第一話 過去
ワシも勇者になりたい!
そう思い始めて早30年…。
子供なら誰しも一度は夢見たことがある「勇者」。
だがワシの勇者への道は生まれた時から閉ざされていた。
なぜならワシは…
この国の王なのだから。
この国には昔から受け継がれてきた伝統行事がある。
その名も、「勇者の認定及び送り出しの式」。
世界各国から戦闘のエキスパートを集め、その中でも魔王討伐にふさわしいと見なされた選りすぐりの者一人を勇者として送り出すといったものだ。
この式を行う際は、我が国の王が選ばれた者に勇者の称号を与える決まりになっている。
これが何を意味しているか分かるだろうか。
王はどう頑張っても勇者にはなれないのだ!
どの国でも子供の時に聞かされるのは誇り高き勇者の物語。
10年に一度訪れる厄災を払いのけ、人々にひと時の休息をもたらす憧れの存在。
もちろんワシも例に漏れず、何度もその話を聞かされていた。
物語を聞くとどんなにひねくれた子供でもこう言う。
「僕、将来は勇者になりたい!」
ワシはちょうど五歳の時、母親にこう言った。
「僕も勇者になれるかな?」
母親はさも当たり前かのようにこう言い放った。
「それは無理よ。だってあなたは王様にならなきゃいけないもの。」
ワシは人生で後にも先にも最大で最悪な衝撃を受けた。
五歳の子供にはあまりにも重すぎる宣告だった。
ワシは思った。
こんなことがあっていいのか。
いや良くない!
そしてワシは機会を伺った。
何年も、何十年も…
すべては五歳の時の自分のため…
そして明日、ワシは一世一代の挑戦をすることになる。