第28話 日曜日はみんなと一緒に
イベントも最終盤に近づいていたある日の昼前。
その日はちょうど日曜で天気も快晴。
新は駅前の謎のモニュメントの前で、SAIとアルパカとともに三人で待ち合わせをしていた。
今日はなんとモフリン、ミナミ、アイカのJK三人と、このいつものメンツで遊ぶことになっているのだ。
内容は、今日丸っと一日かけてそれぞれが追いかけているビーストがいるバトルエリアを巡り、お互いのビーストハントを観戦、応援しようというもの。
もちろん企画立案はモフリンだ。
今日は久々の部活休みで完全休養日であるらしく、彼女はかなり張り切っていた。
「そろそろだな」
燦燦と降り注ぐ太陽に目を細めながら新はスマホの時計を確かめて呟く。
「あ、ああ………」
答えたSAIの表情は硬い。
「SAIさん! そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ! みんないい子だし対戦したこともあるじゃないですか」
アルパカはにこにこ顔でそう諭すが新はちょっと懐疑的である。
何故ならば確かに対戦はしたものの、その間中SAIは一言も口を利かなかったのだ。
よし! とか やった! とかは口走っていたがそれは会話ではないだろう。
「べ、別に緊張なんてしてない。変な言いがかりはやめてもらおうか」
アルパカに対してSAIは虚勢を張るが、そこそこ彼を知っている彼女からすれば見え見えだ。
「またまた~! 脂汗すごいですよ? ほらハンカチ貸してあげましょうか?」
アルパカはニヤニヤ人の悪い笑みを浮かべながら、ポーチから花柄のハンカチを出そうとするが、
「いらん。ハンカチぐらい自分で持っている。あとこれは緊張のせいじゃない今日は暑いからだ」
それを突っぱねてSAIは自分のハンカチで顔を拭った。
対戦をしたり、雑談をしたり、交流を続けるうちにSAIとアルパカもこんな軽口が叩ける間柄になっていた。
それがなんだか嬉しくて新は二人を眺めながらニマニマしてしまう。
「お! 今日も仲良いっすねえ、お三人さん!!」
モフリンがやってきた。今日は私服姿だ。
青白赤のトリコロールカラーのぶかっとしたTシャツに、ユーズド感のあるジーンズショートパンツ、足元は青地に白ラインのスニーカーにスニーカー用のソックス。
すらりと健康的に伸びた細い足が目に眩しい。
「こんにちは!」
「こんち」
一緒にやって来た友人二人もそれぞれ挨拶してくる。
折り目正しく頭を下げたのがミナミで、「こんち」と無表情に呟きシュタッと片手を上げたのはアイカ。
二人も当然私服姿だ。
いつも通りの眼鏡に三つ編みのミナミは薄桃色の生地に小花を散らせたワンピースと足元はヒールが低めの白のパンプス姿。
腰の少し上あたりで絞ってあるワンピースで、制服の時には目立たなかった意外と起伏のある体のラインを綺麗に見せている。
アイカも髪型はいつもの黒髪ロングにカチューシャ。しかし今日は髪の裾のあたりを緩くシュシュで結んでいた。
服装は白の男物パーカーをワンピースのように着こなし、白黒縞々のニーソックスで絶対領域を作成。
足元はでかいバスケシューズといういで立ちだった。
女子高校生が三人、私服姿で並ぶと花があって非常によろしい感じだった。
新は思わず笑顔になりながら、
「みんなおはよう。朝から元気だなあモフリン」
ごく普通に挨拶。
「皆さんおはようございます! 三人とも服すごく可愛いです! とてもよく似合ってますよ」
アルパカは三人の服装を大絶賛。三人は照れた顔でもじもじする。
年上のお姉さんに褒められたのが面映ゆいのだろう。
そしてSAIは、
「………」
案の定カチコチに固まってギギギと油の切れたロボットの如く片手を腰のあたりまで上げて見せるのがやっと。
たぶんJKの誰も気づいてない。
今日も今日とて彼の人見知りは絶好調のようだった。
「よっしゃー! まずはどこ行く?! というかお腹すいた~!! ご飯食べようよ!!」
しょっぱなからテンションMAXのモフリンがぴょんっ! と跳ねるようにして新に近づき服の裾を引っ張って、空腹を訴えてくる。
新は妹がいたらこんなんかなあとなごみつつ、
「じゃあちょっと早いが昼飯にするか?」
全員に意思を確認すると、賛同の声が上がった。
「あ、それなら私行きたいところがあるんですけど」
何やらガイドブック的なものを広げたミナミが眼鏡を光らせながら提案してくる。
新たちは彼女のお目当ての店に向かうことにした。
・・・・・・・・・・
「へえ~。なかなかいい雰囲気だな。俺オープンカフェって初めてだよ」
大きなパラソルの下にしつらえられた丸い木のテーブル。
そこに据え付けられた椅子に座った新が周りを見回す。
ここはミナミが事前に調べてきたオープンカフェ。
待ち合わせた場所から徒歩で五分ほどの場所。
すぐ近くにはなんとなくパリを連想させる佇まいの、緑色の屋根のカフェ店舗があり、大勢の人が出たり入ったり。
なかなかの人気店のようだ。
「ええ?! ホント?!」
新の感想を聞いたモフリンは大げさに驚いた。
「オープンカフェに来たことないなんてARATAさん人生半分損してるよ!!」
「うわ、うっぜえ~。酒呑みのオヤジかよ」
「あはは! ウザがられた!!」
モフリンは嬉しそうだ。
お正月におばあちゃんちに集まると親戚のおじさんがお酒飲めない人によく似たこと言ってるんだよ~、とモフリンはカラカラ笑いながらネタばらし。
新はさもありなんと納得。
それにしてもこの子は本当にコミュニケーションが上手だ。
屈託なく誰にでも話しかけ、その人に合った話題や自分の好きな話題を絶え間なく提供する。
それだけならただのやかましい少女だが、新が話したがっていることを察するとうまく間を空けてちゃんと話を聞いてくれる。
その押し引きが絶妙で、ついついまたモフリンと話したくなってしまう。
明け透けな笑顔も好感度が高い。
いわゆる愛され系というのはこういう子のことを言うのだろう。
現に緑風公園のSOHプレイヤー10数人で彼女と話したことがない人間はいないし、彼女のことを悪く言う人間もまたいない。
たぶん彼女自身も他人を愛することができる人間なのだろうと新は思う。
「あの~、ところで『あっち』なんであんなことになってるんですか?」
新の斜め前に座ったアルパカが軽く挙手しながら聞いてきた。
あっちというのはモフリンアルパカ新が座った席とは別のテーブルに座ったメンバーのことであった。
そう。
あろうことかSAIはミナミとアイカのJK二人と同じ卓に座っていたのである。
このカフェに到着した当初、当然SAIは新やアルパカがいるこのテーブルに座ろうとしたのだが、三脚しか椅子がないところに先にモフリンが座ってしまったため、仕方なく現在の席に座ったのだ。
たぶんSAIは一人でいるつもりだったのだろうが、そうは問屋が卸さなかった。
モフリンの友人二人がすかさず空いた席に着席。
SAIはこうしてJK二人とお茶することを余儀なくされた。
そして現在、
「………………」
仏像のように無言。ダラダラとガマのように脂汗をかいているのだった。
モフリンは新に顔を寄せ小声で種明かしをする。
「いやあ、このイベント企画した時からあの二人からSAIさんと話す機会を作って欲しいって頼まれててね」
あー、なるほど、と新とアルパカは納得した。
SAIは芸能人顔負けのイケメンだ。
服装もそうだがちょっと浮世離れした雰囲気もあって、ゲームやアニメの中から抜け出てきたような男でもある。
乙女ゲームが好きだという少女たちが一度ゆっくり話してみたいと思うのはおかしなことではないだろう。
それにあの二人なら、SAIアルパカ新のグループともそこそこ付き合いがあって、金髪グラサン黒革ジャンで怖そうなSAIが実はシャイボーイであることも気づいているはずである。
実際、
「SAIさん身長いくつですか? かなり高いですよね?」
とか、
「VRグラサンかっこいい・・・。どこで売ってる?」
などと彼を恐れることなくグイグイ攻めてきている。
しかしSAIはといえば相変わらず完全に固まって一度も口を開いていない。
それどころか、チラチラと新やアルパカの方に時折視線を送ってきていた。
アルパカは苦笑。
「あれSOSサインですよね?」
新に小声で確認してくる。
「ああ。だいぶ困ってるなあれは。………あ、腹を押さえ出した」
新の言う通りSAIは苦渋の表情で片手でこっそり腹を押さえ、もうなり振り構っていられなくなったのか、『タ ス ケ テ ク レ !!』と口パクで訴えだした。
いっぱいいっぱいの友人の姿に新とアルパカは顔を思わず見合わせる。
そして、二人そろって右手でサムズアップして見せる。その意味はこうだ。
『頑張れ!』
それを正しく理解したようで、SAIは掴んでた草の束が地面ごと抜けたおぼれた人みたいな絶望的な表情になった。
しかし二人が助けてくれないと分かって逆に腹が座ったのか、テーブルで冷めつつあったコーヒーを一気飲みし、
「………身長は186cm、VRグラスはAMAZONで買った」
と、ボソボソした声ながらミナミとアイカの質問に答え始める。
………まだ脂汗を垂らし、腹を押さえつつではあったが。
そんな彼の様子に新とアルパカは微笑みを交わし合い、キョトンとした顔のモフリンとの会話に戻っていくのであった。
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というわけで今回はJK3人組といつもの三人によるコラボレーション(?)をお送りしました
やっぱり三人もJKが出てくると場が華やぎますね
SAIは苦境に陥っていたみたいですがw
頑張れSAI!
さて次回は次回のタイトルは「ピアス」です 一体どういう意味なのか? それは読んでのお楽しみ~d(*^v^*)b




