エピローグ
イベントは終了したが、メンテナンスアップデートまでにはまだ日にちがあり、今日も今日とて新、SAI,アルパカの三人は緑風公園でSOHを楽しんでいた。
今は一通り対戦が終わって、公園に来ていた移動店舗で買った飲み物を片手に談笑しているところだ。
そこに、
「あっ! いたいた!! ヤッホ――!!」
騒々しくも陽気な声。
目を遣るとスポーツバッグを肩に下げた制服姿の少女がこちらに走り寄ってくるところだった。
腰かけていたベンチから新達三人が思わず立ち上がる。
「モフリンじゃないか!!」
「えへへ~」
はにかんだように微笑むのは、ナギが死んでしまって以来緑風公園に姿を見せていなかったモフリンだった。
「ごめんね。いきなり来なくなっちゃって。なかなか気持ちの整理がつかなくて」
少女は眉尻を下げながらまず謝った。
「いや、そんなの気にするな。あんなことがあったんだ正直もう来ないかと思ってたぐらいだ」
「うん。モフリンもそうしようかなって思ってたんだけど………」
モフリンはそう言うとスカートのポケットを探りスマホを取り出した。
「ARATAさんSOHを起動して?」
「え? お、おう。いいけど………」
うつむいたままスマホを操作するモフリンを怪訝に思いながらも、新は言われるままSOHを起動する。
ホーム画面に移ると「何? どうしたの?」とハルが小首を傾げた。
今さっき対戦を終えて終了したばかりなのにまたすぐに起動したので、不審に思ったのだろう。
「いや。俺もよく分からないんだけど今モフリンが来ててさ」
新自身戸惑いながらハルにそう説明する。
「そうなの?」
彼女も少し驚いたようだった。
「うんそれで………」
ピロリン☆
言いかけた新の耳に聞き慣れないSEが響いた。
見るとプレゼントボックスに何かが送られてきたようで、吹き出しの中に1という数字が表示されている。
運営からか? と首をひねりながら、習慣的にプレゼントボックスを開くと、メッセージが表示された。
『モフリンさんからプレゼントが送られてきました』
そして送られてきたものは、
「レア・バトルガントレット?!」
新が熱望したレア装備だった。
思わずモフリンの方に目を遣ると、操作を終えてスマホをポケットにしまうところだった。
新と目が合うと寂しそうに笑う。
「モフリンが持っててもしょうがないからね。ARATAさんにあげようと思って今日は来たんだ」
嬉しいには嬉しいが青年は眉をしかめる。
「………これは餞別ってやつか?」
だとすれば嬉しくないと新は思う。
もし彼女が今日を最後にここには来ないつもりなら、このアイテムがサヨナラの印ならば全然嬉しくない。
この陽気で愉快な少女ともう会えなくなるのは、いかにも寂しい。
しかしモフリンは慌てて言った。
「あ! 違うよ?! 違う違う! もうここに来ないとかそういうつもりで渡したんじゃないから!」
思わずホッとする新。
自分は思った以上にこの人懐こい少女と別れがたく感じていたのだと自覚する。
モフリンはさらに言葉を続ける。
「それにSOHをやめるつもりも無いよ?」
「え? そうなんですか?」
意外そうな声の主はアルパカだ。
モフリンは彼女に顔を向けると頷いた。
「うん。今はまだする気持ちになれないけど、そのうち絶対復帰するつもりだから」
少女は霞むような微笑を浮かべて言う。
「だってSOHがあったからナギに会えたんだもん。ARATAさんたちと仲良くなれたんだもん。それを全部なかったことにはしたくないんだ」
そうか、と新は納得した。
この子はナギのことを本当に大事に思っていたのだ。
いや今もきっと。
だから彼と一緒に駆け抜けた時間を無かったことにはしたくないのだ。
悲しい出来事に蓋をするのではなく、思い出として大切に持ち続けるためにモフリンはいつかもう一度始める気でいるのだ。
「分かった。モフリンが復帰するのを俺は心待ちにしてるぞ」
新は手を差し出した。
普段は女の子相手にこんなことはしないのだが、約束の証のつもりだった。
それを少女は笑顔で握る。
「うん! またねARATAさん!」
「ああ! また必ず!」
「モフリンさん私も首を長くして待ってますから」
アルパカも手を差し出し、モフリンは両手で握りブンブンと上下に振った。
「うん! それにここにはちょくちょく遊びに来るから!」
そしてSAIは、
「………………」
きまり悪げに下を向いていた。
ナギを失った直後「あ~あ。負けちゃった」と口走ったモフリンに目くじらを立てて詰め寄ったことを気にしているらしい。
今となってはあれがモフリンの強がり、あるいはナギを失ったことを認めたくないがゆえの言葉だとSAIも分かっていた。
新はそんな彼の横腹を肘でつついて、両手でモフリンの前に押し出してやる。
金髪のイケメンはサングラス型VRグラスに覆われた目をそらしながら、ボソボソと少女に話しかけた。
「その、あれだ。誤解して悪かった。薄情な女だと思ってしまったんだ。だがそれは私の間違いだった」
そして彼は勇気を振り絞り一歩前に出てモフリンを正面から見据えた。
男っぽい大きな手が差し出される。
「君が復帰したらまた私と対戦してくれるか?」
モフリンはクリスマスにプレゼントをもらった子供の様に、満面の笑みになった。
「もちろん!!」
少女はしっかりと彼の手を握った。
そしてこれがSOHプレイヤーとしてのモフリンとのしばしの別れの握手となった。
モフリンはこれから部活が忙しくなるらしく、それもあってSOH復帰にはかなりの時間がかかるらしい。
気持ちの整理もきっとまだついていないだろう。
でも新はまた彼女がこの場所でSOHをプレイすることを信じていた。
それまで、彼女とそしてナギがくれたこのレア・バトルガントレットを大事に持っておこうと心に誓う。
たぶんもっと上級の装備を手にする機会もあるだろうが、これを売ったり、誰かにあげたりすることはないだろう。
そして彼女とナギが残したものはそれだけではなかった。
「こんにちは~!!」
「こんちわ」
モフリンが公園を去るのとちょうど入れ替わるようにして、ミナミとアイカのJKSOHプレイヤーコンビが姿を見せる。
この二人と新達三人をつないでくれたのもモフリンだった。
それだけでなく他のプレイヤー同士もモフリンを起点に繋がっていったことを新は知っている。
モフリンとナギはたくさんのものを新達、そして緑風公園に残してくれたのだ。
「こんにちは! 早速ですがARATAさんまだHPは残ってますか? 残ってたら対戦しましょう!」
「俺はフルバトルでSAIに勝ったとこだからちょっとHP残ってるぞ。一本勝負ならできる」
「是非お願いします!」
「あ、じゃあアイカさんは私と対戦しませんか? 一本勝負二回しただけなので、スタミナンを飲めばすぐ回復すると思いますし」
「了解。プルンプルンには負けない」
「ぷ、プルンプルン?」
「じゃあ私は観戦だな。静かに見守ることにしよう」
「なんで離れていくんだよ? 遠い遠い! なんだ? まだミナミとアイカに人見知りしてるのか?」
「べ、別に人見知りなどしていない!」
新達三人はJK二人組と合流しワイワイと賑やかに話し始める。
そしてすぐにSOHで対戦が始まった。
空は快晴。
春の暖かな風が緑風公園の緑を撫でさわさわと音を立てる。
柔らかな日差しはまるで毛布のように暖かく彼らを包んでいる。。
今日は絶好の、SOH日和だ。
というわけでSOH二章エピローグをお送りしました!
二章はいかがだったでしょうか? 楽しんでいただけましたか?
作者的には、二章はキャラも増えて、個々のキャラの掘り下げなどもあり、フローチャートを作ってそれを見ながら書いたり、あとで書き足す部分が出たり、今まで以上の作業量が発生し、かなり難産と言えるお話でした
今まで25、26話ぐらいまでの作品しか書いていなかったので「続きを書く」ことがいかに大変か思い知った二章でした
でもたくさんの方々の応援もあり何とか書き上げることが出来ました
制作期間中連載中と私を励ましてくださった方、感想を下さった方、FAを描いてくださった方、さらにはツイッターでRTやいいねをして下さった方など本当に感謝しきれないほどの、ご厚意をいただきました
この場を借りて心から感謝を申し上げます
本当にありがとうございますm(__)m
さてあからさまに続いている感じのSOHなんですが、すぐに続きを投稿することはできません
現状続きの原稿はゼロでございます
なのでまた制作期間をいただくことになります
正直に言うと新作を書きたい気持ちと続きを書きたい気持ちが等分にありまして何とか同時並行で書けないものかなと思案しているところです
そういうわけで、またもしかしたら長い制作期間になるかもしれませんが、なんとか三章も形にしたいと思いますので引き続きご愛顧のほどよろしくお願いいたしますm(__)m




