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第42話 陥穽

 ビーストにとどめのEXスキルを叩き込んだハルがビーストと一緒に穴に落ちた。


 ビーストを踏み台にして床に戻る算段だったのだが、どうしてこうなったのか。


 新は考え、単純な答えにたどり着いた。


 キックした場所が悪かったのだ。


 頭部にとんでもない威力のキックを叩き込んだために、まるで細長い板の端を蹴ったようにビーストが回転し、ハルは踏み台にすることもできず一緒に穴に落ちたのだ。


 おそらく『シューティング・スター』後の技後硬直もあったろう。


 それが無ければ穴に落ちる途中ででもハルはビーストを足場に床に戻れていたに違いない。


 ビーストを穴に落としたのは、もしHPをEXスキルで削り切れなくても、奴が穴から這い出るまでの時間でハルの技後硬直が解けるだろうと踏んでいたから。


 技後硬直さえ解けていれば、ビーストが穴から這い出る無防備な瞬間に踏みつけてでもやればそれで勝利することもできるはずだった。


 完璧な作戦のはずだった。


 さらにいえばできる限りの安全策を取ったつもりだった。


 しかし実戦はシミュレーション通りには行かないということをまざまざと新は思い知る。


 自分はハルに怪物の胸のあたりを狙うように指示すべきだったのだ。


「倒せたよな?」


 新は不安げに離れた場所から穴を見ながら思わずつぶやく。


 事前にラプシェと戦闘して試していたのだが、『シューティング・スター』は発動に、通常より長い助走と対象との高低差が必要な特殊な技だ。


 だがその分威力は桁違い。


 残っていたビーストのHPぐらいは優に削り切れたはずだった。


 だがもし削り切れていなかったら………。


『シューティング・スター』の技後硬直は長い。


 確実にとどめをさせると思った時にしか使えない技だ。


 新は画面のビーストのHPを確認してみる。


 表示上、奴のHPは0になっているように見える。


 でもナギの例もある。


 もしあの時のようにわずかにHPが残っていたら………。


「ハル! 大丈夫か?!」


 新は声をかけるが穴の中から返事は返ってこない。


 ハルのHPは技を出す前と同様、五分の三は残っている。


 生きているのは確かだと思うが。


「ハル! ハル!! 聞こえてないのか?!」


 新は何度も呼びかけるが返事が返ってこない。


 ――何か様子がおかしい。


 静かすぎる。


 戦闘音ももちろん聞こえてこないし、勝った時空中に表示されるYOU WIN! の文字も、負けた時のYOU LOSEの文字も表示されない。


 さらに新が移動しても画面は固まったまま動かない。


 これは………。


「処理落ちしてるのか?」


 そう言えば今日はSOHの起動が妙に遅かった。


 イベント最終日前日の夜ということでアクセスが殺到し、サーバーへの過剰負荷で処理落ちしている可能性も考えられないことではない。


 それならば待っていればまた動き出すはずだ。


「………」


 新は待つ。


 一分が経過する。


 まだゲームが動き出す気配はない。


 二分経過。


 まだ動かない。


 三分、四分、五分が経っても画面や音声に変化はなかった。


 新の心にも流石に不安が芽生えてくる。


 処理落ちしているのはもう間違いない。


 だが、本当にハルは無事なのだろうか?


 もしビーストにHPが残っていたなら、技後硬直中のハルに為す術はない。


 まだHPが五分の三ほど残っているとはいえ、穴の中のような閉鎖空間では逃げ場がなく一瞬で殺されてしまうだろう。


 もしその時のダメージが、現在表示されているHPバーに反映される前にゲームが処理落ちしたのだとしたら、ハルはすでに死んでいるのに、HPゲージだけが残っているという可能性もあるかもしれない。


 そんな自分の想像に新は心底ぞっとする。


 サアーっと頭から血が引き、冷たい汗が全身に噴き出してくるのが分かった。


「ハル………」


 少女の名を口にした新の声は震えていた。


 半ば無意識にその足は画面の中の穴に近づこうとするが、処理落ちしている今それは叶わない。


 まるで歩いても歩いても前に進めない悪夢の様だった。


 手を伸ばしても届かない。


 新の中で何かが決壊した。


「ハル―――――――――!!」


 青年の口から絶叫がほとばしる。


 その時、


「何よ? うるさいわね」


 そんな声とともに突然視界がぶれた。


 新は動いていないのに急に穴に近づいたのだ。


 そして、目の前の穴のふちに白い手がかけられた。


 続いてもう一つの手も。


「んしょっと!」


 そんな掛け声とともにひょこっとハルの上半身が穴から姿を現す。


 そのタイミングで華々しいファンファーレとともに、HAL WIN! の文字が空中に表示される。


「ハル………!」


 気が抜けたような、ため息のような声とともに、新は床にへなへなと座り込んだのだった。


というわけで穴に落ちたハルのお話でした


これも私がブラゲーをやっている時に近いことがありまして、某お船のゲームでボス戦で勝利した瞬間に画面がフリーズ 幸いドロップや報酬はもらえていたのですがひやひやした経験があります


ハルの命がかかっているSOHであんな瞬間にフリーズが起これば、どんな気持ちか書いてみたいというのが、このお話の起源です いかがでしたでしょうか?


さて次回は無事穴を脱出したハルと新のやり取りになります


そんな中ハルに変化が?


次回もお楽しみにですd(*^v^*)b

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― 新着の感想 ―
[良い点] ネトゲあるあるですね。 わたしは夜戦突入でフリーズし引退の引き金になっちゃいました。汗。 自分のミスなら諦めもつきますが、そうでないと辛いですものね……。 ハルが無事で良かったです!
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