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第2話 出会いの小路

 カウントダウン終了とほぼ同時に新はスタートタブをタップした。


 VRグラスが一瞬ブラックアウトして、彼の眼にそれまでと同じ町の風景が映し出される。


 異なる点は視界の真ん中に『ようこそSOHの世界へ!』というメッセージが表示されていることだった。


 ちなみにSOHというのはシンギュラリティー・オブ・ハーツの英字略だ。


 新がフォローしているシンギュラリティー・オブ・ハーツ公式ツイッターアカウントでも主にこの略称が使われている。


 歓迎の文字が消えると今度は、


『ここは出会いの小路に指定されているエリアです』


『ここには多くのSOHキャラクター、ニューマノイドがいます』


『あなたの好きなニューマノイドに話しかけて仮契約をしましょう』


 という文章が現れる。


 SOHは超高度AI搭載キャラクターと契約し、戦闘しながら育てていく育成型対戦ゲーム。


 そのため、プレイするにはまずキャラクター、ゲーム中の用語でいうところのニューマノイドと契約し相棒(パール)同士にならなければならない。


  ニューマノイドを探すための場所、出会いの小路が、この町においては新が今現在いる歩行者天国なのだ。


  これは事前にツイッターやホームページで予告されていたことなので、新はあらかじめ近場の出会いの小 路の場所を調べ今日ここに来たというわけだ。


  さて、と新は気持ちを改めてVRグラスを掛けたままきょろきょろとあたりを見回す。


  まずはこのあたりを一回りしてみるつもりだった。


 特に目的地を決めることもなくぶらぶらと散策気分で歩き出す。


 すると程無くそれっぽい人物を発見した。


 猫耳フードパーカーを着た小柄な女の子だ。


 服屋のショーウインドウの前でどこか不安そうにあたりを見回している。


 とりあえず新は彼女に話しかけてみることにした。


 近づいてみるとかなり高密度な3Dキャラクターであることが分かった。


 遠目だと実在の人物に見えるくらいだ。


 ちょっとアニメっぽいディフォルメがされているが、その存在感はリアルの人間と大差ないほどだった。


 これだけを見ても超大型ゲームの名は伊達ではないと思わせる。


 ここ数年でスマホのマシンスペックが据え置き型と大差ないほど高性能になったのも一因だろうが、それにしてもSOHのニューマノイドは今まで新がプレイしたいくつものスマホゲームの中で断突の、高精細3Dキャラクターだった。


 しかもそれがAR(拡張現実)としてよく現実の風景に馴染んでいる。


 影などはさすがに違和感を覚えるがそれも気にならないほどだった。


 新が近づいたことで猫耳フードの女の子も彼に気づいたらしくきらきらと光る大きな瞳で見上げてきた。


 フードに半ば隠れているので髪型はわからないが、さらさらとした質感の茶色の髪。


 ふっくらと幼い印象を与える頬。小柄な体。細い手足。


 しかしパーカーを下から押し上げる胸部はなかなかのボリュームだ。


  いわゆるロリ巨乳というやつか。


 さて、どう話しかけるかな?


 新はしばし悩み、しかし結局無難に挨拶から入ることにする。


「えーと、こんにちは?」


 新が若干ぎこちなく声をかけると、彼女は愛想良くニコリと微笑んだ。


「こんにちは! SOHプレイヤーの方ですね? 私はラプシェ。ニューマノイドです」


 礼儀正しくぺこりとお辞儀をする。


 その動作でネコミミフードが揺れた。


 その質感と自然な動きに新はひそかに感心する。


「あのー、早速ですが私と仮契約されますか?」


 顔を上げたラプシェがおずおずと聞いてくる。


 なかなか進行早い感じだ。


 この辺りはやはりゲームキャラっぽい。リアルの人間ならもう一言二言会話を交わすところだろう。


 だがサービス開始直後ならこんなものだろうと新は納得した。


 というのも、ニューマノイドは成長するらしいのだ。


 それはステータス的なことだけではなく、プレイヤーと一緒に戦ったり、会話したり様々な経験をすることでニューマノイドの『心』が育っていくということらしい。


 AIに心があるのか? という根本的な疑問はここではひとまず置いておく。


 運営があるというのだから、とりあえずあると仮定して話を進めていこう。


 その運営が言うには、ニューマノイドには20ぐらいの種類があるらしい。


 そしてそれぞれに異なった性格が設定されている。


 仮契約直後にはそれぞれのテンプレートに沿った性格のままであり違いはない。


 しかし時が経つにつれて、一緒に過ごすプレイヤーの影響を受けたり、生活の中で様々なことを自然に学習することで、20種のテンプレートの枠に当てはまらない、固有の性格を獲得していくというのだ。


 まったく破格といっていい性能だった。


 この仕様を実現するために、SOHの制作会社はスーパーコンピューターの一部を借りているという噂もあるほどだ。


「あ、あの~? どうされます?」


 ラプシェの困ったような声で新は我に返る。彼女の顔を見つめたまま思わず物思いにふけってしまった。


 さてどうするか。


 この子は可愛らしいし、性格も悪くなさそうだ。 


 契約してもいいとは思うが………。


「えっと、もうちょっと他のニューマノイドも見てからにするよ」


 結局新はそう答えた。


「そうですか………」


 ラプシェは残念そうだ。その消沈した顔を見ていると胸が痛い。


 とりあえずこの娘を第一候補にしておこう、と新は心に決めるのであった。



今回はやや説明回


ラプシェちゃんは後でまた登場します 


イラストもありますのでお楽しみにd(*^v^*)b

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