第15話 七花とアルパカ
エスカレーターでガオンモールの最上階まで上がった新、アルパカ、七花。
アルパカは皆を先導してある場所に連れていく。
そこにビーストがいるというのだ。
「ここです」
「ここは………」
新は白い清潔そうな木製の椅子と丸机が並んだそこを見まわした。
壁際には飲食店のカウンターも並んでいるその場所は。
「フードコートじゃないか。ここにビーストがいるのか?」
そう問いかけた新のポケットでスマホが振動する。
同時にワイヤレスイヤホンから「ビーストを発見しました」というアナウンス音声が流れた。
どうやら本当にビーストがいるらしい。
「ほんとだ。こんなとこがバトルエリアになってるなんてなあ」
目を丸くする新に、アルパカは口元を拳で隠してくすくすと笑声を上げる。
「はい。ここでのバトルはなかなか面白いですよ?」
「ということはもうアルパカはビーストと戦闘済みということか」
「はい。遠距離から矢が尽きるまで削って撤退しました」
普段狭いバトルフィールドでは苦戦を強いられることが多い弓矢使いのアルパカのニューマノイド『カルマ』だが、動きが比較的遅いビースト戦では危なげない戦いができているようだ。
このあたりフルバトルでの弓使いの不利を考慮して運営もバランスを取っているのかも知れないなと新は思う。
「うちはいつもギリギリだよ。おかげでハルはストレスマッハだ」
「でしょうねえ………」
イライラしているハルを容易に想像できたのだろうアルパカが苦笑する。
「まあとにかくまずは昼飯だな。どうせバトルフィールドのダウンロードに時間がかかるはずだし、その間に食べてしまおう」
そう言いながら新はバトルフィールドダウンロードの操作をする。
そしておのおの席について落ち着いたところで、なんだかさっきからうつむきがちになってしまっている七花に彼は尋ねた。
「七花ちゃんは確かダブルビッグバーガーでいいんだよな? 飲み物はコーラで良い? ポテトはいる?」
七花の顔を覗き込むようにして聞いてくる新に七花は「うん。えと、でも飲み物は烏龍茶で。ポテトはいらない」とぽしょぽしょ答える。
「了解! アルパカはどうする?」
「私はさっき食べたし飲みましたのでお気遣いなく」
「そうか。じゃあ七花ちゃんちょっと待っててな」
「あ、お金………」
「いいって! 普段七花ちゃんには世話になってるし今日は俺が奢るよ。せめてものお返しってことで」
年上の従兄は笑顔を見せるとすたすたと壁際に並んだ売店に歩いていく。
その広い背中を七花はぽーっとした顔で見送る。
アルパカはそんな彼女を見て心の中でポンと手を打った。
ああ、なるほどこの子は………。
「………ARATAさん優しいですね」
ちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべて話しかけてくるアルパカに七花は固い表情を向けた。
アルパカが何を考えているのか見透かそうとするかのように、じーっと見つめてくる七花にアルパカはどこか微笑ましそうに「どうかしましたか?」と小首を傾げた。
さらりと長い髪が頬を滑り、彼女は細く白い手でそれを耳の上に掻き上げる。
七花は思う。
綺麗な人だ。
大きな瞳はくっきりとした二重瞼。ナチュラルメイクなのにまつ毛も濃く長く、美しいアイラインを描いている。
唇もわずかにピンク色がかったグロスを塗っているぐらいで自然な感じだ。
それでもプルプルと瑞々しい印象で七花は思わず感嘆の息を吐いた。
さらにだ。
あのスタイル。
Tシャツをググっと下から押し上げるあの胸のボリュームはどうだろう。
七花はアレがフルフルと揺れるたびに新が密かに目で追っていたことに気づいていた。
そのくせ腰はキュッと締まっているし、八分丈のジーンズからのぞく足首も細い。
どうして胸だけあんなに大きいのか、何かズルをしているのではないか。
やっぱり新さんも大きいのが好きなのかなあ………。
七花は己のそれを見下ろす。
中学生にしては十分大きいのだが、目の前のマウント富士と比べるとさすがに見劣りする。
アレを見ていた時の新の顔を思い浮かべて七花は渋面になるのだった。
「あの~。さすがにそうマジマジと見られると恥ずかしいのですが」
アルパカから苦笑気味の声をかけられて七花ははっと我に返る。
うっかり他人の胸をガン見していたらしい。
「す、すみません」
七花が頭を下げると彼女は困ったように眉を下げる。、
「いえ、いいんですけど。七花さん………、でいいんですよね?」
「あ、はい」
「そんなに固くならなくていいですよ。お互いARATAさんの知り合いなんですし」
そう言われても、と七花は困惑せざるを得ない。
彼女のほうは友好的なようだが、七花にとって彼女と二人きりの空間というのは微妙すぎるのだ。
でもどうしても聞きたいことがあった。
七花はそれを聞こうと口を開きかけて、
「お待たせ! ダブルビッグバーガー買ってきたよ。 ………あれ? どうかした?」
見事なタイミングで両手にハンバーガーを載せたトレイを持った新が帰還。
七花は大事なことを聞きそびれて不満げな顔になる。
自分の気も知らないで能天気に微笑んでいるように見える新に少し腹が立って、七花は「なんでもないです!」と、少し語気を荒げてハンバーガーが乗ったトレイを受け取った。
明らかに不機嫌になった従妹に新は困惑。
何かあったのか? と視線でアルパカに問うが、彼女は「あちゃあ~」という感じで額に手を当てるだけだった。
年頃JCの気持ちはまるでジェットコースター。
にぶちんの青年には分かろうはずもないのだった。
モヤモヤする七花を前回に続きお送りしました
思春期真っただ中の少女の煩悶を感じ取っていただけたら嬉しいです
私も中学生の時はいろいろ悩んでたなあなどと思い返しながら書いてました
頑張れ七花!
次回はついにビースト登場! そして不機嫌なハルも登場ですw お楽しみに~d(*^v^*)b




