第26話 イベント報酬
集まった皆の前で初めて倒されたビースト。
かくして田中さんはイベントをクリアしたわけだが、その報酬はすさまじいものだった。
まず通常のフルバトルおよそ25、26回分に相当する大量の経験値をあーやは得た。
それによってハルよりかなり高レベルで上がりにくくなっているはずのあーやのLVが4も上がった。
そしてガチャ用の装備石が10連二回分。
豪課金プレイヤーには雀の涙だろうが、新のような無課金プレイヤーには嬉しい報酬だ。
インテリアコインも一気に部屋の模様替えができるほど取得。
さらにこれはドロップアイテムだったが、装備合成専用素材というのがいくつか。
新アイテムなので詳しくは分からないが、新のゲーム経験から察するに、装備をより効率よく強化できる代物だと思われた。
そして、目玉は『レア装備交換券』。
これも新アイテム。名称からして好きなレア装備と交換できる券だろう。
さんざんガチャを回してレア装備が一つも出なかった新にとって喉から手が出るほど欲しい品物だ。
他の多くのプレイヤーにとってもそうだったのだろう。
その証拠に券が表示された瞬間緑風公園は今日一番のどよめきに包まれた。
「これはすげえな………」
しばらく半ば呆然としていた新だったが、ため息交じりの感嘆の声が喉から洩れた。
「そ、そうですね。正直かなりの大盤振る舞いじゃないでしょうか? SOHの初イベントということもあるでしょうが………」
アルパカも動揺を隠せないようで大きな胸に手を当てて頬を紅潮させている。
そして、その横では、
「………」
SAIがVRグラス越しの切れ長の瞳を大きく見開いていた。
硬直しているように見える彼に新は思わず声をかける。
「SAI? どうかしたか?」
SAIはハッと我に返ったように新を見返すと少し目をそらしながら答える。
「いや、さすがに驚いてな………」
新はうなずいた。
「だよな。レア装備交換券は絶対欲しい。あと装備石20連分も嬉しいな。このあいだガチャを回してだいぶ使ったから」
「そ、そうか」
SAIは金色の前髪を神経質にいじっている。どうやらまだ動揺しているようだ。
「新! どうだったの? 私にはリザルト見えないんだけど!」
唐突にハルの声が新のワイヤレスイヤホンに響いた。
周囲が盛り上がっているのに自分は報酬の内容が分からないせいかイライラしているようだ。
「リザルトは見えないのかよ。めんどくさい仕様だな。よし俺が説明してやるよ」
新はスマホの中のハルに向かって報酬がどんなものだったか話してやる。
「経験値がいっぱいもらえるのは良いわね。また強くなれるわ」
「そうだな。俺たちはあーやよりだいぶLV低いからかなり上がるぞ」
「あとインテリアコイン! いっぱいもらえるのは良いわね! 今度はどんな部屋にしようかしら」
「まあビーストに勝ったらだけどな」
「レア装備交換券も見逃せないわね! まだ一つも持ってないからこれでやっと一つ目ね!」
ハルは大変盛り上がっていらっしゃった。もうビーストを倒した気でいるようだ。
実際のところは新にはバイトもあるしイベントもいつまでも開催しているわけではないので、結構ギリギリになりそうなのだが。
これはさすがにちょっと注意を促しておいた方がいいだろうと新は思った。
「おいおい。まだビーストを倒してもいないんだぞ? 捕らぬ狸の皮算用もほどほどにしておけよ?」
ハルは首を傾げた。
「狸? 狼でしょ?」
新は思わずずっこけそうになった。
流石にことわざまでは知らないらしい。そのくせ妙なことを知っていたりするしハルの知識は謎だ。
そんなずれた会話を相棒としつつも、新はビーストハントのモチベーションが大きく上がったのを感じていた。
正直今までは、ビーストのバカみたいな強さもあり、このイベントに対して不満を抱いていたのだが、これだけ報酬をもらえるなら話は別だ。
「皆、拙者のバトルは参考になったでござるかな?」
報酬を受け取りあーやとひとしきりイチャコラした後SOHを終了した田中さんが、スマホをポケットに収納し、周囲を見回しながら尋ねると、
「「「「もちろんです! ありがとうございました!」」」」
という趣旨の返答があちこちで上がり、田中さんは背中を気やすくバシバシ叩かれたり、もっちりと張り出した腹をぷにぷにされたりと、もみくちゃにされる。
それでも普段からたれ気味の目じりをさらに下げた彼はとても嬉しそうだった
というわけで今回はイベント報酬のお話でした
有名どころのグラブルや他のソーシャルゲームではイベントの敵を倒すと随時報酬が手に入り、その都度交換することができるものが多いのですが、SOHのビースト・ハントではビーストを倒しイベントをクリアすることで、初めて報酬をもらえる仕様になっています
ビーストを倒しきらない間は経験値すらもらえない鬼設定です
このあたりはSOH運営がまだソーシャルゲームの仕様を十分わかっていないことに原因があります
そういう「快適にゲームをできない」ゲーム環境をプレイヤーのクレームなどからくみ取って、プレイヤーとともに少しずつ改善していくのも、この手のゲームの醍醐味だと私は思っています




