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私が今いなくなるなら

作者: 真田衣月

捨てられてしまうなら、消えてしまいたい。


14年前、私は姉になった。産まれたばかりの妹はまだ小さくて、病院から家に来たのは母より少し後だった。私もまだ4歳だったから、妹が母に構ってもらっているのが嫌だったと思う。でも、自分より弱くて守ってあげるべき妹を可愛く思っていた。幼稚園児の時も小学生のときも、中学生のときも。


私はお世辞にも明るい性格とは言えないし、社交的でもないと思う。中学生の時まではクラスに半分近く知っている人がいたし、友達もちゃんといた。高校では、中学で会った親友2人と別々のところに行った。同じ中学の人が片手で足りる位しかいなかった。高校に入学して、友達も出来た。部活にも入ったし、中学の頃全然しなかった勉強も、やるようになった。でも、私の思うように成績は伸びない。勉強の方法が合ってないのかもしれないけど、他にどうやって勉強するのか分からない。自分の置かれた状況が自分の首を絞めていくだけなのが、分かっているのに止められない。嫌なことを一時的に忘れて笑うのは、簡単だった。でも、すぐに思い出すのだ。自分はずっと首が絞まっていることに。2年になって妹が中学に入学した。妹は出来る子だった。頭の良い子だった。自分から勉強するし、高い点数も取るし、意欲もあった。私とは全く違った。その事がとても嫌だった。でもそれを言うのは違うから、笑うのだ。2年になって、妹が好きなのに嫌いになった。新しい友達は出来なかった。人の気持ちの分からないことが酷く恐ろしくなった。他の人が触ったものを、普段は気にもとめなかったのに、急に気持ち悪く思う事が増えてきた。


私は兎に角、生に執着している。生きるために何でもするし、死を恐れて嫌悪している。それは周りにも当てはまった。家族には生きていて欲しい。だから、もしも私が死んだらどうするの、なんて言われるのが一番嫌いだった。


友達が自分以外の誰かと話すのがとても怖い。自分を捨てて、他の人と友達になるのではないかと、考えてしまうのだ。友達の制限なんて、ゲームでは無いのだからあるはずがないのに。小学生の頃は簡単だったと思う。何も考えずに友達になろうと言って、友達になれるのだから。中学生になって、よく遊ぶから気が合うから、友達だろうと思うようになった。高校生になって、今までの友達全員が少し怖くなった。変わらずに、遊びたいと思うし好きなのだ。それ故に、私達は友達だよね、と聞きたくなる。それを聞いたらいけないと思うし、聞く勇気もない。ただ不安が募るだけだった。


いつからか不安と恐怖で首を絞め続けるようになった。体調が悪い訳でもないのに、息苦しさだけが続くのだ。誰かに助けを求めたくても求められない。まず、求めれる相手がいない。「友達にどう思われているか」は次第に、家族も含めた「周りからどうも思われている」か、に変わった。


1人が嫌いであるから、1人でいるのだ。嫌われたくないから、1人でいるのだ。


ただただ現実から離れたくて、熱中できるものに走る。音がないのが怖くなって、身もしないのにテレビをつける。その時間が増えていく。


無償の愛が欲しくてたまらない。それを与えてくれる人が分からない。どれだけ愛を与えられているのか、分からない。だから、飢えが収まらない。


3年になった。進路は空っぽだ。何がしたいのか分からない。進学する人の方が多いから、その他大勢になるためだけに進学するのだ。やりたいことも無い。何もしたくない。本当にしたいことはあるのかもしれない。それが何か分からない。進路先の名前が書かれた紙は、とても軽くてとても重かった。


妹の優秀さに恐怖だけが募るようになった。母も父も私を捨てることはしないだろうに、捨てられることに怯える日々が続く。無いはずのことに怯えて、ひたすらに自分の首を絞める。息苦しさは酷くなって、息の仕方も忘れてしまう時があった。私は何も出来ないから、必要ないのでは無いか。私のような姉は、ただの毒なのではないか。私がいて、恥ずかしいのではないか。私は邪魔じゃないだろうか。いつか、捨てられるのではないのだろうか。


捨てられてしまうなら消えてしまいたいと思った。


ただそれだけの事なのだ。

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