12
「だーめ! 一口だけ!!
これはマリーの!」
「テュケ! テュケるる!!」
あーあー、肉の取り合いになってる。
タマが、もっとその美味しいのを寄越せぇぇぇぇ!! とばかりに籠をガシャガシャ揺らしている。
あー、もう、しょうがないなぁ。
味の濃いのやるのは抵抗あるけど、お父さんやばあちゃんがあげてて平気だったなら、もう諦めるしかないか。
「マリー、タマ貸して」
あたしはため息を吐いて、マリーにそう言った。
マリーがタマの入った籠をこちらに寄越してくる。
その籠から、タマを取り出して肩に乗せる。籠は後部座席へ。
その後に、膝に置いておいた弁当を持ち上げて、空いたそこへタマを誘導する。
「はい、ちゃんちゃん。
ここに、ちゃんちゃん」
ぽすん、とタマがあたしの膝の上へ収まった。
「はい、よしよし、いい子いい子。
ほら、あたしの食べていいよ」
「テュケ??」
「大きいのは喉詰まらせるかもだから、小さいのね」
そういえば、こいつ喉どこなんだろう?
ものを食べる時、噛んで飲み込む動作してるから多分あるんだろうけど。
基本、まんまるの毛玉だからなぁ。
あたしはタマの前へ自分の分の弁当を見せる。
そして、肉をなるべく箸で小さくしてタマ用にする。
それを、弁当の蓋に載せてタマに渡す。
「ほら、どーぞ」
タマは、自分の毛を人の手に変化させてそれをガツガツと食べ始めた。
少しは遠慮すればいいものを。
遠慮? なにそれ美味しいの? と言わんばかりにガツガツ食べている。
マリーがそれを見て、
「あー!! いいな!! いいな!!!
タマばっかりずるい〜!!」
お前は自分のあるだろ。
そんな風に騒ぐマリーを見て、お父さんが苦笑した。
かと思ったら、何故かあたしの頭をグリグリと撫でてきた。
「お前は、そういうところがアイツと違って、ちゃんとお姉ちゃんなんだよなぁ」
「は? ウザイしキモイんだけど。
それに、お兄ちゃんのことは今は関係ないでしょ」
「照れるな照れるな」
お父さんに憎まれ口を叩いても、結局見抜かれてしまう。
お父さんは、微笑ましいなあと言わんばかりに笑っていた。
しかし、もう高校生なのに頭を撫でられるのは恥ずかしい。
そうして弁当を食べ終えて、別の店でマリーご希望のアイスを買って、三人プラス一匹で食べる。
それからトイレ休憩を挟んでから、再度目的地に向かって車が動き出した。
「ねぇねぇ! 姉ちゃんがテイマー判定されたら、進路そっちにするの?」
「さぁね」
「そうなると、あれかな?
たまに日曜日のテレビでやってる、テイマー同士がモンスターを闘わせる番組に出ちゃったりするのかな」
「……それはない」
「えー、夢があるほうがおもしろそうじゃん」
「それは、夢を持つ人の仕事かな」
「姉ちゃんってさ、つまんないよね」
「あんたは失礼だな。
そもそも、あたしは最初から乗り気じゃない」
「なんでなんで?
自分の未知の可能性が示されるーって、漫画みたいで燃えるじゃん!」
そりゃ作り物の世界だからだ。
この調子ならあと一年で、こいつ無事も厨二病を発症するな。
それとも、エルフならぬエル腐になるかな。HAHAHA。
「……別に、理由なんてないよ」
マリーが不思議そうにしている。
タマは、車の揺れが気持ちいいのか籠の中でスヤスヤ眠っている。
そこに、お父さんが軽い口調で言ってきた。
「とりあえず、選択肢が増えるって考えとけば、そんな、嫌な気はしないだろ」
「……逆に減るかもよ」
「ま、とにかく、だ。
せっかくのドライブなんだから、もう少し楽しそうにしてくれよ。
パパ泣いちゃうぞ」
「キモイ」
「口が減らないなぁ」
言っても、お父さんは楽しそうだ。
そんなこんなで車を走らせ、ようやっと目的地にたどり着いた。
歴史、時代の転換点とされる千年前より、もっともっと前の時代から続くとされる神社と呼ばれる宗教施設。
何度か資料をもとに立て替えられているらしいその建物は、真っ赤な丸太を組み合わせて作られた鳥居。
その鳥居と呼ばれるものがいくつも並んだ道の先にあった。
観光名所だけあって、ほかの客、参拝客もそれなりにいた。
受付所まで行くと、古代から伝えられた衣装に身を包んだ巫女さんが、出てきて受付をしてくれた。
と言っても、お父さんが事前に予約をしてくれていたらしい。
すぐに社の中に入る事が出来た。
案内されるまま、あたし達は社の中を進んだ。
「それではここでお待ちください」
そうして通されたのは、椅子が並んだ、なんか儀式とかそういうのをするらしき場所だった。
並んで座ること数秒。
膝の上に置いた籠の中のタマが起きて、あちこちをキラキラした目で見ている。
「ねーねー」
神主さん、まだかなー。
そう思っていると、そんな幼い声が聞こえた。
見れば、いつのまにそこにいたのか。
あたしの目の前に、真っ白いキツネがちょこんと座っていた。
「あ、見えるんだねー。声も聴こえる、と。
ねーねー、ボクは何頭に見える?」
「え? えっと、一頭?」
「おー、すごい、珍しいねー。
言葉もわかる、と。
それに、うん?
うーん、うん?
君、魔法使えないんだよね?
でも、あれ?
こんな珍しい能力持ってる子、久しぶりだなぁ。
昔は沢山いたんだけどね。でも、うん、いなくなっても仕方なかったんだ。
だから、大事に使うんだよ?
それは、誰かを救うことも出来るし、破滅させたり、不幸にすることだって出来る。
だから、大事に大切に使うんだよ」
この子が、神主さんなのかな?
人の言葉話してるし、鑑定してるっぽいこと言ってるし。
亜人よりは、もふもふ率100パーセントだけど。
「は、はぁ」
「あとあと、ボクたちの神様は商売繁盛も司ってるから。
このあとお参りも忘れずにね。お供えがあると嬉しいかな。
お父さんに、お供えはケチらないよう言ってね」
「わ、わかりました」
「はい、それじゃ終わり」
「あ、ありがとうございました」
あたしがぺこり、と頭を下げた時だった。
「姉ちゃん?
姉ちゃん、終わったよー?」
そんな妹の声。
続いて、
「本番で寝るとか、お前、テイマーにならなくても大物になるぞ」
そんなお父さんの呆れたような声。
「え? え?」
戸惑うあたしの前に、やはり古代から受け継がれてきたらしい衣装を着た、おじいさんがやってきて。
「はい、お疲れ様でした。
これが結果です」
と言って、折りたたまれた紙を渡してくれた。
なかに鑑定結果が書かれているのか。
あたしとマリーが中身を見ようとしている横で、お父さんが神主さんに呼ばれて何やら話し合っていた。
「おおー」
紙には、適性職とかそんなのが書かれていた。
割と細かいな。
えーと、おーあったあった。
適性職の中に、【魔物使い】の文字を見つける。
つーことは、調教師にもなれるってことでもあるらしく、その文字も見つけた。
猫とかは好きだけど、好きを仕事にはしたくないしなぁ。
まぁ、わかっただけで良しとしよう。
別に、その職業に特別な興味があるわけでもないし。
あー、終わった終わった。
「よし、それじゃ、あとは困ってる人を助けて縁故からの出世コースだ!」
「俺TUEEEE系の読みすぎだ。アホ」
「えー、楽しいじゃん!
姉ちゃん、お姫様助けたら教えてね!」
あたしは妹の言葉を聞き流しつつ、お父さんを見た。
神主さんとの話が終わったのか、お父さんがこちらへやってきた。
しかし、その表情はどこか引きつっているようにも、苦笑しているようにも見えた。
なんだなんだ、楽しそうにしろと言ってたのはお父さんだろうに。
あたしはもう一度、鑑定結果に視線を落とす。
こうやって見れば、御籤とか占いみたいだ。
と、あたしはその文字を見つけた。
なんだこれ?
【言霊使い】??