第24話 成長
シンギュラリティー・オブ・ハーツ、サービス開始から六日。
アルパカの相棒、カルマに一本背負いを食らって負けてから二日が経っていた。
その間、新とハルは連敗の泥沼にどっぷりとはまり込んでいた。
とにかく勝てない。
連敗中幾度か新はハルに指示を聞き入れるよう説得したのだが、彼女は頑として首を縦に振らなかった。
新もまたこれ以上もめるのが嫌で強くは言えなかった。
ハルもそれなりに考えて戦っているのは見ていればわかる。
しかし、いかんせん彼女は正直すぎた。
まず動きが直線的すぎる。
フェイントの一つも入れないのだから、いくら素早かろうが対戦相手の攻撃が当たるのは当たり前のことだった。
次に同様の理由で彼女の攻撃には対処もしやすい。
殴られると分かっていればカウンターも当てやすいし、攻撃も避け易い。
まさに今のハルは経験値稼ぎのいいカモであった。
そんな現状を少しでも打破しようと新は今まで見送っていたあることを実行する。
ついに貯めに貯めたスキルポイントとアビリティーポイントを使って、ハルを成長させることにしたのである。
・・・・・・・・・・
またもSAIとアルパカに惨敗を喫したSOHサービス開始から六日目。その夜。
新は自宅のちゃぶ台の前にどっかりと胡坐をかいていた。手にはスマホ。
「さてと………」
呟きまずはスマホの検索エンジンを立ち上げる。
アプリゲームやブラウザゲームでは何はともあれwikiを見ることである。
運営がもたらす情報の少なさをNET有志が集めてくれたデータで補うのだ。
というわけで新はシンギュラリティー・オブ・ハーツのwikiが出来ていないか探してみることにした。
「お、あったぞ」
割とすぐに見つけた。
SOHと打ち込んだら検索リストの一番上に出てきたのだ。
どうやらSOHという略称はすでにプレイヤーの間で浸透しているらしい。
リストには他にも、『今一番ホットなアプリゲーSOHをプレイしてみた』とか。
『SUGEEEEEE!! 俺の可愛過ぎるSOH嫁見て!!』とか。
『セーラーガチャを五万円分回してみた結果www』とか。
新の興味をそそるトピックがいろいろあった。
ページ数もすでにかなりの数ある。
一人のプレイヤーとは一日一回しか対戦できない、指定のバトルフィールドでしか戦えないなど、恐ろしく縛りの多いゲームなのに意外と人気があるのかもしれない。
そういえば結構大々的にプロモーションしてたよな、などと思いながら新はSOHのwikiを開く。
ゲーム内容紹介など、様々な項目が並ぶサイト目次から『スキルについて』というリンクをクリックしてみる。
と、その前にまずハルが持つスキルを見てみよう。
ハル所持スキル
トランクスキル
蹴撃 LV1 / 拳撃 LV1 / 防御 LV1 / 回避 LV1
wikiによると、このトランクスキルというのは、スキルの基礎となるスキルのことらしい。
Trunk(幹)というわけだ。
もちろんこれだけではなくもっと多くのトランクスキルが存在する。
例えばカルマなら弓術のトランクスキルを持っているだろう。
それらのトランクスキルのLVをスキルポイント(以下SP)を消費して上げることで、拳撃ならパンチ系の攻撃の成功率が、防御なら盾やガントレットによる防御の成功率が上がる。
そしてトランクスキルを基礎として習得できるのがブランチ(枝)スキルだ。
拳撃をトランクスキルとして正拳突きを、蹴撃をトランクスキルとして回し蹴りを、というようにブランチスキルはより細分化した技を習得できる。
ではパンチやキックといった技の総合スキルである蹴撃や拳撃を上げて行った方が、いいのではないか? と思う人もいるだろう。
実際ブランチスキルはその技、………例えば回し蹴りなら回し蹴りにしか使えないスキルだ。
比べて蹴撃は、回し蹴りはもちろん、ローリングソバットやドロップキックといった技にも使うことが出来る。
応用力があるわけだ。
しかしトランクスキルには一つ大きな問題点がある。
トランクスキルはブランチスキルに比べてレベルアップに大量のSPを消費するのだ。
そういうわけでwikiには『自分の持ちキャラが得意とするブランチスキルをいろいろとっていった方が相対的に早く戦闘力が上がる』と書いてあった。
「ならまずはトランクスキルをある程度まで上げて、残ったスキルポイントをブランチに注ぐか」
スマホを手に取りSOHを起動すると育成タブをタップし新はスキルポイントを割り振っていく。
とりあえず今ハルが持っているトランクスキルを全て5LVまで上げた。
「さてどんなブランチスキルを取るかな………」
ハルが良く使う技というと走った勢いのまま相手を拳でぶん殴るというものだが、それっぽいブランチスキルはリストに無かった。
某格ゲーでいうならバーン○ックルが一番近いがもちろんそれも無い。
「とりあえず正拳突きを取っとくか」
新はトランクスキルの拳撃からブランチを伸ばし、正拳突きを取得する。
ブランチスキルは、トランクスキルの現LVである5から始めることが出来た。
トランクスキルが基礎になるというのはこういう意味かと思いながら、新はSPを使い正拳突きをLV8まで上げる。
さらに蹴撃のブランチであるドロップキックと、防御のブランチである武器弾きもそれぞれLV7で取得した。
ドロップキックはカルマとの初戦でSOH初勝利を飾った時の決め技だ。
印象深かったので取ることにした。
そして武器弾きは、ラプシェとの初戦で、ハルが彼女のハンマーを弾いた時に見せた技だろう。
あれ以来ハルは何度かラプシェのハンマーを拳で(というかグローブで)弾こうとしていたのだが、一度も成功していなかった。
それもそのはず。
今までハルはトランクの防御スキルLV1で武器を弾こうとしていたのだ。
失敗するのはむしろ道理であった。
それを今回一気にブランチスキルとしてLV7で所得したわけだから、今までより格段に成功率が上がるはずだ。
正直新は楽しみだった。
「おっとそうだハルの意見も聞いてやらないとな」
新は思い立ってホーム画面のハルに話しかける。
今日行った強化を説明した。
「どうだ? 強くなった感じするか?」
「うーん………」
ハルは自分の体を見回すとキッパリと言った。
「特にそんな感じはしないわね」
「そ、そうか」
まあゲーム内のニューマがスキルアップでの強化を実感できるとは新も思っていなかった。
実感できるとしたら強化した能力で勝利を収めたその瞬間だろう。
「ハルは何かとりたいスキルとかあるか? もう貯めてたスキルポイントは使っちゃったが今後の参考にする」
新に問われハルは腕を組んで首をひねった。
表情はなぜか仏頂面。ちょっと今のシチュエーションに合っていない。
もしかしたら考え込む顔というのはまだ実装されていないのかもしれない。
「そうねえ。だいたいはあんたが強化した感じでいいと思うけど………、あ、そうだわ!」
ハルは不意に何か思いついたようで勢い込んで新を見つめてきた。
「投げ技は取りたいわね! この間はあの根暗に投げ技でやられたし! 今度はあたしがあいつをぶん投げてやりたいわ!!」
根暗とはカルマのことだろうか? 新は苦笑しつつ。
「お前ほんと負けず嫌いだよな。よし、分かった。投げ技を取ろう」
「え? スキルポイントはもう無くなったんじゃないの?」
「アビリティーポイントは丸々残ってるからな。まず『投げ技の才能』をとっておく。そうすれば投げ技のトランクスキルがLV1になる」
そこで新は言葉を切りハルを見据えて真剣な声音を作った。
「でも所詮はレベル1だからな。まだなるべく投げ技は使うなよ?」
「ふん! 分かってるわよ!」
偉そうに答えたハルはそこで表情を酷薄なものに変えた。
「くくく! あたしの投げ技で根暗が惨めに這いつくばる姿が楽しみね………」
悪い顔というよりは行き過ぎた悪鬼のような表情でそうつぶやくハルを見ながら、もうちょっと表情バリエーションは増えた方がいいなと思う新であった。
というわけでやっとハルを成長させた新でした
慎重派ですねえ たぶんLVUPした時にしかスキルポイントがもらえないゲームで痛い目にあってますね彼は
さて次はニューマノイドのステータスに関するお話になります
キーワードはタレントです
お楽しみに~d(*^v^*)b




