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第10話 魔法少女あーや

 ちゃんちゃちゃんちゃちゃんちゃんちゃん~♪


 戦闘開始直前突然軽快な音楽が流れだした。


 その音楽とともにピンクを基調としたフリフリの衣装を着たピンクブロンドのツインテール少女が3DCGで構成されたリアルな緑風公園のバトルフィールドに召喚される。


 田中の本気宣言直後。新たちは順番に田中さんと戦うことになった。


 ちなみにスタミナンの配布は全員が丁重に断っていた。


 それはともかくバトルフィールドである。


 少女は完全に姿を現すとフリルだらけのスカートを翻してくるりんと可憐にターンし、Vサインにした左手を左目にあて、右手に持ったキラキラした幼女向けアニメの変身ステッキのような短杖をビシッとハルに向けて言った。


 ドデデデン!!


「無敵に素敵な魔法少女マジカルあーや! 今日もかわゆくバトっちゃうぞ~!!」


 そこでちょうど音楽が終わり「ああやあああああ!!!ふうっふうっ!!」と田中が合いの手を入れる。


 音楽も田中が別ウィンドウで流していたらしい。


 抜群のコンビネーションであった。


「………あらた


「………なんだ?」


 ハルは新を振り返ると深刻そうな表情で言った。


「あたしも何かやったほうがいい?!」


 新は頭痛をこらえる顔で答える。


「いや、やらなくていいから。戦闘に集中しろ」


「う、うん」


 彼女は明らかに動揺を抑えられない表情ながら、なんとかあーやに正対し拳を構えた。


 流石のハルも田中さんとあーやの独特のノリに呑まれているようだ。


 今回のバトルは一本勝負。


 意識を他のことにとらわれれば一瞬で勝負がつきかねない。


 田中とあーやにその気はないかもしれないが恐るべき盤外戦術であった。


 そして、


 Ready Fight!!


 戦いの開始を告げる音声が響き渡る。


 その瞬間またもハルの体が白っぽいオーラに包まれた。


 廃工場は暗かったので分かりやすかったが、明るい緑風公園ではかろうじてわかる程度のオーラだ。


 しかも2秒ほどで消えた。


 新は気づかなかったが、もしかしたらメンテ直後の戦闘でもこの現象が起きていたのかもしれない。


 いったい何なんだ?


 新が頭をひねる間に戦闘は開始されている。


「行くわよフリフリ!!」


 ハルが獲物を見つけた肉食獣の疾駆で魔法少女と間を詰める。


「やだあ! ちゃんとあーやって呼んでよね!!」


 あーやはくねくねしながら魔法のステッキをハルに向ける。


「っ!! ハルよけろ!!」


 何が起こるよりも先に新が叫ぶ。


「!!」


 ハルは即座に反応して公園の石畳に伏せるような態勢になる。


 その頭上をかすめるように光線が一閃した。


「………へえ。マジカルビームを初見で避けるなんてやるでござるな」


 VRゴーグルに隠されていない唇をにやりと歪めて田中さんが新の対応を賛辞した。


 しかし新は素直に受ける気になれない。


 なんて速度だ!


 あーやの放ったマジカルビームは見てからではほぼ回避不可能な程の速さ。


 光の速さとまでは言わないが、弓から放たれる矢よりかなり早い。


 しかも予備動作が杖を対象に向けるという一動作で隙がない。


 今新がハルに回避を指示できたのは、あーやの下の画面になんらかのストックを示すと思われる丸が五つ点灯していたからだ。


 新はそれを何かしらの飛び道具のストックと予想し、あーやがステッキをハルに向けた瞬間、回避をいち早く指示したのだった。


 もし指示が間に合っていなければ直撃していたかもしれない。


 そうなればこれは一本勝負。初撃で勝負ありの可能性もあった。


 まずは新のグッドジョブというところか。


 そしてハルはよけた態勢のまま四足獣のように猛然とあーやに突っ込んでいる。


 細い腰に抱き着くようにタックル!


「きゃっ!!」


 それはさすが予想外の行動だったかもろに食らったあーやが背中から地面に打ち付けられる。


 有効!


 システムが判定を下す音声。


 ハルはあーやにのしかかり顔面に拳の雨を降らそうとする。


 その時だった。


 トン。


 仰向けになったあーやの手のひらが、ごく軽くハルのプロテクターに包まれた胸に押し当てられた。


 ドキュッ!


 その瞬間ハルの背中に細い光の柱が立ち上がった。


 いや違う。


 それはあーやのマジカルビームだ。


 あーやが手のひらから放ったマジカルビームがハルの胸を突き抜けたのだ。


「なっ?!」


 呆気にとられる新の前で、


 一本!! You Lose!!


 システムが冷徹にハルの敗北を告げた。



・・・・・・・・・・



「ちょっ!! 私の負けえ?!」


 新のスマホに戻ってきたハルが納得いかないというように語尾を跳ね上げる。


「くそっ!」


 新もあっという間の敗北に悔しさを隠せず毒づいた。


 まさかステッキを持ってないほうの手でもビームを放てるとは思ってもいなかったのだ。


 いっぽう田中は余裕綽々だ。


「ふふふ。あーやに一本勝負の初戦で勝つのはまず無理でござるよ。ましてやARATA殿とハル殿は魔法使いとは初めての対戦でござろう? なおさらですぞ」


 田中の言う通りだ。


 中距離ではマジカルビーム、そして近接戦闘でもマジカルビーム。


 事前情報や対戦経験がなければ打つ手無しだろう。


「強すぎる………!!」


 思わず唇を噛みしめる新だが田中はたれ気味の目を見開いて、いやいやと両手を横に振って見せる。

 

「そうでもないでござるよ。確かに一本勝負では強いでござるが、フルバトルでは勝つのにかなりの工夫が必要でござる。魔法はストックが5つしかないでござるから」


 田中はにこにこ微笑みながら魔法使いについて解説する。


「一応戦闘中に使ったストックは徐々に回復するでござるがあまりあてにならないでござる」


 なるほどつまりその5つをどう使うかが魔法使い運用のミソというわけか。


 そんなに万能というわけでもないらしい。


 新の納得顔に田中は満足そうにうなずく。


「これはまだ考察中でござるが、ニューマノイドにはそれぞれ相性があるのでござるよ」


 田中の解説は続く。


「例えば弓矢使いはフルバトルで勝つのは難しいでござるが、魔法使い同様一本勝負には強いでござる」


「逆にハル殿のような近接戦闘系は一本勝負では分が悪いでござるが、フルバトルでは矢の本数制限があり近接戦に弱点のある弓矢使いに対してかなりのアドバンテージがあるでござる」


 新は田中の戦闘講座をフムフムとうなずきながら聞いている。


 新自身なんとなく思っていたことを田中が整理してくれているようだった。


「まあそれをスキルや装備、そして何より戦術で補って勝利するのがSOHのバトルの醍醐味なのですがな」


 はっはっはっ! 田中は朗らかに笑って講座を締めた。


「なるほど。ためになったよありがとう」


 新も笑顔で礼を言った。


 田中はわざわざ自分の弱点になるかもしれないことを説明してくれたのだ。


 それだけ自信があるということだろう。


「というか田中さん。あーやは何LVなんだ? 一発当てられただけでかなり削られたんだが」


「ん? あーやのレベルでござるか?」


 そう言って田中が教えてくれたのはハルを10以上上回るレベルだった。


「はあ?! この短期間にどうやってそんなLVに」


 新も周囲で聞いていたアルパカたちも驚愕する中、田中は何でもないことのように言う。


「それはもちろん各地のバトルエリアをめぐってフルバトルを繰り返しているからでござるよ」


「え? でもそれじゃあHPが………、あっ!」


 言いかけたアルパカが途中でその理由に気づく。


 新にも分かった。


「スタミナンDXで減ったHPを全回復させてるのか!」


「その通り!」


 田中は何故かどや顔。


 なるほどそのためにスタミナンを大量所持していたのか。


 SOHに本気という言葉は伊達ではなかったらしい。


 リアルに高価なスタミナンDXを惜しみなく使う田中は間違いなく重課金以上のガチプレイヤーだ。


「うーん。モフリンは課金はなあ~」


 JKプレイヤーは苦笑気味。お小遣いでもろもろの費用を賄っているので課金は厳しいらしい。


 この間のセーラーガチャで資金力を使ってしまったアルパカ、無課金勢の新も渋い顔だ。


 そんな反応をされても田中は穏やかな表情だ。


 何か悟りを開いてるようにさえ見える。


「誰もが課金をする必要はないでござるよ。ゲームにはそれぞれ楽しみ方があるでござるからな」


 しかしそこで田中の表情が引き締まる。


「でも拙者にとってこのSOHはゲームを超えた意味があるでござるから」


 スマホを掲げ戦士の表情で男は言う。


「SOHのランキング上位者が出場できるという一年後のトーナメント戦SOHウォー。そこで優勝したニューマノイドは『本当の人間』にしてもらえる」


 スマホにあーやの姿が映る。田中はその姿に誓うように宣言した。


「拙者はあーやを必ず人間にするでござる!!」


「きゃあああ!!!タナチンかっこいい~~~!!!」


 スマホの中から黄色い歓声が上がった。


 いや、というかタナチン?


 一斉に首をひねる新達の前で田中はスマホを抱きしめるように見つめる。


「あーやん! 一緒に勝ち上がるでござるよ!!」


「うん♡ あーやん人間になったらタナチンのお嫁さんになるね♡」


 その瞬間タナチンこと田中の目から涙がドバーっと滝のように流れだした。


「あーやん! 拙者涙がちょちょぎれるでござる!! 嬉しすぎるでござる!!」


「やーん♡ 泣かないで♡」


 ハートマークが田中とあーやの間を乱舞しています。


「えーと、そうだ! SAIはやっぱりイベントには参加しないのか?」


 なにやら新達そっちのけでイチャコラしだした田中たちはとりあえず放置して、新はSAIに気になっていたことを聞く。


 SAIの表情が硬くこわばった気がした。


「ああ。ラプシェを死なせる可能性のあるイベントに参加するつもりはない」


 抗議めいた声は意外なところから上がった。


 SAIの手元のスマホだ。


「マスター! 私は………!」


 しかし、


「ラプシェこれは私が決めたことだ」


 ニューマノイドの言葉をSAIの有無を言わせぬ重い声が押しつぶす。


 ラプシェにはこう言うしかなかった。


「はい………」


・・・・・・・・・・


 あーやのイラスト


挿絵(By みてみん)

マジカルビーム!!


というわけで魔法使いとの戦闘でした


いかがでしたでしょうか?


一本勝負ではしばしばあることですがあっさり負けちゃいましたね


そして田中さんのSOH、というかあーやに対する熱い情熱も垣間見れたかと思います


田中さんもあーやも癖の強いキャラですが、どうか応援よろしくお願いしますm(__)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] テンポ良く試合が進み、しかもダラダラ長引かない。 今までの戦闘シーンのなかで一番面白い。 あーやのキャラクターデザインが際立っているのは、作者・読者ともにこういうキャラクターを求めていたか…
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