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第29話 彼の、彼女の

 夜になった。


 七花が帰った後、新は昨日と同じようにスマホを台座に置き、座布団に腰を落ち着けた。


 ペットボトルは用意していない。


 長引かせるつもりはないし、もし長引けばハルを説得する機会はもう二度と訪れないだろうと分かっていた。


 スマホを起動する。


 SOHを起動した。


 ホーム画面に、青灰色のボディースーツに細身の体を包み、長い金髪を背中にたらした勝気な瞳の少女が現れる。


 新は息を吸い込んだ。


 少しの間の後言葉とともに吐き出す。


「ハル。昨日は怒鳴ったりして悪かった。もう一度話し合おう」


 穏やかな声音を心掛けたつもりだった。


 しかしハルは新を一瞥しただけで顔を横に向けた。


「あんたと話すことなんてもう何もないわ」


 これだ。


 この拒絶。


 新は嫌だった。


 こんな風に眼前で扉をピシャリと閉じるみたいに拒絶されるのは。


 誰だって嫌だろう。


 思えばこれをこそ恐れて新はハルと今までろくに会話をしてこなかったのだ。


 しかし、もう致命的な衝突は起こった。


 そして新はハルの気持ちの一端を知った。


 もはや恐ろしいからと、嫌だからと、扉の前から逃げることは新にはできなかった。


「俺はお前と話したい」


 新は辛抱強く言った。


 ライオンのたてがみの様な金髪は振り返らない。


 ただスマートフォンは、その時彼女が漏らした小さな呟きを逃さず出力した。


 それはこう言っていたのだ。


「………どうせあんたはあたしのことが嫌いなんでしょ」


 その瞬間、新は理解した。そして気づいた。


 ハルが何も分かっていないことを。


 それも当然だった。


 新自身は伝えているつもりでも、その実何もはっきりと口にしていなかったのだ。


 それを彼は今やっと理解した。


 ならばやることは一つ!


「そんなわけないだろ!!」


 多少恥ずかしくても本心を伝える!


「俺がお前を嫌ってるわけないだろっ!!」


 新はガシッと両手でスマホスタンドを掴み叫ぶ。


 ハルが振り返った。


 その顔には戸惑い。


「え? でも………」


「でももへったくれもあるか!」


 新はハルの反論を許さずまくしたてる。


 もうこうなったら洗いざらいぶちまけるしかないと思った。


「俺はお前を気に入ってるんだ! お前の戦い方も性格も! そうじゃなかったらとっくにSOHなんてやめてるよ!」


 ハルの碧眼が大きく見開かれた。


 乏しい表情モーションからでも彼女が驚いていることが伝わってきた。


 ハルはやっぱり分かっていなかったのだ。


「でもあんた真っ直ぐ突っ込んでいくのをやめろって。それに指示を聞けって………」


「確かにそう言った。でもそれはお前の行動が嫌いって意味じゃない。俺は相手に恐れず突っ込んでいくお前の戦い方が好きなんだ」


「………………」



 ハルが黙りこくる。


 その顔はどんな表情をしていいか分からないというように、ぽかーんとしたものになっていた。


 新に言われたことがあまりに予想外で、ハルは呆然としているのだ。


 そんな彼女に新は、自分の胸の内を手探りするように見つめながら、少しずつ明かしていく。


「でもこのままじゃ勝てないんだよハル。ただ突っ込んでいくだけじゃ。だから俺はお前が勝てるように力を貸したい………、いや、一緒に戦いたいんだ」


 そうだ、と新は自らの口から出た思いに内心頷いた。


 俺はハルを思い通りに動かしたいんじゃない。


「一緒に………」


 ハルが新の言葉を噛み締めるように繰り返す。


 まるで幼子が初めて聞く言葉を繰り返すように。


「そうだ。協力するんだよ」


 新はそんなハルにゆっくり優しく説く。


 ニューマノイドの少女はしばらく黙っていた。


 何かを恐れるような逡巡。


 そして、ハルは戸惑いながらその一歩を踏み出した。


「………それはどうするの?」


 そう聞いた。


 新の相棒がやっと聞く耳を持ってくれたのだ。


 新は快哉を叫びたいのをぐっとこらえ、ずっと考えていたそのアイディアをハルに披露した。


「………という感じなんだが、どうだ?」


 感想を尋ねてみる。


 ハルの返答はこうだった。


「面白いわね………」


 どこか悔しそうにハルは新の策を評する。


 新にはそれで充分だった。


「だろ? ずっと考えてたんだ、俺達がどうやったら勝てるか。お前の前のめりの戦闘スタイルを壊さずにどう勝つか」


「ずっと………。それはこのゲームを起動してない時でも?」


「ああ」


「どうして?」


 その問いにはいろんな思いが詰まっている気がした。


 でも答えなんかとうに決まっていた。


「勝ちたいからだよ。お前と一緒に」


 ハルの瞳に少しずつ何かが宿り始めている気がした。


 3DCGが表現しきれない何かを新はそこに感じ取っていた。


 だからさらに言葉を連ねた。


「ハル、勝つために協力しよう。一人で戦うより二人で戦おう。二人でどうやったら勝てるか考えよう」


 ハルはじっと新の顔を見ていた。


 以前確かには認識できないと言っていた新の顔を、何か大切なものを探すように。


 そして、コクリ。頷いた。


「………っ!」


 新は声にならない声を上げた。


 続いて喜びを表現しようとした新を。「ただし!」とハルは厳しく制する。


「あんたの指示に全部従うわけじゃないわよ! あたしはあんたの指示を選択肢に入れるって言ってるだけなんだから! あんたの指示が間違ってるって思ったら無視するわよ?!」


「ああ! もちろんだ!」


 新は満足げに首肯した。


 やっとハルと一緒に一歩を踏み出せたと思う。


 それは彼にとって、とても嬉しいことだった。


「まずは明日ラプシェに勝つぞ!」


 新は未だ一勝もしていない宿敵の名を上げ宣言した。


 ハルは不敵な笑みを受かべる。


「当然よ!!」


 それは誇り高き獣の咆哮だった。


 かくしてライオンは目覚めたのだ。


というわけで新、ハルようやくスタートラインという感じです


遅すぎですね(⌒-⌒)


次回はラプシェ・SAI組との激闘をお送りします


ようやく一歩を踏み出したこの不器用なコンビを応援してやってください


SAI君とラプシェちゃんもねd(*^v^*)b

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