第17話 フードコートの戦い
ビーストと対峙するハル。
Ready Fight!! の文字が消えいよいよ戦闘が始まるが、ここで異変が起こった。
一瞬ハルの体が灰色のオーラのようなもので包まれたのだ。
今まで白っぽいオーラ、黄緑色のオーラの2種に包まれたのを新は見たことがあったが、灰色は初めてだった。
今度はなんだ?
思わず眉根を寄せる新。
この様々な色のオーラについては新も色々考察していたが、未だ考察材料が少なく推論も立てられないでいた。
しかも今回は灰色。
なんとなく嫌な予感がする彼だったが状況はのんびり考える暇を与えてくれない。
「はあ―――――!!」
気合の声とともにハルが疾駆。
同時にビーストも獰猛なうなり声を上げ、机と椅子を蹴散らしながら迫る。
「ハル正面から戦うなよ! 机と椅子を上手く使え!!」
「うっさい! あたしもそう思ってたとこよ!!」
さっきからずっとイライラした感じのハルが吼えるように応じ、体勢を低くして机と椅子の間を駆け抜ける。
その唐突な動きにビーストはハルを見失ったようで、『グル?』とハルが消えたあたりを覗き込むように伸びあがる。
「ここよ犬っころ!!」
その隙に怪物の背中側に回り込んだハルが、椅子を台にして机に駆け上がり、その勢いのままジャンプ。
狼男の後頭部に飛び蹴りを浴びせる。
クリーンヒット!
しかしいつも通りビーストのHPは僅かしか減らない。
ハルは一撃浴びせるとすぐにその場を離脱しようとしたが、ビーストが無造作に振り回した腕が体をかすめる。
それだけでHPが10分の2消失。
「ハル!」
「どうってことない!!」
ハルは強がるが新はすでに撤退を選択肢に入れ始める。
だがまだ大丈夫だ。
もう一撃ビーストのクリーンヒットを食らっても、HPがゼロになることはない。
戦闘続行は可能だと彼は判断する。
しかし新は何か違和感を感じていた。
いつもと比べてハルの動きが悪いような………。
新が首をひねる間にも戦闘は続く。
ハルは障害物をうまく利用し、机の上と下を縦横無尽に駆け回り、ビーストを翻弄しているように見える。
「うりゃああ!!」
今度は四足獣のように床を両手両足を使って移動し、机の影から不意にビーストの前に飛び出すと右手を軸に回転しスピンキックを叩き込む。
ビーストのすねを直撃。
もうこれでハルの攻撃は五回目のクリーンヒットだ。
しかし、
「おかしいぞ………」
新はあごに手をやりビーストのHPゲージをじいっとにらむ。
HPの減りが悪い。
こうして連続で削ってみてさっきの違和感の正体が分かった。
昨日もビーストとは戦ったが、その時より明らかに与えているダメージが少ない。
まさか奴が強くなっているのか?
新は思わず時間経過でのビーストの能力強化を疑うがすぐに思い直す。
いやそれはさすがにないか。
ただでさえ奴は強すぎるくらいだ。
時間経過で強化されるなんて仕様になっていたら確実にプレイヤーから運営に苦情が出る。
ではビーストがデバフを使ってきているという線はどうだ?
デバフというのはゲーム用語で対象の守備力や攻撃力、スピードなどを減退する効果のことを言う。
ちなみに対象の守備力や攻撃力、スピードなどをUPする効果のことはバフと呼ぶ。
要するに新はビーストが特殊能力か何かで、ハルを弱体化させたんじゃないかと疑ったわけだ。
しかしそういう効果が付与された演出は無かったし、第一、デバフも今回のイベント難易度を思えば最初にあげたビーストの能力強化と同じくらい理不尽だ。
だから新はこの線もとりあえず頭の中から消す。
あと考えられるのは………。
考え込む彼の頭に浮かんだのはあの灰色のオーラだった。
あれがハルに何らかの弱体化効果を与えているのではないか?
ハルが弱くなったと感じたのは今回が初めてだし、灰色のオーラを見たのも今回が初めて。
状況からこの線は有力と思われたが、そもそもあのオーラが一体何なのかが分からない以上対策の立てようもない。
現状このまま戦闘を続けるしかないか。
「ぐっ!!」
ハルがうめき声を上げる。
またビーストの攻撃がかすったようだ。
HPはもうすぐ半分を切る。
障害物となる机や椅子もビーストの攻撃の余波によってあらかた排除されてしまったし、ここらが潮時だと新は判断した。
「ハル撤退するぞ!!」
「嫌よ! まだいけるわ!!」
「いいや。もうこれ以上はダメだ。お前は気づいてないかもしれないが、すでに半分近いHPを削られてる」
「ええ?! うそ!!」
まあそうなるよなと新は苦笑い。
ハルはまだ一度もまともに奴の攻撃を受けていないのだ。
それでHPを半分持っていかれているなんて信じがたいだろう。
「本当だ。だからもうこれ以上は危険なんだ分かるなハル? 俺はお前を失いたくない」
「失いたく………」
ハルは新のその言葉にちらりと彼を振り返った。
カメラ越しの彼の表情まではハルにはまだ認識できない。
だが何かが伝わったようだった。
彼女は前に向き直るとこう言ったのだ。
「仕方ないわね!」
そしてライオン娘はびしっと人狼に人差し指を突き付ける。
「今日のところはこのくらいにしておいてあげるわ!!」
というわけで今回はハルの戦いと謎の演出「オーラ」についての新の考察をお送りしました
作中にも書きましたがデバフあるいはバフというのはゲーム用語です
私はブラウザゲームをよくやるんですが、あるゲームのプレイ初期にwikiでバフとかデバフとか書いてあるのを見てなんのこっちゃと首をひねった記憶があります
ゲームにはそれぞれこういった専門用語がありますが、そういうのを知っていくのも私の楽しみのひとつだったりします
何事においても知らないことを知るのは楽しいですねd(*^v^*)b




