第14話 デートですか?
「新さんお待たせ~!」
七花が店から出てきた。
新は読んでいた週刊少年漫画を平積みの上に戻し、七花に振り返る。
七花は店のロゴ入りの袋を持っていた。
下着が入っているだけなのか、袋自体は小さいし重量もなさそうだが、ぬいぐるみも持っているので嵩が高そうだ。
「そっち持つよ」
新はぬいぐるみの入った袋を七花から取り上げた。
七花はそんなことにも頬を染めて「ありがとう」と嬉しそうに目を細める。
そんな少女の様子に新は何か気恥ずかしくなって、「良いの買えた?」と余計なことを聞いてしまう。
そして次の瞬間はっとする。
自分より一回り年下の女子中学生に下着のことを聞く。
これは立派なセクハラではなかろうか?
自分のしたことに冷や汗をかく新に気づかず、七花はさらに赤くなった。
「うん。ここすごく可愛いのがあるの。ほんとは新さんに選んでもらえってお母さんに言われてたんだけど………」
ちょっと無理………。七花の声はぼしょぼしょと尻すぼみ。
しかし新にはしっかり聞こえていた。
あのおばはん何考えてんだ!
年頃の娘の下着を男に選ばせようとか頭が沸いているのではなかろうか。
まあもともとちょっとエキセントリックな女性ではあるけども。
だいたい従妹とはいえ、25歳の男の家に、七花のような可愛い女の子を一人で来させるのもかなり問題があるだろう。
新としては七花のおいしい手料理を食べられてありがたい限りだが。
少なくとも自分に娘がいたら絶対俺のような男のもとに一人で送り込んだりはしない。
狼の檻に羊をリボン付きで差し入れるようなものだ。
七花の母親はよほど自分を信用してくれているのか、それとも男だと思ってないのかどちらかだと思う。
さてそれはそれとして、だ。
七花の買い物も終わったことだし、そろそろ本格的にビースト探しをしたい。
新はスマホを取り出した。
途端。
「ちょっとまだあ?! 早く見つけなさいよこのウスノロ!!」
起動したままだったスマホからライオン娘の罵声が飛んできた。
今まで静かにしていたと思ったらこれである。
ハルは実に不機嫌そうな半眼で新を睨みつけてきた。
「もうちょっと待ってくれよ。ガオンモールのどこにいるか分からないんだ」
ゲームキャラクター相手に言い訳する新だが、ハルは胡散臭げに目を眇めて見せる。
「あんた本気で探してるんでしょうね? さっきからキャッキャッキャッキャッとえらく楽しそうじゃない。誰か知らないけどそいつと遊び倒してるようにしか思えないんだけど?」
いやそもそもSOH自体ゲームなんだから遊びなんだが………、と新は突っ込みそうになったがやめておいた。
そんなことを言ってもハルの機嫌がさらに悪くなるだけだと分かっていたからである。
「どうしたの新さん?」
ゲームキャラともめているらしい年上の従兄の姿に七花はひょっこりと新を下からのぞき込んでくる。
「いや、ちょっとハルがな。早くビーストを見つけろってやかましくてな」
新が苦笑気味に説明すると七花は「ふーん」とどこかむっとしたような声音。
「そんなこと言ってくるんだね。もしかして焼きもちを妬いてるとか?」
「いやそれはない」
新はきっぱりと言い切った。
ハルのこれは別に自分が七花と楽しそうにしているから焼きもちを妬いているというわけではないだろう。
単にSOHを起動したままでウロウロしていたため、しびれを切らしただけだ。
そもそも気が長いほうではないし。
そしてハルはかなり自己顕示欲が強いタイプでもある。
要するにただの構ってちゃんだろう。
まあどちらにせよハルにはもう少し待ってもらわなければしょうがない。
何故ならば、
「そろそろ昼だな。七花ちゃんは何か食べたいものある?」
そう、何のかんのしてるうちにもう昼食の時間になっていたからだ。
「私ハンバーガー食べたい!」
七花は即答だった。
「ここのフードコートのダブルビッグバーガーがおいしいらしいの! 食べたい!」
どうやら事前に情報を仕入れていたらしい。
ぴょんぴょん跳ねて主張する七花が可愛らしくて新は思わず微笑む。
こういうところはやっぱりまだまだ子供だ。
「よし! じゃあフードコート行こう。最上階だっけ?」
「うん!」
「そういうわけだからハルまた後でな」
「あっ! ちょっと待ちなさいよ! まだ話は終わってないわよ!!」
ハルは不満げだったが新はまたスマホをポケットにしまい込む。
ニューマノイドであるハルは空腹になることはないだろうが、人間は食わなければ死んでしまうのだ。
新は心の中ですまん! と詫びて、上階へのエスカレーターを探すのだった。
・・・・・・・・・・
それは新と七花が最上階に続くエスカレーターに乗っている時だった。
黒のキャップを深くかぶった女性が下りのエスレーターで降りてきた。
その女性はBE FLEEと書かれたシンプルな白の長そでTシャツと、八分丈の黒のジーンズと白のスニーカー、背中に小さめのリュックという姿で、エスカレーターを降りていく間中、何故かじ~っとこっちを見ているようだった。
それだけならなんということはなかったのだが、すれ違いざまいきなり「ああ~~~~~!!」と叫んで彼女は新を指さした。
そしていきなりエスカレーターを駆け降りると、今度は新たちがいる上りのエスレーターを駆け上ってきたのだ。
何事かと硬直する二人の前でそいつは息を整えると、キャップを取って見せた。
「分からないんですか? アルパカですよ!」
「おお!!」
思わずお互いを指さし合う新とアルパカを七花は怪訝そうに交互に見ていた。
「まさかこんなとこで会うとはな! もしかしてアルパカもビーストハントか?」
「はい! あとちょっと買い物もありまして」
アルパカはそういうと七花と同じロゴが入った袋を掲げて見せた。
買い物をした店まで一緒とは奇遇だ。
「まあとにかくここではなんですから一緒に上に上がりましょう! ARATAさんが探してるビーストもこの上にいると思いますよ」
アルパカは新と会えたのが嬉しいのか笑顔でそんな提案をしてきた。
「うーんそうだなあ。七花ちゃんはアルパカと一緒でいいか?」
新はまず七花に尋ねた。
七花からしてみればいきなり知らない年上の女性が加わるわけだから、ちょっと抵抗があるかもしれないと思ったのだ。
案の定七花はさっきまでの上機嫌が嘘のように硬い表情になっていた。
なにやらアルパカを上から下までじろじろと観察しているようでもある。
アルパカははっとした。
「あっ! もしかしてデート中でした? 私もしかしてすごいお邪魔をしてるんじゃ?!」
あわわ! と急に慌てだしたアルパカの言葉に、七花の顔が瞬間湯沸かし器のように急速に真っ赤になった。
「ち、違います! デートなんかじゃないです!!」
かなり大声で彼女はぶんぶんと激しく両手を振りながら否定する。
その必死さに新は思わず遠い目になる。
何もそこまで必死に否定せんでも。
確かにデートではないけども、そんなに俺とデートしていると他人に思われるのが嫌だったのか。
正直七花ちゃんはちょっと自分に気があるのかな、などと思っていたのだが。
自分の思い違いだったらしい。
まあそうだよな。
特に特徴もないフリーターに七花ちゃんのような可愛らしい中学生女子が恋するわけないのだ。
思い上がっていた自分が恥ずかしい………。
「そ、そうですか。勘違いしてすみません」
七花の勢いにアルパカはちょっと引きながら謝罪を口にする。
「でもそういうわけなら私がご一緒しても問題ないですね?」
「ウン。ソウダネ」
新の口調は棒読みである。
一方七花はそんな新を見て何か大きな失敗をしでかしたというような後悔の表情を見せたが、「あー、はあ。そう………ですね」とアルパカの参加を了承した。
了承せざるを得ない。
七花は泣きそうな気分になりながら「はあ………」と新が見えないところで、深いため息をつくのだった。
アルパカ登場!
というわけで今回はモヤモヤする七花と、棒読みになる新をお送りしました
こういうのも青春やね!
私にはラブコメのピンク色の血が流れていると自負しているので、前回と今回は書いていて楽しくて仕方なかったです 筆の走りを読者様も感じられたかもしれませんねw
次回ももう少しモヤモヤ七花をお送りする予定です お楽しみに~d(*^v^*)b




