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動画企画の日まで、まだ少し余裕がある。
タマ達の練度上げと討伐依頼、効率よくやっていきたいなぁと考えて計画を立てていた時。
マリーがあたしの部屋にやってきて、
「姉ちゃん姉ちゃん。
お客さん」
「あたし?」
今日は来客の予定は無い。
なっちゃんと会う約束はしているものの、それは冒険者ギルドでだ。
誰だろう?
あたしは玄関に向かった。
そこには、ワンピースを着て日傘を腕にかけて佇んでいる、先日助けたあの女性がいた。
その横には、とてもよく知るイケメン。
イケメンはあたしの登場にとても驚いていた。
あたしもとても驚いた。
なんで居るんだジーンさん。
あたしの驚きを、この突然の来訪のことかと考えた女性が丁寧に頭を下げてきた。
「事前連絡も無く突然の訪問ごめんなさい。
先日はありがとうございました。
あの、これお礼です。良かったら御家族の皆さんで食べてください」
言いつつ女性は菓子折りを渡してきた。
まさかお礼の訪問があるとは、思っていなかった。
「あ、いいえ。わざわざありがとうございます。
なんかすみません、気を使わせてしまったみたいで」
でもなんで住所わかったんだろう?
警察で聞いたのかな?
お礼したいから教えて欲しい、って。
それで教えるものなのか、疑問はあるけど。
あ、いや待てよ?
そういえば、そういうこともあるから聞かれたら教えるとかなんとか説明があったよーな、無かったよーな?
疲れて、その辺はもう適当に返事してたからなぁ。
「もう一人の子の家にはさっき行って来たんです。
お二人には危ないところを助けていただいて、本当にありがとうございました」
なっちゃん家にはもう行ったんだ。
「いえ、あたしはパニックになってただけなんで」
あたしが言った時、家の奥の方からタマ達がやってきた。
猫たちも一緒である。
うちのもふもふハーレムが全員集合した。
女性がタマ達、モンスター組みに気づいて顔をほころばせる。
「君たちもありがとうねぇ。おかげでお姉さん全然怖くなかったよ」
女性の言葉に、タマ達が顔を見合わせる。
そして、女性のことを覚えていたようで、彼女に近づくと各自体を女性の足元へ擦り付け始めた。
猫たちはその様子を見守っている。
「あはは、可愛いなぁ。
それで、ですね。
まぁ、お礼もそうなんですけど。
図々しいとはおもうんですが、その、貴女達にお願いがあって」
女性がタマ達をもふもふしながら、そう切り出した。
要約すると、私的に、そして一日だけあたし達を護衛として雇いたい、というものだった。
なんでも、あの一件から一人で出歩くのが怖くなってしまい、バイトに行くのも大変らしい。
家族からの助けもあり、バイト先への送迎はやってもらえているが、どうしても数日間だけ家族の都合がつかない日がある。
その数日間のうち、一日だけで良いから護衛をしてほしいという依頼だった。
一通りの説明を終えると、女性は一通の封筒を取り出して渡してきた。
契約書と、今回依頼するにあたり、ウチの家族へ宛てた手紙らしい。
親に手紙を見せて、了解が得られたなら契約書にサインをして返信して欲しいとのことだった。
ちゃんと返信用封筒も用意されていた。
「はぁ、わかりました」
あたしがそう言うと、今まで黙っていたジーンさんが口を開いた。
「聞かないのかな?」
あたしに向けられた言葉だった。
「?」
女性がジーンさんへ怪訝そうな表情を向ける。
それに気づいて、ジーンさんが楽しそうにくつくつ笑いながら女性へあたしのことを説明した。
女性は、そんな彼を目を丸くして見ていたかと思うと、あたしを見て、
「知り合いだったんですか?」
そう聞いてきた。
「……たぶん、知り合いです」
「なんだい、多分って。
そうだ、あとでこの子達について聞きたいから、メールしてもいいかい?」
ジーンさんは、足元で寛ぎ始めているヒィとツグミちゃんを指差しながら言った。
その言葉に、またも女性が信じられないとばかりにジーンさんを見た。
個人的にはこの二人の関係が気になるところだが、マナー的にアウトだと思って聞かないでおいた。
同い歳くらいだし、恋人か大学とか、なんかそういうご学友というやつだろうか?
そういえばジーンさんって、大学行ってるのかな?
「えぇ、別に良いですよ。すぐに返せるかはわかりませんけど」
あたしの返しに、今度は女性がまるで幽霊か化け物、いや幻の生物でも見たかのような顔になってこちらを見た。
ジーンさんが満足そうに微笑むと、女性へ、
「それじゃ、先に車に戻ってるから」
なんて言って、さっさと出ていってしまう。
おいおいおい、この人一人にするとか有り得ないだろ、何なんだあの人。
女性が慌ててジーンさんを追う。
と、玄関を出る時に、
「お邪魔しました。それでは検討の方よろしくお願いします」
なんて言って頭を下げた。
「あ、いいえ、こちらこそ大したおもてなしも出来ませんで」
あたしもそう言って頭を下げた。
そうして、二人が去った後に様子を見ていたマリーがやってきて、
「ホントだよ、姉ちゃんさー、茶の間にあがってもらってお茶でも出したら良かったじゃん」
そう言われて、気づいた。
「たしかに」
しかし、あの女性、なんであんなに驚いてたんだろ?