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第5話 バトルエリア

「ハル、俺と契約しよう!」


「は、はい!」


 思いがけず良い返事が返ってきた。


 ハルはまだ何が起こったのか分かっていないらしく、碧色の瞳をぱちくりさせている。


 そんなハルの表情を新は少しかわいいと思ったが、それはともかく話を進めていく。


「で、仮契約ってどうするんだ?」


「い、今契約書を発行するわ!」


 ようやく事態に頭が追いついたハルが忙しなく宙に指を踊らせた。


 このチャンス逃すまじとでも言うように焦った様子で、空中表示された契約書を新に押し付けてくる。


「はい! 契約書! 早く契約して! 素早く!」


 しかし新は勢いに飲まれることなく、マジマジと契約書を眺め始めた。


 それほど長いものでもなかったので隅から隅まで読んでみる。


 その内容を簡単にまとめるとこのような感じだった。


1.仮契約とは本契約をする前のお試し期間である。


2.仮契約から10日間そのニューマノイドと過ごすことで、プレイヤーは彼(あるいは彼女と)本契約することができる。その際固有のアビリティーをニューマノイドは取得する。


3.仮契約期間終了後プレイヤーは仮契約を破棄することができる。


4.仮契約期間中プレイヤーは他のニューマノイドと仮契約することができない。


「なるほどな………」


 読み終えて新は腕を組んだ。


 少なくとも仮契約中の10日間はどんなに相性が悪くてもこのハルと付き合わないといけないということらしい。


 でもまあいいか、と新は思う。


 実のところ見た目的にはハルは新のストライクゾーンなのだ。


 強気な面差しや綺麗な金髪も良いと思うし、すらりとした手足も好みだった。


「ちょっと! 早く決めなさいよ!」


 ちょっとばかし不埒なことを考えていた新の耳にハルのきつい声が叩き込まれる。


 短気なのだろう。ハルはいらいらした口調で急かしてくる。


 その声に促されて新は契約書の最後に表示されたメッセージを確認する。


『ニューマノイド・ハルと契約しますか?』 


 さらにYES・NO双方のタブがあったので、視線をスマホに戻しYESをタップする。


 視線でポイントすることもできる仕様だったが、この手の操作は自分の手でタップするほうが雰囲気が出ると新は思う。


『ハルとの仮契約が完了しました。仮契約完了記念ボーナス、サービス開始ボーナスをプレゼントボックスに送らせていただきました。ご確認ください』


 契約が完了するとハルがふうと安心したように息をついたのが分かった。


 やはりこのまま仮契約してくれる者がいないのではないかと不安だったのだろう。


「ま、とりあえず10日間よろしくなハル」


 新が言うとハルは顎を突き上げた大変エラそうなポーズで答えた。


「10日間? ふん! あんたは必ずあたしと本契約するわ。10日後『どうか私と契約してください!』と土下座で頼み込むあんたが今から楽しみだわ!!」


 その言葉を最後にハルの体が電子的に分解されたようなエフェクトとともに光の粒子となり、スマホに吸い込まれるようにして消えた。


 スマホの画面を見てみるとスマホゲームによくあるHOME画面の中央から仏頂面のハルがこちらを見返してくる。


 ハルの周りには様々なアイコンが並んでいる。その中にプレゼントボックスがあったのでまずは覗いてみることにした。


 その名の通りプレゼント箱の形をしたアイコンをタップする。


 中には、装備石やスタミナ回復薬、それからインテリアコインなんていうものも入っている。


 新はとりあえずすべてのプレゼントを回収しておく。


 使い方はおいおい調べればいいだろう。


 さて、ともあれ相棒を得た新。


 次にどこへ行くかは決まっていた。


 バトルエリアである。


 バトルエリアとはその名の通りニューマノイド同士を対戦させるためのエリアだ。


 SOHでは簡単にバトルエリアが検索できるようになっていた。


 ボタン一つでMAPがVRグラスの視界の端に現れる。


 それはこのあたりの地図だ。


 その一部に赤い丸がついていて、そこがバトルエリアに指定されているらしい。


 一番近くのバトルエリアは緑風(りょくふう)公園。ビジネスビルの隣、公道に面した小さ目の公園だ。


 新も行ったことがあるのですぐにそれと分かった。


「ハル、これからバトルエリアに向かうぞ」


 SOHはリアルでバトルエリアに指定されている場所に行き、対戦相手を、これもリアルで見つけて対戦するゲームなのだ。


 HOME画面に戻り、表示されているハルに新が告げるとライオン娘の表情が輝いた気がした。


「いよいよ戦闘ね! ワクワクするわ!!」


 何か文句でも言われるかと構えていた新はちょっと意外に思う。


 こいつは戦闘が好きなんだろうか? それともニューマノイドはこういうものなんだろうか?


 まあ育成バトルゲームのキャラが戦闘嫌いというのも問題があるだろう。


 とりあえず納得して、新はSOHを起動したままスマホをポケットに突っ込み歩き出す。


 歩行者天国を戻るだけなのでVRグラスはつけたままだ。


 道々に行きがけに見かけたニューマノイドたちがいた。


 ラプシェはどうしているだろうかと彼女がいた場所をのぞいてみたが、そこはもぬけの殻だった。


 たぶん他のプレイヤーと仮契約したのだろう。


 ほかの場所のニューマの中にも姿が見えなくなった者がいたので、仮契約するとその場所からいなくなる仕様らしい。


 すぐに新しいニューマと入れ替わるということはないようだ。


「まだ着かないの?」

 

 不意にワイヤレスイヤホンにハルの声が響く。


 ちょっとイライラしたような声だ。


 ハルは相当短気な性格のようだ。まだ五分も経っていない。


「もうすぐ着くよ」


 新が宥める口調でそういうとハルは「ちっ!」と舌打ちした。


「キリキリ歩きなさいよ。鈍くさいわねえ」


 この! と思わず新の頬が引きつる。


 こいつほんとに性格悪いな! 仮契約したのは失敗だったか。


 でも、と新は思うのだ。


 良いところもあった。


 見た目の話ではない。


 ハルは新が「君は本当に強いのか?」と尋ねたとき嘘をつかなかった。


 ここまで高度なAIなら嘘をつくことくらいできたろうに。


 もしハルが自分は強キャラであると力説したならば、まだSOHを始めたばかりの新は真偽の判断などできなかった。


 しかし新の問いに対するハルの答えは「た、たぶん………」だった。


 その正直さは悪くないと新は思うのだ。


 まあそれを差し引いても今のところマイナス部分のほうが大きいわけだが。


・・・・・・・・・・


 緑風公園に到着した。


 60m四方程度の本当に小さな公園だ。


 真ん中に噴水がありその円周に沿って白い木製のベンチが置かれている。


 公園の外周には桜、アジサイ、梅などの花や木が植えられていてその下にも白いベンチが置かれていた。


 遊具はなく落ち着いた雰囲気の公園だった。


 入口は三か所とられていて、そのうち一か所は許可を得た移動販売車が駐車してそのまま飲食物を販売できるようになっている。


 今もホットドッグの看板を掲げた移動販売車が絶賛営業中だ。


 子供向けというよりは会社の昼休みに社会人が一休みに来たり、近所のじいちゃんばあちゃんがが日向ぼっこに来るような都会のオアシス的な公園だった。


 しかし今日は少し趣が違うようだ。

 

 新が入口から中をのぞいてみると、普段はリーマンたちが移動販売店目当てでやってくる昼時以外は閑散としている園内に、十数人ほどの人影があった。


 十数人は皆、VRグラスを着けて手にはスマホを持っている。


 たぶん多くがSOHのプレイヤーだと思われた。


 バトルエリアに到着しても対戦相手がいないのでは話にならない。これは都合がいいことだった。


 SOHはプレイヤー同士がリアルで会話し、対戦を申し込むことを想定したシステムになっている。


 近くにいるだけでは駄目でお互いのスマホを一時的にリンクする必要がある。


 ちょっとコミュ障の気がある新にはハードルが高いシステムだが、ここしばらくの彼はバイト先で必要事項を伝えるのと、家に来る親戚と話すぐらいしか他人と会話する機会がなかったので、リアルの会話に飢えているところがあった。


 SOHなら同じゲームをしている者同士話題も合うだろうし、新には「友達なんかもできちゃうかも?」という淡い期待があった。


 そのためには他のプレイヤーに話しかけなければならない。


 新は唇を舌で湿らすと対戦相手を求めて周りをギラギラと見回すのだった。


シンギュラリティー・オブ・ハーツの特殊なシステムの一部がこの話で明かされました


こういうシステムになっていることには理由があります


それもおいおい明かされていきます 


よければ予想してみてくださいd(*^v^*)b

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