第18話 フードコートの戦いその2
「死になよ!」
カルマの矢が放たれる。
しかしそれは机に当たっただけで床に落下した。
ハルは机と椅子の林を態勢を低くして影のように疾駆する。
「カルマ焦らないで! 机から降りたら駄目だよ! ハルは攻撃するとき必ず机の下から出てくる」
アルパカの指示が飛ぶ。
「ハルの影をしっかりトレースして彼女が攻撃してくる瞬間を狙って!」
新は感心する。
流石アルパカだ。
できれば焦れて机から降りてくれればよかったのだが、やはりそんな誘いには乗らない。
だが新もそれは織り込み済みだ。
「ちょっと前まで猪だったのに今はねずみだね」
カルマが憎まれ口をたたきながら、じりじりと弓に矢をつがえたまま矢先でハルの影を追う。
金髪の残影を残しながらハルは素早く回り込むようにしてカルマに接近しようとしているようだった。
「フェイントだよ! つられないで!!」
瞬時にハルの動きを読んだアルパカが鋭く注意喚起。
彼女の言葉通りそれはフェイントで、わずかに軌道をずらしただけでハルは一直線にカルマに向かってくる。
そして跳躍!
「そこ!!」
カルマの声が響き、影が串刺しになる。
しかしそれはハルではなく、
「椅子っ?!」
オブジェクトの椅子だった。
「どっせーいい!!」
ハルの姿はその椅子の影、下を通過しすでに至近距離。
人間ではありえない跳躍力で、机の上、身を乗り出すようにしていたカルマの顎を綺麗に打ち抜いた。
弓矢を手放し、小柄な少年が弧を描くようにスローモーションで吹っ飛び、椅子と机を派手に巻き込みながら床にバウンドする。
一本!
新とハルの勝利を告げる音声がワイヤレスイヤホンに響いた。
・・・・・・・・・・
「完っ勝~~~~!! ネクラ弓から一発もまともにもらわなかったわ!!」
リザルトが終わりスマホに戻ってくると、ハルはぴょいこらぴょいこらと小躍りして勝利を喜ぶ。
ネクラ弓というのはカルマのことらしい。
酷いあだ名である。
「おう! やったなハル!! すげえいい動きだったぞ!! 今までのカルマ戦で一番だったな!!」
快勝に新も浮かれ気味だ。
「ふっふーん!! そうでしょそうでしょ?! あたしを誰だと思ってんの!!」
ハルだと思ってるが。
だが本当に良い動きだった。
先ほどのビースト戦が終わってすぐ、お互いHPが残っていたハルとカルマは一本勝負をしたのだが、明らかに彼女は動きが良かった。
戦闘前にハルがオーラに包まれたのは同じだったが、今度は白っぽいオーラだった。
ちなみにカルマやラプシェ、ナギが戦闘前にオーラに包まれたことは今まで一度もない。
このことから新はこの各色のオーラはハル固有のものではないかと考え始めていた。
だとするなら………。
いや、と新は頭を振る。
早計な結論を出すのはやめておこう。
それを出すのはもっとこのオーラの情報が集まってからだ。
「う~。負けちゃいました。まさか椅子を目くらましとして使ってくるなんて思いもしませんでしたよ」
アルパカ悔しそうに話しかけてきた。
新は笑顔で応じる。
「ああ。俺もビーストが椅子や机を蹴散らしてたから思いついたんだけどな。これを何かに使えないかってさ。ただできると確信があったわけじゃ無かった」
「一種の賭けだったわけですね。ARATAさんは時々私が想像もしなかったような策を講じてくるので刺激的です」
「そうかな?」
美女に褒められて照れたように頭を掻く青年である。
「でも今回は僕達とフィールドの相性が悪すぎたよ」
憮然とした声で話に割り込んできたのはカルマだ。
「あの速度で机や椅子の影を移動されたらまず矢は当たらない。………まあ最後の機転にしてやられたのも確かだけどね」
「ふっふーん!」
アルパカ・カルマの組の敗戦の弁を聞いて、ドヤ顔になったのは金髪のニューマノイド。
「これくらいはむしろ当然よ!!」
彼女は上機嫌で細い腰に手を当てふんぞり返っている。
「ムフ~! ビースト戦でたまりまくったモヤモヤが晴れた気がするわ!! 気分が良いわね!!」
悦に浸っていたハルだが、そこで彼女はスマホの中から新に目を向けた。
「あんたも今回は良くやったわ! あの椅子を投げつけるアイディアは面白かったわよ!」
そう言うといつも不機嫌顔がデフォルトの気難しいニューマノイドは笑顔を見せたのだ。
まだ生まれたばかりだからなのか、それは本当に無邪気な笑顔で、新は思わず目を見開いて硬直した。
自らの指導者の反応にハルは怪訝そうな顔をする。
「何よ?」
新は何故か慌てた。
「い、いや。お前が俺を誉めてくれるなんて思わなくてさ」
途端に彼女はむすっとした顔になる。
「ふん! あたしだって褒める時は褒めるわよ!」
「ははは! そうか! じゃあお前にもっと褒めてもらえるように頑張るよ」
新は笑いながら拳を作って見せた。
「ハルとARATAさんかなりチームワークができてきたね。フェイントを入れたり攻撃の幅も増えてきたし」
アルパカは二人の様子を微笑ましそうに眺めながらカルマに話しかける。
「初めは猪のように突進してくるばかりだったのにね」
「うん。たぶんハルがARATAさんを信用しつつあるんだと思う。だから指示にも聞く耳を持つようになったんだよ」
「猪のままでいればよかったのに。死んでくれないかな」
「こら。また君はそういうこと言う」
アルパカはポカリと殴る仕草をして見せる。
「………………」
そんな4人を七花は寂しそうに見つめていた。
手は無意識のうちに新が取ってくれたぬいぐるみの耳をいじっている。
楽しそうにハルやアルパカと会話する新を見るうちに七花はぎゅっとぬいぐるみを抱きしめたのだった。
二連戦!
今回はカルマとの一本勝負をお送りしましたヾ(≧∇≦)/
珍しくハルが快勝してましたね
そして超上機嫌になるハル
ここまで上機嫌なのは本作始まって以来かもしれません
相当ビースト戦で鬱憤が溜まっていたんでしょうね
そして七花も何か思うところがあるようです
次回はそんな七花を中心にお送りします
七花ファンの方お楽しみに~d(*^v^*)b




