第22話 ユニーク・アビリティー
「うーん。出んな」
「出ないわね。もう石は無いの?」
「ない。これから欲しいガチャが来るかもしれないから、ちょっと残しておきたいしな」
「じゃあしょうがないわね」
新とハルはため息を吐いた。
ハルの装備、近未来型ニューマノイド用装備にはもう一段防御力が高いレア装備があるらしいのだが、何度装備ガチャを回しても出ないのだ。
ビーストは馬鹿みたいに強いし、ちょっとでも防御力を上げようと思ったのだが。
新は自分のガチャ運の無さを嘆く。
思えば他のスマホゲームでも自分は最高レアを複数引き当てるいわゆる神引きなどしたことが無いし、そもそも最高レアを引くことが他の人より少ない気がするのだ。
まあそれは多分新の気のせいだが、さすがに何か月も最高レアが出ないとそのゲーム自体に萎えて辞めてしまうことも結構あった。
やはりガチャ系のゲームでモチベーションが一番高まるのは、最高レアを引いたときだろう。
しかしSOHの場合他のゲームのキャラに当たるニューマノイドはガチャで出るのではなく、自分で探して契約する。
装備による防御力アップも現状そこまで劇的なものではなく、ある程度スキルアップやLVアップで補えるのでガチャ運の無さもさほど気にならない。
ガチャ運がなく課金もあまりしない新にとってはおあつらえ向きのゲームと言えるかもしれない。
それに排出された新にとっての外れ装備も役に立たないわけではない。
「とりあえず合成しとくか………」
今の装備に外れ装備を合成して装備を強化することができるのだ。
今までも、ちまちまとログインボーナスなどでもらった装備石でガチャを回しては、外れ装備を合成していたので、ハルの装備は結構強化されていた。
ボディースーツなどはかなり排出されて現在ボディースーツ+8になっている。
カンスト―強化限界が10だからもう目前だ。
新としては嬉しくはないのだが。
「こんちわ~!!」
突然元気いっぱいの声が緑風公園に響いた。
スマホから顔を上げると、そこここにいるSOHプレイヤーと軽快に挨拶しながらモフリンがやってくるところだった。
「ちわっ! ARATAさん! ………あれ? 今日は一人?」
「ちわモフリン。なんか今日は二人とも用事があるらしくて来ないんだと」
二人というのはもちろん、いつも新とつるんでいるSAIとアルパカのことである。
「あー。だからARATAさん今日はぼっちなんだ」
「ぼっち言うな」
新がツッコむとモフリンはアハハと屈託なく笑う。
モフリンは新よりずっと年下だし、人によっては怒られそうな言動だが、彼女の笑顔は人懐こくて何故か怒る気になれない。
「ところで何してたの?」
モフリンが問うてくるので新はスマホの画面を見せてやる。
画面にガチャの結果排出された装備が表示されている。
「近未来系のレア装備があるらしいんだが出なくてなあ。ほんと俺ガチャ運無いよ」
ぼやくとモフリンはあっけらかんとした口調で言った。
「近未来系のレア装備ならモフリン持ってるよ」
驚いたのは新である。
「え? マジで?!」
思わず座っていたベンチから立ち上がるとモフリンは自分のスマホの装備ストック画面を見せてくれた。
「ほんとだよ~! ほれ!」
見てみると確かに近未来系装備であるレアバトルガントレットが表示されていた。
「ほんとだ! 良いなあ。そうだ! 何かと交換してくれないか?」
新はメンテ後に実装されたアイテム交換機能の存在を思い出してモフリンにトレードを提案してみる。
「いいけど新さんはどんな装備持ってるの? 侍系のレア装備となら交換しても良いよ」
モフリンが言うので確認してみるが、侍系のレア装備はストックに無かった。
「うーん。じゃあ残念だけど今は駄目かな。もし侍系のレア装備が出たら交換しようよ」
「うう………。そうだな」
トレードは公平でなければいけない。
新は泣く泣く諦めることにした。
・・・・・・・・・・
「それはそうと!」
ちょっと沈んでしまったその場の空気を変えるようにモフリンは明るい声で言った。
「今日はモフリンと一本勝負しようよ! 今日もビーストハントに行くんでしょ? その前に!」
「お、いいね」
この間はナギに負けているので新としてもリベンジ戦は望むところだった。
のだが。
「その話拙者も混ぜて欲しいでござる!」
そこに田中さんが現れた。
相変わらず旧型のごついゴーグル姿。
下げていたバイザー部分をシュッとあげてニッと笑う。
田中さんはこの間の宣言通りちょくちょく緑風公園に来るようになっていた。
というかほぼ毎日顔を出している。
緑風公園の他のプレイヤー達も、経験豊富で何気に世話好きな田中さんを喜んで受け入れていた。
何よりこの近隣でも指折りの高レベルプレイヤーである田中さんと戦うのはメリットが非常に大きいのだ。
まず各地のバトルエリアを回って強者と戦っている田中さんは各キャラの最新の戦術に通じており、彼と対戦することでそれを学べる。
そしてこれが一番大きいのだが、高レベルのニューマノイドと戦うほどより多くの経験値を得ることができるため、この地域のエース格である田中さん&彼のニューマノイドあーやとバトルすることで大量の経験値を得られる。
そんなわけで田中さんはどのバトルエリアでも大歓迎されているらしい。
そして新にとっても彼の登場は渡りに船だった。
前から聞こうと思っていたことがあるのだ。
それはもちろんあの戦闘開始直後にハルを包むオーラのことだった。
色々なことに詳しい田中さんならあれについても何か知っているかも。
そう思い、ちょっと相談したいことがなどと言いかけて、新はぴたりとそこで停止した。
………もしあのオーラがハルの固有の能力だとしたら、そのことを田中さんに相談するのは弱点を教えることになりかねないのではないか?
そんな可能性に思い至ったのだ。
そう、新はあのオーラが、ハルとの本契約時に獲得したユニーク・アビリティー『エモーション・バースト』と関係しているのではないかと推測を立てていたのだ。
現在ユニークアビリティーの情報は少ない。
ネット有志による検証が進んでいないというのも一つの理由だが、ユニークという名の通り、ユニークアビリティーは同型のニューマであっても異なったものを獲得することもあるらしく、またキャラのステータス画面等でもアビリティーの名称のみで効果が書かれているテキストはない。
つまり対戦相手にとっても類推が非常に難しい能力なのだ。
ということはそのキャラの能力次第では今後ユニークアビリティーは勝負の生命線になる可能性もあるということ。
それを今田中さんに話すのは今後大きなデメリットになるかもしれない。
新はそう考えたのだ。
そして自分の考えに苦笑する。
田中さんは現状新とハルが及びもつかない高レベルプレイヤーだ。
実際すでに何度か対戦したが一度も勝てていないし、正直勝利の糸口すらつかめない。
それほど実力に隔たりがある。
だがそんな存在に新は弱点を知られたくないと相談すらためらっている。
自分はあの田中さんに勝ちたい、負けたくないと思っているということだろうか?
その気持ちの根源は何だろう?
一応このゲームの主目的であるはずの、ニューマノイド………、新の場合はハルを人間にするため?
確かに最近彼女を人間にしてやりたいと思ったことは何度かあった。
だがそれは出来たらというぐらいでそこまで切実な思いがあったわけではない。
ならどうして?
「ああ~?! 負けた!! 田中さんとあーや強すぎるよ~」
「ふふふ。鍛え方が違うでござるからな」
新が考え込んでいる間にモフリンと田中さんは対戦していたようだ。
田中さんが顔を上げた新ににっこりと微笑みかけた。
「さて。新殿はどうするでござる?」
「………お願いします」
一拍間をおいて新は答えた。
そして対戦後も結局オーラについて何も聞かないまま田中さんと別れた。
その理由さえはっきりと分からぬままに………。
・・・・・・・・・・
素顔の田中さん
というわけで田中さん再登場です
それに伴い特にリクエストがあったわけではないんですが、田中さんの素顔を公開しておきます
せっかく描いたので死蔵しておくのも寂しいですしねw
次回はまた視点を変えてナギとモフリンのターンです お楽しみに~d(*^v^*)b




