恋って…何? [番外 ] 久保君は気になってます。
またまたフッと頭に過ぎってしまいました。
今回は久保くんの田中先輩に振り回されるお話です。
短編ですが三話で完結する予定です。( 本当は短編で考えてましたが、終わりませんでした……。 )
直ぐ次が上がるかはわかりませんが、読んでいただければ嬉しいです。
「で?いつから新聞部とウチ( バスケ部 ) と掛け持ちになったんだ?体力有り余ってんのか?シン。」
おれの背よりも20㎝は高い位置から降り注がれる少し怒気を含んだ声。
汗を腕で拭って斜め左側を見上げれば、仁王立ちした姿勢でボールを捌く二年の佐藤 拓真先輩が眼光鋭くおれを見ていた。
「おれ、新聞部に入った覚えないっす。」
「実際新聞部の人間と一緒にいるところをよく見かけるけど?」
それは不可抗力だ。
「………最近は確かにそうですけど、でもそれは山田先輩と拓真先輩のことで、ですよ。」
そう、発端はあの怒涛の二週間から始まった。
「そもそも、山田先輩が絡むと何故かおれが引っ張られるんですよ。これって拓真先輩が大きく要因してると思うんですけど。」
「はぁ?どう言うことだよ。」
「山田先輩関係で新聞部の田中先輩に捕まるんですよ?山田先輩のトラブルを防げなかったのは拓真先輩にも関係無くないですよね。今では彼氏、彼女の関係なんだからガッツリ当事者だし。だったら先輩の監督不行き届きじゃないんですか?おれが悪いンじゃぁ無いです。」
ボールを左右交互にドリブルさせながら、頭に ? ( ハテナマーク ) を浮かべる拓真先輩をジトっと見る。
だいたい、今のような状態になったのは拓真先輩の初動に問題があったからおれが新聞部時期部長……いや、もう世代交代が済んでるから時期じゃないか。新聞部部長の田中先輩に目をつけられたんじゃぁないか。
拓真先輩のクラスの人達がトラブルから山田先輩を守るため?に一致団結したのは今から四週間前。
………普通は学祭辺りでクラスが纏まると思うんだけど。
で、それに拓真先輩も長身を生かして山田先輩の護衛をすることになって、まぁ最初は好奇心と遊び半分だったみたいだけど、元々山田先輩のことは気になっていたみたいで、結構早い段階でもっていかれたのではとおれはよんでる。( 気持ちをね。)
何故かって?拓真先輩の態度や行動がすっっごくわかりやすかったから。
………女の子に対してわりとアッサリしていたはずなのになぁ。
とにかく拓真先輩はモテる。
中学から切れたこと( 女の子 )が無い。
それも全部女の子から告られて付き合ってる。自分からは無かったはず。まぁ、それに対して巷では来る者拒まずと言われていたけど。
さすがに二股、三股、四又は無かったと思うけど………多分。
その辺りはおれもよくわからない。
それに、拓真先輩のお兄さんで三つ上の斗真さんの人気が拓真先輩よりもすざまじく、それを間近で見ていたから女の子に対して深くは関わりたくないと言っていたのは聞いたことがある。
じゃぁなんで女の子と付き合うのかと聞けば、その他大勢の虫除けだと言われた。
歪んでるって思ったね。・・・羨ましいけど。
まぁでも斗真さんは本当に凄かったからなぁ………目の当たりにすれば勘弁って思うわなぁ。
そんな拓真先輩があの小さくてちょっと倒錯的?な山田 加奈子先輩にハマったのは天変地異かっ?アルマゲドンかっ?ってぐらいの衝撃だったことは間違いない。
これまでと勝手が違うからとは言え、初めはあまりの下手さに頭を抱えたし、それにも増して山田先輩の鈍さにどうなるものかと思ったけれど、何とか丸く収まってくれてメデタシ目出度と………思っていたときもあったさぁ。
その後も何だかんだと田中先輩に引っ張られ振り回される羽目になろうとは。
「それにしても、田中先輩はどうやっておれを見つけ出すんだ?」
おれのその日の日程なんておれにしかわからないのに、「エスパーか⁇ サトリかっ⁇ 」と、思ってしまうほどのタイミングで、おれの目の前に現れる田中先輩に正直ゾッとなる。
ーーーー監視されてんのか?おれ。
〓 〓 〓 〓 〓 〓 〓
「 おっ!久保くん発見!」
聞こえた声に身体がビクった!胸がギョッとした!イヤ!おれは乙女じゃない!
今いるのはいつも降りる駅の一つ手前の駅ビル内にある本屋。
定期講読している本が出てる頃だなぁと思って立ち寄っただけ。
辺りをグルングルンと見渡す姿は、はたから見れば挙動不審な男子高校生だと思うが今はそれどころじゃない。
「 いやぁ〜っ。奇遇だねぇ。」
頭を右側に回せば右頬に指が突き立てられてムギュっとなる。
「………ふっっ」
頬を膨らませ口を引き結んで吹き出し笑いに堪える田中先輩。
・・・なんなんだ?
半歩横にずれてそちらを見れば、新聞部部長の田中先輩がニカッと笑った。
「 久保くんはここじゃないよね?次だよね?降りる駅。」
なぜ知っている⁈
「関係者はみんなココに入ってんの。」
ココッと頭を突いてまたニカッと笑う田中先輩。
イヤイヤ、なんでおれの思ったことまでわかるんですか?て言うか、いつの間におれ関係者になってんだ⁈
「うん?どうした久保くん。顔が固まってるぞ?大丈夫か?」
はっ!顔面がフリーズしてた。
「あ〜〜〜っと、田中先輩はこの辺なんですか?」
なんて間抜けなこと聞いてんだよ、おれ!
「いや、違う。三コ先。」
「えっ?」
やっぱ、エスパー?サトリ?ピンポイント過ぎるだろうぉ。
「ちょうど良かった。久保くん明日は暇?」
小首を少し傾げておれを見る田中先輩。
いや!ちょうど良いって、おかしくないですか?
それに明日暇って、明日は土曜日で普通なら朝から練習なんだけど、今週は監督と副監督揃っていないから休みなんだ。
・・・これ知ってて聞いてるのか?
「暇なら明日私に付き合ってほしいのだけど。」
「えっ⁇」
なんだ?なんなんだ?付き合ってほしい?違う!反応するところはそこじゃないぞ、おれ!
「ちょーっと遠い場所まで行くから朝早いけど。どうだろう?」
どうだろう?どうだろう?どうだろう⁈
耳から入ってくる田中先輩の言葉がグルグル回って上手く処理できず、その後の記憶がキレイさっぱりすっ飛んでしまいーーー。
気がつけば家の前・・・。
夜、スマホを見れば田中先輩から明日の集合場所と時間を知らせるメールが届いていた。
連絡先を教えた記憶がございませんが?
そして土曜日。
朝七時。待ち合わせの駅前に約束よりも三十分早く来て待つ、おれ。
イヤ!違う!たまたま早く目が覚めただけだ。今日のために早く寝たなんてことは決して無い!
「おはよう、久保くん。早いな。」
田中先輩の声にハッとして横を見たとたん、おれの身体の全細胞が一揆を起こしたかのように暴れ出し内側から強烈なアッパーをくらった!
だが、ダメージを喰らった素振りなど悟らせないために、平静を装って挨拶を返したがそれがあまりにも弱々しい声が出てしまって更に焦る。
「うん?大丈夫か?体調が良くないなら無理に付き合わなくても………」
「 大丈夫です!体調もバッチリです!」
速攻頭を振って強く主張する。
「そう。じゃぁ、行こっか。」
若干引きつつ田中先輩が改札口を指差した。
ホームは土曜日だからなのか朝早いからなのか、電車を待つ人は少なく、三分ほどで到着するみたいなので並んで待つことに。
チラリと左隣を見る。
おれの肩辺りに見えるつむじ。
(左回りのつむじだ。ウン?二つあるのか?)
焦げ茶色の柔らかそうな髪は艶々。胸元ぐらいの長さでゆるく波打っている。
( いつもは二本の三つ編みでつるんとした額を出した優等生風なんだけど………なんか今日は違う。すっごくいい匂いが田中先輩からする。シャンプーかなぁ? )
斜め右前に右足を半歩出して顔が見える位置へそれとなく移動する。
長いまつげが縁取る瞳は茶色く、スッと通った綺麗な鼻の下にある小さくてプックリとした唇。
( いつも 眼鏡をかけてるからちょっとキツイ印象なんだけど、眼鏡が無いとクリンと大きくてちょっとタレ目っポイ。それに唇が綺麗なピンク色でツヤツヤしてて………おれ、田中先輩の顔ちゃんと見てたのか?おれの知ってる田中先輩と全然違う人なんだけど ⁈ )
ダブっとした白の半袖Tシャツを前の裾だけ中に入れて、下は濃いグリーンのスルスルした生地でロングスカートかと思ったらパンツで、黒色のサンダルを履いている。
( いつもは制服だからこんなオシャレな田中先輩は初めてで、なのにそれに対しておれの服装は、肘までの袖のベージュのパーカーに濃いめのデニムパンツで赤色のスニーカーで、なんにも考えませんでしたの普段着。はぁ〜〜っ、格好まで気が回らなかったよ。)
「久保くん?あんまり見ないでくれ。なんか照れる。」
ツイッと背ける顔が少し赤いのをおれは見逃さなかった。
「・・・田中先輩?コンタクト?」
「ああ、普段はコッチだ。学校は眼鏡の方が何かと都合がいいからな。」
背けたままちょっとぶっきらぼうな言い方が可愛い。
「………エッ⁇ 」
思わず出た声に慌てて口を抑えて空を見る。
おれ!可愛いって⁈ 可愛いって思っちゃった⁈
おいおいおい!ヤバイ!毛穴から変な汗がドッと出たぞ!
何で?何でだ⁈ いやいや、まさかだろ!
おっ、落ち着け、おれ!狼狽し過ぎだっ!いいか、よぉ〜く聞け!今日は始まったばっかりなんだぞ!
雲ひとつない真っ青な空に向かって心の動揺を抑えようと手で塞ぐ鼻と口からフガフガおかしな息継ぎの音が漏れ出す。ヤバイ!
と、そのときナイスタイミングで電車が到着するアナウンスが流れた。
おれの動揺は田中先輩に気付かれていないようだ。
雑多な音に紛れるように大きく息を吐き出した。
平常心。へぇーじよぉーしん!へーじょーしん!
念仏を唱えて自分を落ち着かせる。
乗り込んだ電車は市の中心部へと向かう路線。
そう言えば行き先を知らない………オイオイ。
「田中先輩、今日何処に行くんですか?」
座席に座るときに田中先輩から少し離れて座った。
近いと田中先輩の体温やいい匂いで過剰反応しそうだからだ。これは仕方がない。健康な男子高校生で免疫力が無いんだから。
「おっ?言ってなかったかな?」
「教えてもらってない………と思います。」
記憶が無い場面でもしかすると聞いていたかもしれないが。
「◯◯県の△△市だ。」
「えっ?そんなとこまで行くんですか⁈ 」
田中先輩の言う場所はここから車で片道三時間はかかる。
「そう。市内に出て電車を乗り換えて新幹線に乗って行く。」
「新幹線 ⁈ 」
「ちょっと遠いと昨日前置きしたはずだが? 」
いや、遠過ぎだろうぉぉぉっ!
「久保くんにはわざわざついてきてもらうのだから、交通費や食事代は全額私持ちだ。何も心配することは無いぞ。」
「いや、でもですねぇ!」
「そうでなければ同行を願っては無いから。」
ーーーこれはちょっとそこまでなんて軽いもんじゃなく、立派に旅行じゃないのか?
「田中先輩?何しにそんなとこまで行くんですか?」
顔を左手で半分覆って小さく息を吐いた。
「ゔ〜〜〜〜ん・・・あぁーーーっと、ざっくり言うと取材?」
「取材?」
聞き返して田中先輩を見れば、明後日の方向を見て頭をポリポリと掻いている。
………やめてくれ!瞬間で可愛いと思ってしまったじゃないかぁぁぁっ‼︎
「そぉ。・・・ちょっとね、気になって。」
そこで何故はにかんで頬を赤くするぅーーーーーっ!
いつもと違う田中先輩に初っ端から調子を狂わされて、こんなんで今日一日保つのか?おれっ⁈
久保 真司、十六歳。
この日の出来事がこの先のおれの人生を一変させる変革の一日になろうとは………思ってもみなかったわけで。
次話も久保くんは悶えるのでしょうか?
読んで下さってありがとうございます。