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第25話 あーやVSビースト

 その日新、SAI、アルパカの三人はVRグラスなどのSOHセットを手に、緑風公園に集まっていた。


 田中さんからこの場所を拠点とするSOHプレイヤーにメッセージが送られてきたのだ。


 曰く。


『今日ビーストを倒せそうでござる。貴殿らの参考になるやも知れぬゆえ、良ければ緑風公園に下記の時間に来られたし………でござる』


 色々文章はおかしかったが、このあたりのエース格のニューマノイドと言っていいあーやとビーストのバトルを見られるのは願ってもないことだし、倒した後得られる報酬も気になる。


 なにしろまだプレイヤーが少ないせいか、ビーストを倒したという報告はネットにも上がっておらず、当然正確な報酬の中身も分かっていないのだから。


 そんなわけで夜六時、緑風公園にはここを拠点とするほぼ全てのSOHプレイヤーが集まっていた。


 その中にはモフリンと二人の友人の姿もあった。


 三人で仲良くベンチに座っている。


 部活帰りらしく、モフリンはスポーツバッグと学校指定の鞄を足元に置いた制服姿で、こちらに気づくと「よっす!」と片手を上げて挨拶してきた。他の二人も軽く頭を下げてくる。


「よっす!」


 新も同じように挨拶を返して近寄ると、三人はベンチの端に寄って一人分のスペースを空けてくれた。


 新はアルパカにそこをすすめ、自分は空いてるベンチが無かったので立ったまま観戦することにした。


 その彼の隣にはVRグラス、ワイヤレスホン、スマホの完全装備でSAIが控える。


 イベントには不参加だが、やはり気にはなるのか。


 新の視線を受けたSAIは困ったような口調で、


「ラプシェが見たいと言って聞かなくてな」


 と肩をすくめて見せる。


 新は別のところに驚いた。


「ニューマノイドも俺たちが観戦するとき、他のニューマノイド同士のバトルを見てるのか?」


 思わず自分のスマホの中のハルに尋ねると、


「見てるわよ? 知らなかったの?」


 と、それが当たり前のように返答。


「マジか。お前そんなこと一言も言ってなかったじゃないか」


 新が文句を言っても「聞かれてないもの」とすまし顔だ。


 そりゃあそうだがもっとこうコミュニケーションというものをだなあ、と青年は思うがそれを言ったところでこの金髪の少女には馬耳東風だろう。


 新はため息をついてその言葉を飲み込む。


「そろそろ始まりますよARATAさん」


 アルパカがくいくいとジャケットの袖を引っ張ってきたので、慌ててVRグラスを顔に装着する。


 ちょうどフィールドにそれぞれのキャラが姿を現すところだった。


 まず公園中央の噴水のあたりに毛むくじゃらのビーストが召喚される。


 身長3.5Mほどもある狼頭人身の怪物が、見慣れた、なんてことはない公園に存在しているのは本当に異様な感じだ。


 非日常感がすごい。


 そして次に現れたのは日曜朝の幼児向け番組に出てくるような、ピンク色を基調としたひらひらした衣装を着た、ピンクブロンドの髪を大きなツインテールにした少女。


 これも幼児向け番組でヒロインが手にしているような装飾がされた、小ぶりなステッキを手に持っている。


 ちゃんちゃちゃんちゃちゃんちゃんちゃん~♪


 彼女が姿を現した途端、軽快な音楽が流れだした。


 それに合わせて少女は口上を述べる。


「魔法少女マジカル・あーや!! 現実世界を侵食しようとする電脳世界の悪の使いビースト! 正義の魔法少女あーやが今日こそかわゆーく成敗しちゃうぞ♡」


 ビシッとステッキをビーストに突き付けながらポーズ。


 田中さんが考えたのだろうか。何か運営のコメントを元にしたらしい設定も語っている。


 その田中さんは、


「ふおおおおおおお!!!! あーーーーや!! ああああーーーーや!!! ふおおおおおおお!!! ハイッハイッハイッハイッ!!! あーやファイティーーーーン!!!!」


 先日よりさらに鬼気迫る合いの手を入れていた。


 今日はペンライトを両手に持って体がちぎれるんじゃないかというほどの激しいオタ芸を披露している。


 これは………、と新は若干そんな田中さんから距離を取ってしまう。


 ちょっと引いているのだ。


 しかし意外とガールズにはウケていて、アルパカは笑顔でパチパチと拍手、モフリンなどはキャッキャ言いながら大爆笑している。何か琴線に触れたらしい。


「………新。私もラプシェが登場するときに何かしたほうがいいだろうか?」


 真剣な顔で相談してくるのはSAIだった。


「やめておけ。戻れなくなるぞ」


 新はそちらに視線も向けず真顔でそう忠告するのだった。


・・・・・・・・・・


 Ready Fight!!


 文字が中空に消えると同時に野太い咆哮を上げながらビーストがあーやに迫る。


 しかし巨体のためかドスドスとそのスピードは遅い。 


 あの攻撃力でハル並みの瞬発力だったら完全に無理ゲーなので、そのあたりはバランスを取ってあるのだろう。


 あーやはそれに合わせて移動し、距離を一定に保ったままステッキを突き出した。


「マジカルボール!!」


 少女の声とともにステッキの先から桃色の光球がかなりの速度で放たれる。


 それは、パンッ! というような音をさせて怪物の顔面に当たり、ビーストは思わず動きを止めた。


 ハルに使ったマジカルビームとはまた違う射撃魔法。


 どうやらスピードはビームほどではないが威力が高いらしい。


 動きの遅いビーストが相手であるため、魔法攻撃の種類を変えたらしい。


「マジカルボール×2!!」


 アーヤが今度は連続で光球を放つ。


 パシッ、パシッとそれはビーストの肩と胸に当たりHPが少し削れる。


 戦闘開始当初からビーストのHPはすでにレッドラインに突入していて、あと少しで0になりそうだ。


 だが奴のHPの多さから考えて、ゲージの見た目よりも、もう少し攻撃を加える必要があるだろう。


 あーやの魔法ストックは満タンで5、残るストックは2だ。


 つまりあーやが安全圏からビーストを攻撃できるのはあと二回。


 当然田中さんは残る魔法攻撃を慎重に使うことになる。


「マジカルうう、アタ―――――――――ック!!」


 観戦していたSOHプレイヤーが思わず「おお!」とどよめいた。


 あーやがフリフリのスカートを翻してビーストに向かって駆けだしたのだ。


 ハルほどではないがかなりの速度。


 彼女はあっさりとビーストの視野の死角に入ると、ビシッとステッキで一撃を加える。


 ビーストが振り返るとさらに回り込んでステッキで攻撃。


 新とハルはヒット&アウェイを繰り返すことでダメージを蓄積する作戦を取っていたが、田中さんはより効率よく死角に回り込むことで同様の効果を得ている。


 高レベルとそれにともなう戦闘経験があって初めて成立する熟達の技だった。


 しかしそれにしてもと新は苦笑する。


 可憐な魔法少女がキラキラした変身ステッキで怪物に殴り掛かる姿はなかなかインパクトがある。


 日曜朝にこんな魔法少女の姿をTVで放送したら、幼児がショックのあまり泣きそうだ。


「あーや右!!」


「!」


 不意に田中さんが叫びあーやは瞬間的に右にサイドステップする。


 その直後すさまじい勢いでビーストの腕が彼女の体すれすれを通り過ぎて行った。


 新は思わず目を見張る。


「今の………」


 SAIはVRサングラスのブリッジを指で上げながらうなずいた。


「ああ、かなり早かったな。今のは田中氏がビーストの攻撃の予兆を察知してあーやに指示したように見えた」


 アルパカも感嘆の念を禁じ得ないというように、ため息を吐く。


「それにあーやちゃんの反応もすごく良かったです。田中さんの指示にほとんどタイムラグなしに従っていました。『あーやみ』ぐらいでもう回避行動に入っていたように思えますね。私とカルマではああはいきません」


「戦闘経験の差ってやつか………」


 あーやだけでなく田中さん自身も経験を積んで、以前に新と戦った時よりさらに強くなっているように感じられる。


「あーや右でござる!」


「今度は左!」


「ジャンプするでござる!」


 矢継ぎ早に田中さんの指示が飛び、あーやがそれに応える。


 それはまるで田中さんとあーや二人のダンスのようだった。


 息の合った連携に周囲でバトルを見守る者たちも感嘆のため息を漏らす。


「そろそろでござるな」


 不意に田中さんが呟いた。そしてキッと声を鋭くして叫ぶ。


「あーや! 噴水の向こうへ! 決めるでござるよ!!」


「分かったわタナチン!!」


 指示に従い少女が全速力で噴水を回り込む。


 そしてまだ噴水の向こうでモタモタしているビーストに向き直ると、手を上に伸ばしステッキを高々と掲げた。


「さあ! お仕置きの時間よ!! 悪いやつは正義の力で滅んじゃえ!!」


 その瞬間あーやのステッキが青いオーラに包まれる。


「『マジカル~~~~~~~!!』


 語尾を伸ばしたあーやの前方でギュギュギュと魔法的な力が渦を巻き光り輝く円筒形を形作る。


「『ミサ―――――――――イル!!!!』


 アーヤがステッキを振り下ろすと、それはギュルルと高速で回転し青いオーラを四方にまき散らしながら、ビーストに向かって発射。


 魔力のミサイルは噴水の水を激しく波立たせながらビーストに迫る。


 そして着弾。


『ギャアアアアアアアアオオオオオウウウウオオオオオ―――――――――ッ!!!』


 ビーストの今までにないすさまじい悲鳴が轟き、その巨体がゆっくりと傾く。


 重々しい地響きを立てて緑風公園の石畳に狼頭人身の怪物が倒れ伏した。


 青黒い剛毛に覆われた体が、電子的に分解されたかのように、無数のドットに分かれ、中空に消えていく。


 やがてビーストの体は完全に消滅し、華々しいファンファーレが鳴り響き、あーやWINという文字がVRグラス一杯に表示された。


 ワッ!!


 緑風公園に歓声が満ちる。


 この公園で初めてビースト討伐者が生まれた瞬間だった。


「さすが田中さんやるねえ!」

「マジかよ。あれだけ接近戦してたのにノーダメだぞ………」

「あーや!! 田中!! あーや! 田中!!」


 口々に驚きと賛辞を口にし、二人の名を高らかに叫んで祝福するプレイヤー達にVRゴーグルのバイザーをシュッと収納して素顔をさらした田中さんも満更でもなさそうな表情。


「いやいや! さすがにノーダメは今回が初めてでござるよ! みんなの声援とあーやの頑張りのおかげでござる!!」


 田中の言葉にあーやがくねくねと体をくねらせながら頬を赤くする。


「やーん♡ タナチンの指示のおかげだよお♡」


「いやいやあーやの反応が良かったのでござるよ♡」


「違うよお♡ タナチンが♡」


「いやいやあーやが♡」


 またイチャイチャしだす二人だったが、その時誰かが切迫した声を上げた。


「おい! リザルト出たぞ!!」


「「「マジか?!」」」


 皆が一斉にVRグラスに表示されたリザルトに見入った。


 田中さんもあわててバイザーを下げる。


 そこに表示された報酬はすさまじいものだった。


・・・・・・・・・・


 あーやの全身イラスト


挿絵(By みてみん)



マジカル・ミッサーーーーイル!!!


というわけで今回は田中&あーやVSビースト戦をお送りしました


田中さんノリノリでしたねw


この二人は作者的にも書いてて楽しいキャラです


そしてあーやの全身イラストも公開です


こちらは絵描き泣かせのフリフリ衣装ですね 描いてる途中で心が折れかけましたw


さて次回はついにイベント「ビースト・ハント」のリザルトが明かされます


いったいどんな報酬が用意されているのか?


次回をお楽しみにですd(*^v^*)b

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ぬわーっ! いい所で終わってしまった! 報酬は、報酬は一体!? [一言] 第25話の25が全角になってました。これまで半角のようなのでご連絡いたします。
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