと、それは気付かなかった。ごめんよ、プルメリア」
王子は私のそばを片時も離れず、どんな小さなことでも世話をしようとした。
「父に手紙を書こうと思うのですが、紙とペンを頂けますか」
「そんなことは僕がやっておくよ。君はただ、僕の隣で、君の好きなものを好きなだけ食べていればいい」
彼が特にこだわったのが、私の食事だった。
「今日はブロッコリーとベーコンのソテーだ。君の大好物だろう?」
「そっ……そうですね」
「はい、あーん」
私はもうどうでも良くなって、彼の好きにさせることにした。
「ブロッコリーと卵のピザだよー。熱々だよっ! 僕たちみたいにね」
「あつっ! 口に突っ込もうとしないでください!」
何か大事なことを忘れているような気がした。だけど、そんなことを考える余裕もないくらい、王子は私に食事を与え続けた。
「ほら、どんどんお食べ。ブロッコリーもお肉も、食べられるだけ食べるんだ」
王子は、もはや私の意志とは無関係に、私の口に食べ物を詰め込むようになっていた。
限界まで詰め込むと、消化されて栄養になるのを待ってから、同じことを繰り返した。
旅に出てから少し痩せてしまっていた私は、今や旅に出る前よりも丸々とした体になっていた。
そして。
「さあプルメリア。ついに……ついにこの日が来たよ。僕たちの結婚式だ」
*
その日、私は縛り上げられて、木の棒につるされて運ばれていた。
「ちょっとー! なんなのー! 誰か助けてー!」
そこへ王子がやってきた。
「殿下! これは一体どういうことですか! 結婚式って、何をやらされるんですか!」
私が必死になって叫ぶと、彼は、大きな大きなブロッコリーの頭を、大きく大きく揺らした。
するとブロッコリーの、無数のつぼみが色付いて、黄色い花が次々と咲き始めた。
「ブロッコリーだああああ! ブロッコリーブロッコリー!」
王子がそう叫ぶと、野菜の国の住人が、わらわらと集まってきた。
「ブロッコリー! ブロッコリー!」
「ブロッコリー万歳! ブロッコリーブロッコリー!」
「いやああああ!」
一瞬、自分の声かと思った、その悲鳴。声のした方に目をやると、意外な人たちがそこにいた。
「なんなの! 殿下! 助けて!」
それは、あの鶏ガラ女だった。私と同じように木の棒につるされて、それを氷柱の王子と野菜の頭をした人間たちが運んでいる。
「ダシを取るんだ。愛してる。真実の愛だ! ……あっ」
氷柱の王子が転んだ。彼は途中からぽっきりと折れてしまった。
「殿下、殿下ぁ! いやぁあああああああ」
鶏ガラはそのまま運ばれて、大きな鍋に、どぼん! と投げ込まれてしまった。
「プルメリア! 次は君の番だ! 愛してるプルメリア!」
「お姉様! いいおダシになって!」
「プルメリア、おめでとう! お父様のことは心配しないでね!」
野菜頭たちは集まって、とうとう歌まで歌い始めた。
ヤサイ ブタ トリ ウシ タマゴ
チャーシュー トリガラ マチキレナイ
ヤサイ ラーメン タベタイナ
マルマル フトッテ イタダキマス
「ひいいいい!」
ぐつぐつと煮え立つ鍋の中に、私は頭から————
*
「————はっ!」
部屋の中は真っ暗だった。私は混乱したまま、周囲を見回した。
何も見えない。
どこまでが現実で、どこからが夢だったのか。寝ぼけた頭で考えるも、答えは出なかった。
「これって、なんだっけ……」
こういうのって、なんて言うんだっけ。
レム睡眠? ノンレム睡眠?
「変な夢だった……」
まあ、どっちでもいいか。
タイトルだけ見て開いた方には申し訳ありません。
この作品は『5ちゃんねる』の『安価・お題で短編小説を書こう!』というスレッドへ投稿するために執筆されました。
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