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第27話 モフリンと部活

 ダムダム………。


 体育館にボールが弾む音が響く。


 荒い息遣い。


 滴る汗。


 目の前には両手を広げ立ちふさがる影。


 少女はフウーと細く息を吐き、そして止めた。


「ふっ!!」


 鋭く息を吐くと同時にそのからだが影に向かっていく。


 ダムッ。


 床に弾ませたボールが宙に浮く。


 力加減を誤ったのか、少し高い。


 その分少女からボールは遠のき、それを隙と見た影が手を伸ばす。


 しかし、まるで吸い付くようにボールは高く掲げた少女の手に収まり、彼女はボールを持ったまま鋭くターン。


 ボールの動きに気を取られた影をまんまと置き去りにして少女はゴールに向かってひた走る。


 そしてジャンプ!


 わずかな間をおいてボールが少女の手を離れ、美しい放物線を描いてリングに吸い込まれる。


 わっ!!


 チームメイトと観戦していた下級生の歓声が上がり、間もなく試合終了の笛が鳴った。


 少女、………モフリンのスリーポイントシュートでこの練習試合、彼女らのチームは勝利を収めた。


・・・・・・・・・・


「いやあ。あのスリーポイントシュートは会心の感触だったよ」


 家に帰って晩御飯と入浴を済ませた後、SOHを起動してもモフリンはご機嫌だった。


「撃った瞬間入った! って分かったもん。ナギに見せてあげたかったなあ」


 下着の上に肌触りが良く裾が長いモフモフパーカーのみを着たモフリンは、ベッドの上でゴロゴロしながらナギに話しかける。


「そうですか。それは是非この目で見たかったです」


 癖のある黒髪に褐色肌の青年はにこにことモフリンの言葉に相槌を打つ。


 ここのところ就寝前ナギに学校の話や友達と遊びに行った時の話をするのがモフリンの日課になっている。


 ナギはなんてことない話でもこうして嫌な顔一つせず聞いてくれるので、彼女としても気兼ねなく話せるのだ。


「ねえ、ナギが人間になったらモフリンの試合見に来てよ」


 何気なく彼女はそんな未来の願望を口にする。


「はい。もちろんです」


 ナギはそれにも生真面目に対応。


「モフリン様の雄姿、私が人間になったならばこの目でしかと見届けさせていただきます」


 モフリンは苦笑。


「固い! 固いよ言い方が!」


 ナギは困ったように眉尻を下げた。


「そう言われましても………」


 もし彼が犬ならば、くうんと鳴いて耳を伏せていそうな弱り顔。


 メンテナンスアップデート以降ナギの表情は格段に増えたとモフリンは思う。


 それに表出する感情自体も少しずつ増えている感じがした。


 同じような場面でも、出会った頃のナギはこんな表情を見せなかった。


 あのドクターXとか言う胡散臭い人物が言っていたように、日々ナギは人間に近づいているのかもしれない。


「じゃあそれは人間になるまでの課題ね。それまでにもうちょっと柔らかくなること。いいね?」


「精進いたします」


 しかつめらしく頷くナギにモフリンはもう一度苦笑。


 まだまだ先は長そうだ。


 でもこういう生真面目なところもモフリンは気に入っているのだ。


「時にモフリン様」


 居住まいを正したな青年がスマホの中からモフリンを見つめ上げてくる。


 モフリンはそれに何気なく「ん? なに?」と返答する。


「明日も怪物狩りには行かれないのでしょうか?」


「あー、そうだね。部活の練習があるから無理かな。今日の反省点を踏まえて連携の確認とかあるし」


「そうですか………」


 ナギは顔を曇らせた。モフリンにはその理由が何となくわかった。


 昨日田中さんがビーストを倒したとき彼に教えたイベント報酬が原因だろう。


 確かあれはすごかった。モフリンもできれば欲しいと思う。


 だが、イベントの開催期間は限られている。


 今のペースだとおそらくイベント期間中にモフリン達がビーストのHPを削り切りクリアするのは難しいだろう。


 これまでの削り具合と部活の予定などを加味すると、3回か4回分くらい足りないと思われた。


 スタミナンEXやDXがあればいけるかもしれないが、持っていたものは友人との付き合いなどで全て使ってしまっている。


 かと言って田中さんのようにDXを買うために課金するほどのお小遣いは残っていなかった。


 状況的にはイベントクリアはすでに詰んでいると言っていいかもしれない。


 でもモフリンはそこまで気にしているわけではなかった。


 せっかくここまでナギと一緒に削ってきたのだし、ビーストを倒したいとは思うが、イベント自体は楽しめている。


 友人たちとああでもないこうでもないとか言いながら作戦を練ったり、イベントついでに買い物をしたり、カフェでお茶をしたり。


 彼女にはそれでよかったのだ。


 しかし彼女のニューマであるナギは焦っているようだった。


 その焦りは報酬を知ってから一段と強くなった気がする。


 モフリンは言い聞かせるようにナギに説く。


「ナギ。もう一度言うけど焦らなくていいからね。モフリンにとってはビーストを倒すことより君とこれからも楽しく遊ぶことの方が大事なんだから」


 それはモフリンの正直な気持ちだった。しかし、


「分かっております、モフリン様のお心遣いは。しかし私は………」


 ナギはその言葉の続きをモフリンへの配慮からか控えたようだったが、ビーストを倒すことへのこだわりが消えたようには見えなかった。


 結局モフリンとナギの小さな溝はこの日も埋まらなかったのだ。


というわけでモフリンとナギのお話でした


ここのところモフリンとナギは今一つ噛み合っていないようです


お互いに何を言っても今一つ通じなくてすれ違ってしまうことは人間同士でもあります


ましてやそれがまだ生まれて数週間しか経っていないAIと人間ならなおさらなのかもしれませんね


仲は良い二人なのに何故溝ができてしまうのか 皆さんも考えてみてくださると嬉しいです(⌒-⌒)


さて次回のタイトルは「日曜はみんなと一緒に」です お楽しみに~d(*^v^*)b

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― 新着の感想 ―
[一言] この二人もSAIたちと同様のギャップがあるようですね、理由は決定的に違いますが……。 彼女の想いの熱量が、ぐっと高まる瞬間が、二人の関係を語る山場かなぁと、その「おいしい」シーンがいつ来る…
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