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第32話 ライバル

 接戦の末辛うじて勝利を掴んだ新とハルの(パール)


 初めてSAIとラプシェに勝ったことを喜ぶ新とハルの一方で、敗れた者達は悔しさを噛み締めていた。


「すみません負けちゃいました………」


 スマホに帰ってきたラプシェが申し訳なさそうに頭を下げる。


 フードに付いた猫耳までがぺたりと伏せている。


 SAIは横に首を振った。


「いいや。ラプシェはよくやってくれた。謝ることなど何もないさ」


 己の相棒をそう慰めると、SAIは勝者に歩み寄った。


「見事だったよARATA。今回は我々の負けだ」


 潔く告げて口元をほころばせる爽やかイケメンに新も笑顔を向ける。


「ありがとう。ギリギリの勝負だった」


 そう言いながら新は心底思う。


 本当にギリギリだった。


 もう一撃ラプシェの攻撃が掠りでもすれば新達は負けていたのだ。


「本当にすごい接戦でしたね! 見ていて手に汗握りました!」


 観戦していたアルパカもベンチから立ち上がって二人に加わる。


 彼女は興奮したように顔を赤らめて両手を胸の前で握りぶんぶんと振り回していた。


 子供っぽい動作だが、観戦の興奮は伝わってくる。


「………しかし驚いたよ。最後のEXスキル連発は」


 SAIがサングラス型VRグラスの位置を指で直しながら語る。


「あの時点でメンタルゲージが二発分くらいは溜まっているだろうとは踏んでいたが、技後硬直があんなに短いとは予想外だった」


 EXスキルは強力な分、放った後に技後硬直による隙が出来る。


 しかし確かにどっかんハンマーに比べフォース・フィストの技後硬直は短かった。


 だからハルはラプシェが動く前に二発目のフォース・フィストを放つことが出来たのだ。


「いや実はフォース・フィストの技後硬直時間なんて俺は知らなかったんだ」


 新はバツが悪そうに苦笑し、正直に打ち明ける。


 これにはSAIとアルパカも目を丸くした。


「そうなのか? だが『勝つのは俺達だ!』とまで言ってたじゃないか」


「あれはハルならあの状況でもなんとかできると思って………」


「あんたね………」


 スマホの中から話を聞いていたらしいハルが呆れたような声を上げる。


「本当に馬鹿なんじゃないの?」


「うっさいな。それよりお前こそよくフォース・フィストを連続で出したよな。メンタルゲージが溜まってたのが分かってたのか?」


 眉をしかめつつ尋ねる新にハルはツンとそっぽを向きながら答えた。


「あの状況から勝つにはもう一度フォース・フィストを打つしかなかっただけよ。あたしにはHPゲージもメンタルゲージも見えないし」


「え? 見えないのか?」


「そうよ。まあHPゲージの方はなんとなくは分かるけどね。これまでの経験からこれ以上ダメージを食らったらやばいくらいは」


「へえ~」


 新とハルの会話にSAIは顔をしかめ、アルパカは苦笑している。


 ゲームキャラクター自身のメタ発言に思うところがあるらしい。


 ラプシェやカルマはハルのようにあっけらかんとゲーム内のあれこれを話さないのかもしれない。


「とにかくあんたが自信満々に勝つのは俺達だなんて言うから、勝てる技を打っただけよ。分かった?」


「ああ、分かった」


 実はものすごいギャンブルだったことが分かった。


 もう少し技後硬直が長ければ負けていたし、ハルが他の通常スキルを選択していてもラプシェのHPが残って負けていただろう。


 まさに紙一重の勝利。


 しかしライオン娘はそんなことお構いなしのようだった。


「まああんたに諦めるな、なんて言われなくてもあたしは諦めたりしないけどね!」


 ニッと不敵な笑みを浮かべて偉そうに腰に手を当てふんぞり返るハル。


 その調子こいた顔にイラッとしないでもないが、今日は文句を言うのはやめておこう。


 何故なら新もとてもいい気分なのだから。


 一方SAIは二人の行動の意味に気づいて驚いていた。


『ハルならあの状況でもなんとかできると思って………』


『あんたが自信満々に勝つのは俺達だなんて言うから、勝てる技を打っただけよ』


 それはつまり、あのギリギリの局面で新はハルを信じ、ハルもまた新の言葉を信じたということではないのか。


 もしそうだとすれば………


「………!」


 SAIの体を得体のしれない戦慄が走り抜ける。


 心臓が早鐘を打つ。


 口元のニヤニヤ笑いが治まらない。


 楽しい。


 いやこれはワクワクしていると言った方がいいか。


 とにかく次の新との対戦が楽しみで仕方ない。


「新。改めて素晴らしい戦いだった」


 SAIは沸き立つ気持ちを感じながら新に手を差し出した。


 ニイッとその唇が挑戦的な笑みを形作る。


「だが、今度は我々が勝つ!」


 SAIの宣言に新は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐにSAIと同質の笑みを浮かべて彼の手を握り返した。


 すぐに手は離れ、次にはゴン! と拳をぶつけ合う。


「いいや! 今度も俺達が勝つ!」


 ………この日この瞬間のことを新とSAIは何度も思い出すことになる。


 それは二人がお互いをライバルと認め合った瞬間だった。


「いいなあグータッチ。私も混ざりたい」


 その光景を見ていたアルパカは小声で呟く。


「混ざればいいじゃないか」


 彼女のスマホからはどうでもよさそうなカルマの声。


「いやあ………。あの間に入っていく勇気は無いよ。なんか男の世界って感じだし」


 カルマはため息をついて見せた。


「あのねえ。君は何のためにSOHを始めたんだい?」


「うっ………」


 痛いところを突かれたらしくアルパカがうめく。


「それに僕にはよく分からないけど君達は仲間なんでしょ? 仲間ってのはそうやって傍観してる人間のことを言うのかい?」


 心底不思議そうに聞かれてアルパカは長いまつ毛をしばたたかせた。


 そしてふっと苦笑する。


「だね」


 大きな胸を張ってうーんと伸びをした彼女は頭を切り替えるように頬をわしわし撫でた。


「じゃあちょっと混ざってきますか!」


 勢いをつけるように言うとアルパカは新とSAIの間に加わる。


「二人だけ仲良くなっちゃってずるいですよ!」


 ぽーんと馴れ馴れしく新の肩を叩く。


「ARATAさん! 明日! 明日は私と対戦してください! もちろんフルバトルですよ?」


「お、おう! もちろん!」


「では私は一本勝負か。対策を立てなくてはな」


「えー。SAIさんはいいんじゃないですか? ちょっとお休みしましょうよ」


「何故だ?!」


 愕然としたSAIの表情に新とアルパカが笑う。


 三人の輪の中にやがて騒がしく明るい笑声が弾けるのだった。


戦闘後のあれこれでした ライバルっていいよね( ^ω^)


次回はSOH第一章最終話になります


ついに訪れた仮契約の期限 果たして新はハルと本契約するのか?


どうぞお見逃しなくd(*^v^*)b

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