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第1話 メンテナンス

第1話 『メンテナンス』


 時間は少し巻き戻る。


 シンギュラリティー・オブ・ハーツは仮契約期間終了直後から、メンテナンス・アップデート期間に突入していた。


 SOHのようなスマホゲームにおけるメンテナンス・アップデートとは、文字通りメンテナンス前のもろもろのバグや不具合や間違い等を修正したり、新しい情報を入力して内容をバージョンアップしたりすることだ。


 今回のメンテナンス・アップデート期間は5日。


 スマホゲームでは異例と言える長期メンテナンスであった。


 メンテ中はもちろんゲームは出来ない。


 SOHを起動しても『シンギュラリティー・オブ・ハーツは現在メンテナンス・アップデート中です』というメッセージが表示されるだけで、プレイできなくなっていた。


「はあ………」


 アパートの自分の部屋。新はその文字を見て思わず小さく息を吐いた。


 すでに四日お預けを食らっている。


 待ち遠しい。


 ハルと本契約した直後だったので、早くプレイしたいという気持ちが強かった。


 あいつ今何してんだろうな。


 なんとなくそんなことを思う。


 思い受かべるのはライオンのたてがみのような金髪を長く伸ばした強気な瞳の少女の姿。


 ハルはゲームキャラクターなのだから何してるも何もなかろうとも思うのだが、SOHのニューマノイドは本当にリアルで、こうしている間もあいつなりに生活してるんじゃないかという気がしてくるのだ。


 もしそうだとしたらあいつはどんな生活をしてるだろうか? と新は想像を巡らせてみる。


 活発なあいつのことだから、やはり蹴りやパンチの練習だろうか?


 それとも自分が見ていない時は意外とものぐさで、あの四畳半のハルのマイルームで畳の上をゴロゴロ転がっているとか? 


 それも意外とありそうだな、と新は一人笑う。


「早くプレイしたいな………」


 自然とそんな言葉が漏れる。


「緑風公園行くか………」


 他のゲームをプレイする気にもなれず、新はいつもの仲間が集まるたまり場に向かうことにした。



・・・・・・・・・・



「おう」


「ARATAも来たのか」


 公園に行くとSAIが所在無げにベンチでスマホをいじっていた。


 スマホから顔を上げたイケメンはVRサングラスの奥の目を細めて嬉しそうに笑う。


 暇人仲間を見つけて嬉しいのだろう。


「何もメンテ中まで来なくてもいいだろうに」


 SAIの隣に座りながらからかい半分に言うと、


「お前には言われたくないな」


 彼も笑ったまま新を拳で軽く小突いてくる。


 なんだよこのやろう、なにを~としばらく男同士でいちゃついていると、虚しい気分になったのでベンチに体を預けて空を見上げた。


「暇だな………」


「ああ………」


 見上げた空は、雲一つない。


 絶好のSOH日和なのだが今はメンテ中。


 なんとなく話すことも無くて二人でボーっとする。


 日差しは暖かく気持ちいい。


 このまま昼寝でもするか?


 そんなことを考えていたその時。


「ち~~~~っすd(*^v^*)b」


 上下逆さまの顔が突然視界に入ってきた。


「おわっ?!」


 思わず飛び起きる新が無意識に放った形のヘッドバッドを「おっと!」と俊敏に回避して、前に回り込んだその人物はにへへと無邪気な笑顔を見せた。


「YEAR! サプライズ成功!!」


 ブイッ! とピースサインを見せてくるのは、部活のものらしい大きなバッグを肩にかけブレザーを身にまとった女子高生だった。


 誰? と言いかけて、そういえばと新は思い出す。


「君はいつもここに来てる女子高生三人組の中にいた………」


「そうそう! モフリンでーす!」


 すちゃ! と敬礼するモフリン。


 彼女は首の半ばくらいまでの長さの髪を赤茶色っぽく染め、ふわふわのパーマをかけた垢抜けた少女だった。


 前髪の長さは太めの眉の上あたり。


 その下では人懐こい子犬の様な大きな瞳がキラキラと輝いていた。


 身長は女子の平均より少し上くらいか。


 チェック柄のスカートからは長くすらりとした両足が伸びていた。


 そんな彼女は続けて、


「とはいっても仮契約期間中は部活であんまり来てなかったんだけどね」


 テヘペロと舌を出す。


 アクションがいちいち大げさで表情が豊かな娘だなと新は思った。


「でもこれからしばらくの間は来れそうだから、SOHのお仲間に挨拶でもと思って!」


「ああ。なるほど」


 SOHにおいてこういうコミュニケーションは大事だ。


 なにしろ直接会って対戦申請をし、承諾してもらわないと対戦できない仕様なのだから。


 こうして挨拶をしておけば次に会った時話しやすいし、対戦も受けてもらいやすくなるだろう。


 隣のやつに見習わせてやりたい対人スキルだった。


 このカチコチに固まってさっきから脂汗流している金髪グラサンに。


 最近はアルパカとも少しずつ話せるようになっていたようだし、こいつの人見知りも少しはましになったかと思っていたのだが。


「そういうわけで、明日からよろしくね! そっちのグラサンの人も!」


 モフリンはSAIにも挨拶してくれるが、SAIは「ああ………」と死にかけの蚊の羽音のような声で答えるだけ。

 

 しかしモフリンは気を悪くしたふうもなく、太陽のように明るい笑顔で手を振り颯爽と去っていった。


 よくできた娘さんであった。


「………SAI」


「分かっている皆まで言うな」


 新が目を向けるとSAIはすでに顔を明後日の方向に向けていた。


 明日からメンテ明けで再びSOHが始まる。


 しかし彼の前途はなかなか多難なようだった。


というわけで早くも新キャラ登場です! 


イラストも用意してあるんですが、それは本格登場の回にお披露目しようかと思います


これからの物語ともども新イラストもお楽しみに~d(*^v^*)b

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