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第43話 流星

 戦闘が終了し、勝利した新ハル組に大量の経験値と豪華なイベントクリア報酬などのリザルトが空中表示される。


 しかし新はそれをほとんど見ていなかった。


 とにかくハルが無事であったことに安堵して、気が抜けたままスラックスが汚れるのも構わず廃工場の床に奇妙な正座のような格好で座り込んでいるのだ。


 やがてリザルトが終了しハルがスマホに戻ってきても、新はしばらくそのままだった。


「ちょっとどうしたのよ? 何かあったの?」


 新の様子がおかしいことに気づいたのか珍しくも心配げにハルが尋ねてくる。


 新はまだ心臓がバクバクいっているのを感じながら、ハルが穴に落ちた直後にSOHが処理落ちしたことを伝えた。


「なるほどね。そんなことがあったの」


 金髪の少女が事の経緯を聞いて納得顔でうなずく。


 ゲームキャラクターであるハルには、当然のことながら処理落ちしていた間の記憶などないのだ。


 言うなればハルの時間だけが止まっていたという感覚なのだろう。


「ところであんたさあ………」


「? なんだよ?」


 やっと気分が落ち着いてきた新が床から立ち上がり膝のほこりを払いながら言うと、ハルは、


 ニマア~。


 それは意地の悪そうな笑みを浮かべた。


「『ハル―――――――――!!』とか叫んでたわよね?」


「うっ!」


 新が瞬間的に渋いお茶を飲んだような顔になってうなる。


 顔に血が上るのが分かった。


 上ったり引いたり今日の新の顔面血流は大忙しだ。


 新は先ほどまでの自分の行動を思い返してみる。


 結局処理落ちしていただけだったのに、すごく狼狽してしまった気がする。


 こうして掘り返されてみると、異常な恥ずかしさが込み上げてきた。


「んっふっふ! 『ハル―――――――――!!』だって! そんなにあたしが心配だったの?」


 小悪魔というかまるっきり悪魔的な表情で、ハルがスマホの中から新を見上げてくる。


 次元の壁さえなかったらぶん殴ってやりたいくらいの実に小憎らしいツラであった。


 アップデートで表情モーションが豊かになったのは良いが、こんな表情までできるようにならんでもいいだろうにと新は思う。


「ねえねえ? そんなに心配だったの?」


 さらに煽ってくるハル。


 新はついにキレた。


「うっせえ! 心配だったに決まってんだろ!!」


「!!」


 その剣幕に金髪のニューマノイドが目を丸くする。


「あんな穴に化け物と一緒に落ちたんだぞ?! しかもどんなに呼んでも6分以上反応が無かったんだぞ?! 心配するに決まってんだろ!! 心配しないわけがないだろ馬鹿野郎!!」


 そこまで感情に任せて言い募り、唐突に新ははっと我に返った。


 やばい。


 ちょっと言いすぎたか?


 恐る恐るスマホを見ると、


「~~~~~~~~~~~~~~!!!」


 ハルは何故か顔を真っ赤にして口元を~~させていた。


 はて? なんでこいつは赤くなっているんだろうと新は頭を傾げる。


 ………いやもしかしてだが。


 照れてるのかこいつ?


 さらにもしかしてだが、しつこく心配だったか聞いてきたのも、俺をいじめるためじゃなく、普通に俺が自分を心配していたか確かめたかったからじゃないのか?


 ………ともかくハルがフリーズしている今が反撃のチャンスであった。


「くっくっく! なに赤くなってんだあ? もしかして照れてるのかあ?」


 ねっちりいやらしく尋ねてやるとハルは慌てたようにぷいっと顔をそらした。


「て、照れてなんかないわよ!! ばっかじゃないの?! なんであたしが照れなきゃいけないのよ!!」


 もうちょっといじってやろうと新は思っていたが、ハルがかみつきそうな剣幕だったため「そ、そうか………」と臆病なカタツムリみたいに矛を収める。


 押しの弱い男であった。


「まあでも………」


 ハルが不意に言葉を継ぐ。


 思わずスマホを覗き込んだ新の前で少女はへにゃっと表情を緩めた。


「心配されるってのも悪くないわね!」


 そしてなんだか幸せそうにふへへと笑う。


 いつもやたら偉そうで、基本的に不機嫌そうなハルが新に見せた、初めてかもしれない無防備な笑顔。


 新は思わずドキリとする。


 なんかこいつすごく可愛いような?


 しかし、いやいや! と青年はすぐにそれを打ち消す。


 確かに見た目が好みであることは間違いない。


 だがあの傍若無人な言動の数々を思い出せ。


 こんなささいなことでこいつを可愛いと思ってしまうなんて、チョロ過ぎるだろう。


 しっかりしろ俺!


「ねえ新」


 煩悶するおのれの指導者の気も知らずハルは彼を珍しくも名前で呼ぶ。


「な、なんだ?」


 動揺する新だがハルは神妙な空気をまとっていた。


「これであいつの仇が取れたと思う?」


 その言葉にはっとした新も居住まいを正して答える。


「そうだな。取れたと思うぞ」


 そう答えながら新は思っていた。


 実際のところこれがナギの敵討ちになったかどうかは問題ではないのだ。


 これはハルにとって必要なこと。


 新たち人間が亡くなった人のために葬式を開くように、ハルにとっても初めて面した他人の死を受け入れるために時間と儀式が必要だったのだ。


 それがこの敵討ちだった。


 だから新は今ハルにナギの敵は取れたのだと、ナギへの別れは済んだのだとはっきり言ってやらなければいけなかったのだ。


 そんな新の思いが伝わったのだろうか、ハルは「そっか」と薄く微笑んでいた。


「………さてそろそろ帰るか。イベントも終わったしな」


 新は言ってVRグラスを外した。


 工場の外へと歩きながら、それをケースにしまう。


 でもSOHは終了しなかった。


 今この少女を一人きりにしたくなかった。


 外に出たと同時に無数の星が目に入ってくる。


 今日は満天の夜空だった。


 このあたりは街はずれに近いので街灯が少なく、高い建物も少ないのでよく星が見える。


 そしてその夜空を煌めきがよぎっていった。


「お! 流星だ」


 思わず口にした新にハルが反応した。


「流星? それあたしの技と同じ名前のやつよね? あたしも見たい!」


 金髪の少女は子供のように瞳をキラキラさせているが、新は首を横に振った。


「もう流れちゃったよ。流星が見えるのは一瞬なんだ」


「なんだそうなの………」


 ちょっとしょんぼりした様子のハルに新は頭を掻きながら、


「でも星はよく見るよ今日は」


 と口にしてしまう。


 ハルはすぐさま新にスマホのカメラを空に向けるように頼んだ。


 スマホのカメラが彼女にとっての目なのだ。


「………真っ暗で何も見えないわね」


「そうか………」


 新の目には満天の星が見えているのだが、SOHアプリの認識機能では星の光はとらえられないのだろう。


「でもこれがあたしの空なのね」


 どこか寂し気に呟くハル。


 それでもハルはそれからしばらくの間夜空を見上げていた。


 新も腕が疲れてどうしようもなくなるまで、スマホを天に向けて夜空を見上げていた。


 いつの日かハルと一緒に輝く星を見上げられたらとぼんやり考えながら。


ハルにデレ期到来~~~~ヾ(≧∇≦)/


と大騒ぎするほどデレてないですねw


でもちょっと可愛らしいハルをお読みいただけたのではないかと思います


二章もそろそろフィナーレですが、まだまだ簡単にはデレませんよ~笑

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