第12話 居合
どうも様子がおかしい。
新は対戦相手のナギを見て思った。
まずおかしいのは一本勝負であるにもかかわらず、開始から今まで刀を抜いていないことだ。
明らかに怪しい。
さらに防戦一方で攻撃を返す様子もない。
紙一重でハルが繰り出す拳やパンチをよけるばかり。
防御に専念しているように見える。
そしてハルはすでに何とかナギから有効をもぎ取っている。
SOHの対戦には時間切れというものがないため、直接勝利につながるものではないが、それでも先手を取られているのはプレッシャーになるはずだ。
しかしナギとナギの指導者であるモフリンに焦った様子はない。
こういう時は何かあると思って間違いない。
いったん引くか?
だがハルは、
「ああああもう!! 避けるな!! 戦う気がないならじっとしてなさいよ白コート!!」
攻撃がなかなか当たらないためにイライラし、攻めダルマになっている。
こういうときのハルは新の声が耳に入らないことが多い。
ならハルの好きに攻めさせるか?
でもどうも怪しいんだよなあ………。
新が判断を迷っていたその時だった。
「っ!」
ハルの攻撃にナギが前蹴りを合わせてきたのだ。
踏み込もうとしたその足に蹴りを入れられ一瞬ハルの動きが止まった。
その彼女の横っ面を鞘に入ったままの刀が叩く。
有効!
システムが判定をコール。
「このっ!!!」
頭に血が上ったハルがやり返そうとさらに一歩を踏み込む。
刹那、今まで刀の柄にさえ触っていなかったナギが鯉口を切り抜刀の態勢に入った。
そうかナギは!
「ハル! 距離を」
しかし新の声は遅かった。
いやナギが速すぎたのだ。
勝負はすでに決していた。
今だ鞘に入ったままだったはずの太刀が振り抜かれていた。
陽光にきらめくその軌跡はハルの左脇から右肩を寸断していた。
超高速の剣撃。
居合いだ。
一本! 勝負あり!!
かなり遅れてシステムがハルの敗北を告げた。
・・・・・・・・・・
「やられた………!」
戦闘が終了しリザルトを受け取った新は頭を抱える。
「ぬああああ!!! これだから一本勝負は嫌いなのよおお!!」
スマホに戻ってきたハルも悔しさのあまり頭を掻きむしっていた。
アップデート以降こいつは本当に分かりやすい感情表現をする。
「ふふふ~! リベンジ成功だね! 」
対するモフリンは見事なまでのドヤ顔。
「グッジョブだよナギ!!」
スマホの中の青年剣士に向けてサムズアップして見せる。
「お褒めに預かり光栄ですモフリン様。今後もご期待に応えられるよう精進いたします」
ナギは端正な顔に静かな微笑みを浮かべて一礼して見せた。
もっしゃもっしゃ髪を掻き回しているハルと並べると対照的な姿に見えたろう。
「しかし居合とはなあ。めっちゃ速かったな。前からあのスキル持ってたのか?」
苦笑いしながらの新の問いかけにモフリンはうなずいた。
「うん! この前は使う前に倒されちゃったけどね」
ニコニコ顔のJKはてへへ~と照れ笑い。
「刀を抜かず防御に徹していたのは、一発逆転を狙っていたからか」
あとは刀身を隠して回避しにくくするためというのもあるだろう。
抜かずにいれば当然のことながらその刀の攻撃範囲は分からない。
居合いの一番の長所は速さではなく、そこからどのような攻撃が来るか分からないことなのだ。
現にハルも反応すらできずに切られている。
居合いは刀身を抜く動作と切る動作が一緒になっているため極めて回避しにくいのだ。
その分限られたシチュエーションやタイミングでしか使えないという大きな欠点もある。
何しろ鞘に刀身を一旦納めなければ抜刀できないわけだから。
居合いがあると分かっていればその時点で警戒されるだろう。
最初から刀を抜かず、最後の決め手に居合いを使った今回はモフリンの策略にまんまとはまったというところか。
ほんとにやられたという感じだ。
今回はハルがどうこうというより新の対応が遅かったのが敗因だろう。
指導者もなかなか難しい。
「………さてと!」
いつまでも引きずるのは良くない。新は気持ちを切り替えるため声をあげるとモフリンに問いかけた。
「そろそろ俺はビーストハントに向かうつもりだけど、モフリンはどうするんだ?」
イベント開始からはや三日。
最近の新やアルパカは、一回もしくはHPの減り具合によっては三回程度一本勝負をした後ビースト・ハントに向かっている。
ビースト・ハント中は途中撤退するため経験値獲得やアイテムドロップは無い。
さりとてあのアホみたいな攻撃力を誇るビースト相手にそのままの状態で挑み続けるのも不安。
というわけで比較的HP消費が少ない一本勝負で経験値を補っているのだ。
消費した分のHPは、イベント開始以降毎日ログインボーナスでスタミナンが配布されているので、それをニューマノイドに飲ませ回復力をUPし移動中の時間経過で癒している。
スタミナンの場合上位回復薬のDXと違い、時間経過によるHP回復速度がアップするだけなので必ずしもHP満タンでビーストに挑めるわけではないが、無いよりずっとましだ。
というかログインボーナスで毎日スタミナンを配布するなら事前に告知しておいてほしいものだと新は思う。
それによってイベント戦略がかなり違ってくるのだから。
アルパカなどは運営の不手際だとかなり怒っていた。
「モフリンは今日これから友達と遊びにいくんだよ。だからビースト・ハントはお休み~」
新の問いにモフリンが弾んだ声で答えていた。
彼女は部活に遊びになかなか忙しいようだ。
聞けば遊びに行くのはミナミやアイカとは別の友人らしい。
快活で明るい性格だし、人懐こいモフリンは学校でもきっと人気者なのだろう。
リア充だな、と新は眩しそうに彼女を見つめる。
一方それをどう思ったものかモフリンは少し慌てた。
「でもイベントはクリアするつもりだよ! ね、ナギ?」
スマホに話しかける彼女に褐色肌に黒髪のイケメンは恭しく腰を折る。
「モフリン様がそうお望みになるのなら、このナギ、粉骨砕身全力で挑む所存です」
「固いよナギ~」
いつまでたっても堅苦しい己のニューマノイドにモフリンは苦笑。
ため口で話せとは言わないが、もう少しナギにはやわらかくなって欲しいと思う彼女であった。
というわけでナギとハルの再戦をお送りしました!
居合ってかっこいいよね(〃'∇'〃)
居合というと私は真っ先に人斬り抜刀斎さんを思い浮かべるのですが、皆さんはどうでしょう?
皆さんがどんな想像をしながら居合のシーンをお読みになったのか興味深いですね
さて次回の予告ですが、今回はサブタイトルだけお伝えしましょう
サブタイトルは「ショッピングモール」です!
さあショッピングモールでいったい何があるんでしょうか?
乞うご期待ですよd(*^v^*)b




